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13 バルコニーにて


 毎日、蒸し蒸しと暑い日が続いてますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

暑さに負けてるルイーゼです。ほかにも、いろいろ負けてる気がします。




 こんなことなら、さっさと湖畔の避暑地に行けば良かった。


あれから、アランとは顔を合わせていない。私はまだ気持ちが整理できない状態だし、お互い顔を合わせづらいのだ。



 ねんざはだいぶ良くなった。

車いすに乗ってばかりじゃなく歩くようにと医師に言われたので、朝涼しいうちにバルコニーの手すりをもって歩く練習をしている。


前世に聞いた話によると、筋肉って、一日使わないと筋肉の萎縮が始まり、一日あたり1~5%の筋力が失われるというデータもあるとか。


痛めた所を長期間動かさないでいると、患部の周辺の筋肉が衰え、関節部分も硬直して、曲げたり伸ばしたりしづらくなるのだ。


前世、片足を骨折した友達が一ヶ月後ギブスを取ったら、使わなかった足の筋肉が落ちて左右の足の太さが変わっていてビックリしたことがあった。


リハビリ、大事。

ということで、せっせとリハビリを頑張る私である。





 今朝もバルコニーを歩いていると、晴れ晴れとした顔のエディお兄様がやってきた。

朝早くから、ご苦労なことだ。


「お姫様、良かったらエスコートする栄誉を与えてくれるかな?」


そう言うと、ルイーゼの手を取ってくれた。

リハビリのエスコートだけど、いいのか? ワトソン君。

いぶかしげに顔をみると、何を思ったのかニッコリと微笑み返した。


おおう、笑顔がまぶしい。お兄様は、蒸し暑くても爽やかな男だ。



 今日はダリアさんのお屋敷でイレーヌさんと会う予定。

お兄様ったら、それに付き添おうと思ってるらしい。


「だって、お姫様一人じゃ心配でしょう?」

私に甘々なお兄様、私のことがよほど心配なのね。


だが、キッパリと断わる。子供じゃないから、ひとりで大丈夫。


「女性だけの集まりですので、ご遠慮下さいませ」



「え~と、ルー、カッとしても女性に手をあげちゃダメだからね?」

お兄様が心配そうな顔をする。


ワトソン君め、私のことを信用してないな。

しかも、心配なのは私じゃなく相手の女性のようだ。


反論しようとして、バルコニーの手すりに力を入れたら、手すりがガシャンと崩れて落ちた。

落ちた手すりが地面に当たって大きく跳ねた。


バルコニーの下に落ちそうになったルイーゼの体を、エディお兄様が片腕でぎゅっと抱き寄せた。

危なかった。お兄様が居なかったら、私はバルコニーの下に落ちていた。


側にいたマリーが真っ青な顔をしている。


「お兄様、やっぱりわたくし命を狙われてるのかも?」

声が震える。


「ルー、危なかったね。大丈夫だよ。落ち着いて考えてみて? ここは2階。この高さだから落ちても死なない。怪我をするかも知れないけどね」


お兄様がなだめるように、そっと私の背中をなでる。


「ルー、この屋敷は築何年でしょう?」

なぜ、ここでクイズ?


「築二百年とちょっと?」

「そう、老朽化だよ」


確かに、築二百年以上経った建物だ。老朽化してたのだろう。

使用人が点検しているが、見過ごされたところがあったのだろうか?


「怖かったわ。セバスに言って他は大丈夫か点検してもらわないと」






――その時、アランの部屋のカーテンがチラッと動いた気がした。





 アランはこのあと街道の整備のためオーガス子爵家の領地へ向かった。

しばらく帰って来ないそうだ。

ここのところ忙しかったのは、この仕事のせいだったらしい。


私には何も言わずに出かけた。顔も見なかった。全部、セバスからの報告である。







**





 午後から、馬車でダリアさんのお屋敷に向かう。

もちろん、お兄様は置いてきた。



ダリアさんのお屋敷は大商人の家らしく豪華でモダンな新しい建物だった。

きっと老朽化とは無縁だ。バルコニーの手すりが落ちたりしないのだ。


少し早かったのか、まだイレーヌさんは来ていない。



ダリアさんに、先にお茶を勧められる。

フレーバーティだ。ふんわりと花の香りがする。


「最近、アラン様はどうしてらっしゃるの?」



「街道の整備のためオーガス子爵家の領地へ行っておりますわ」


ヤツめ、妻に何も言わずに、今朝出かけましたの。



「いよいよ、街道整備が済んで開港しますのね!」

ダリアが目を輝かせる。


ダリアさんによると、領地の振興策を考えていたアランは、小さな漁村だった領地の港に目をつけた。

オーガス子爵家の領地ファンスタの港は三方を山に囲まれた天然の良港である。

しかも三方を山で囲まれているため、海を荒らす北西風に左右されず、天然の波よけの役目を果たす。


アランが調査したところ、港は奥深く湾入し、水深が深い事が分かった。


そこで、この港を整備すれば、水深が浅いがゆえに歯噛みする周辺の港をしり目に、巨船の泊まる貿易港が手に入るのだ。


アランは港の整備を終え、今、港から中央への街道の整備を行っているそうだ。


――おお、すごい! 本当にアランってすごい事業を行ってるのね。



「ご存知なかったのね? アラン様は仕事を家庭に持ち込まないタイプなのかしらね」

ダリアが首をかしげる。


「それとも、妻は家庭で大事にしたいタイプかしら……」

ダリアさんが何やら呟いている。


妻なのに何も知らなかった……。

アランは、この大事業を行うために資金と人脈が必要だったのね。

それが我が侯爵家と手を結びたかった理由かしら?


そして、この港の発展に目をつけた才覚と実力がうちの父に認められたのだわ。

それに、この有力な港を侯爵家うちが押さえるという利点うまみもある。



「だからね、この港が出来ると困る人達の嫌がらせがあるかもしれませんの。ルイーゼ様もお気をつけて下さいませね」



――考え込んでいた私は、ダリアさんの忠告をうっかり聞き漏らしていた。





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