12 伝手
「お嬢様、またお断りの手紙です」
セバスが無表情で手紙を持ってくる。
最近なぜか、決して二人っきりにならないセバスである。
私に対しての不信感が、半端ない。気にしないけど。
イレーヌさんに会うためにお兄様が伝手を当たって、イレーヌさんの友人をリストアップしてくれた。
早速、彼女たちに手紙を書きお茶会に招待する。
が、ことごとく断わられた。
お断りの理由は、夏場で避暑地や領地に帰ってるもの、あとは体調不良などであった。
私のお誘いのせいで大勢の旅行者と体調不良者をだしてしまった……
断わった者たちの気持ちも分かる。
アランの妻であるルイーゼから、イレーヌの友人の自分たちが招かれる。
どういう意図があるのか、あれこれ推測して怯えたのだろう。
上位の貴族、会ってしまえば頼み事をされて断わることは難しい。友人のイレーヌを守りたいという気持ちもあるのかもしれない。
わがままだと評判のルイーゼからのお誘いに警戒するのも無理はない。
今までの行いが、身にしみる毎日でアル。
「今年は暑いからねえ、皆避暑に行ったり体調を崩しているんだねえ」
エディお兄様は相変わらずのんきである。
「これでは、イレーヌさんに会えませんわ」
「そう思ってねえ、貴族じゃ無いけれどイレーヌさんの友達を探して来たよ。彼女、夏ばてしてないからルーと会ってくれるって」
断わった人も夏ばてじゃないとオモウヨ?
お兄様が探してくれたお友達はダリアさんといって大商人ヴェルザー商会の娘であった。
学園でイレーヌと友人になったらしい。
アランが教えを請った商会なのは、偶然だろうか?
「イレーヌさんを紹介するかどうかは、会って決めるそうだよ」
おおう、直接対決。気が合いそうだわ。
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さっそくダリアさんをお茶にご招待した。
ダリアさんは、赤毛の気の強そうな美女だ。
ゴージャスという言葉は彼女のためにあるのだろう。
「イレーヌ様を紹介して欲しいってどういうことかしら、聞かせて下さる?
私イレーヌ様に返しきれない借りがあるの。だから貴方が彼女の敵なら、徹底して彼女を守るわ」
ダリアさんが眉をつり上げる。
「信じてもらえるか分からないけど、イレーヌさんを害するつもりはないわ。
最近までイレーヌさんの事は知らなかったのよ。彼女がまだアランを好きでトレーニ伯爵家のフィリップ様と別れたいのなら手を貸すつもりよ」
「なんで貴女がそこまでするの?」
ダリアさんがいぶかしげに私を見る。
「まあ、結婚しちゃった責任というか、わたくし他に想う人がいる夫はいらないのよ。だから、彼女の気持ちを聞きたいの」
「そう……。確かに他に想う女がいる男はいらないわね。いいわ、貴女に協力してあげる」
ニヤリと笑った。
「もう一つお聞きしてもいいかしら? アランがヴェルザー商会に教えを請ったのはダリアさんが手を貸したのかしら?」
「ええ、イレーヌ様のためにアランに力を貸したかったし、フィリップ様にちょっと仕返しもしたかったから、私じきじきに仕込んだわ」
ダリアさんは、うふふとこわい笑顔を浮かべた。
アランに商売を仕込んだのはダリアさんだったか……
しかも、良く聞くとフィリップ様被害者の会の一員らしい。
フィリップ、ひどい。ダリアさん、コワイ。
ひとまず、ダリアさんがイレーヌさんに連絡をつけてくれることになった。
彼女が了承してくれたら、こっそり会う手はずを整えよう。