11 調査内容
ブックマーク100記念! 感謝です!
調査書によるとアランは、オーガス子爵家の一人息子として誕生した。
オーガス子爵家は、王国の南西の小さな港町を領地とする。
山間に面した港町で農産物の収穫量は少ない。
領地の収入も少なく所謂、貧乏子爵家である。
アランのお父様お母様は、おっとりとした優しい人物。
言い換えると、やり手では無い。
( お会いしたことがあるけど、確かに優しそうな方だった )
アランのお母様には、心臓に持病がある。
両親仲は良好。
5歳の時、両親の友人であるクレガ子爵家の娘イレーヌと婚約。
二人は幼馴染みで、大変仲が良かった。
クレガ子爵家のイレーヌは、しっかりした真面目な女性と評判。
アランは幼少より容姿端麗で天使のような子供だったため、ファンも多く跡をつけられたり、よからぬ人に攫さらわれそうになった事がある。
( まじか、美形も大変だ…… )
アラン17歳の時、父オーガス子爵が友人にだまされ多額の負債を負う。
子爵家破産の危機を救ったのはイレーヌだった。
ちょうど破産危機の折、遊び人の息子フィリップにしっかりした嫁をとりたいトレーニ伯爵からイレーヌに婚約の打診があり、アランとの婚約の違約金を出してもらうことを条件に婚約を結ぶ。
(トレーニ伯爵家のフィリップ様ね。お父様に「フィリップの側にいるだけで妊娠するから、側に寄ってはいけない」と厳重注意され、「まあ、特殊能力者ですのね」と感心した方だわ)
オーガス子爵は、婚約破棄の違約金を受け取り破産を免れた。
イレーヌはオーガス子爵家を救う為、遊び人のフィリップとの婚約を受け入れた模様。
( 好きな人のために犠牲になるなんて、イレーヌさん、ええこやん。あかん、泣けてくるわ )
婚約後、イレーヌはフィリップの女関係で誘拐されたことがある。
( フィリップめ! )
ちなみにフィリップ自身も女性に刺された事がある。
( クズ? ねえ、クズなの? )
トレーニ伯爵家が手を回し、オーガス子爵詐欺をした男が捕まるが、回収できたのは欺された額の半分足らず。
クレガ子爵家へ、かき集めたお金で違約金を返したいという申し出をするが、丁重に断わられる。
( 覆水盆に返らず?? )
その後思うところがあったのか、ヴェルザー商会に教えを請いアランは領地の産業育成、投資を行う。
領地経営を立て直す。
若手貴族の中で、やり手。将来性あり。
( 前世で言うと若手ナンバー1の実業家、若手IT社長って感じだろうか? )
女性関係は真面目。問題なし。
( おおう、イレーヌさんを忘れられないってことかしら? )
**
調査書を一通り読む。
アランがかわいそうで、胸がチクリと痛む。
まあ、こないだのことは腹が立つので泣かすけど。
なんでアランは私との結婚を受け入れたんだろう?
領地の立て直しに成功し、経済的に困ってると思えない。
イレーヌさんを思い続けてるような気がするし……
お父様が、権力を盾に脅したんだろうか?
今、イレーヌさんはどうしてるのだろう?
女の敵のフィリップと別れたいのなら、協力してもいいわ。
腐っても侯爵家のルイーゼ様、金と権力はあるのよ。
まずは、彼女の動向の調査かな?
彼女はどうしたいのだろう?
想い合ってる二人なら、一肌脱いでも良いかな?と思う。
最初にアランに出会った日、彼はパーティ会場の奥をみつめ哀しそうな顔をしていた。
その瞳があまりに切なげだったから、ルイーゼは胸がきゅんとして恋に落ちたのだ。
そして、愁いを帯びた目、どこか寂しそうな辛そうな顔をするこの人を、幸せにしてあげたいなと思った。
しょうがない、離婚するまでは、うちの子だ。憎たらしいけど助けよう!
まどろっこしいから、イレーヌさんに直接会えないかしら?
**
そんなことを考えてると、またエディお兄様が遊びに来た。
暇なのだろうか?
いや昨日、アランとケンカした話をしたから心配して来てくれたんだろう。
お兄様はなんだかんだ言って、優しいひとだ。チョロいけどね。
「お兄様、私を心配して来てくれたんですね?」
「違うよ」
お兄様がそっと耳に掛った髪をかき上げる。
本人は気づいてないけど、それは彼がウソをつくときの癖だ。
ウソをごまかすためか髪を触るのだ。
うふふ、バレバレなんだよ。ワトソン君。
アランとケンカして彼のことをよく知らないと思ったこと。
それで、調査書を見たこと。
一度、イレーヌに会ってみたいことを話す。
「ルー、ひとにはいろいろ過去があるんだよ。そっとしといた方が良いんじゃない?」
「考えてみて。 ルーが元婚約者の妻から会おうと言われたらどうする?」
「それは、受けて立ちますわ」
「あ、ごめん。おとなしくって慎ましい人柄だったらどう?」
「まあ、それって私ですわね? 照れますわ」
「やっぱり、受けて立ちますわ!」
「うちのお姫さまは、受けて立つ一択なんだね」
お兄様が困った顔をする。
「ええと、貴族社会で女性が知らない人から直接会おうと言われて会う?」
「紹介が無いと会いませんわね」
キッパリと言う。
「だから、ルー諦めて、」
「お兄様、伝手を探して下さる?」
エディお兄様は、ふううとため息をつくと「ルーはしょうがないねえ」と髪をかき上げた。
うん。世の中、しょうがないことばかりなのだよ、ワトソン君。
ブックマーク100、一瞬でした(笑)