10 身辺調査
エディお兄様が、遊びに来た。
暇なのだろうか?
例の車いすを見て喜んでいた。
「薔薇の車いすなんてすてきだねえ。宝石をちりばめた持ち手も良いねえ」
何でも褒めれば良いってもんじゃ無いと思う。
お父様の趣味で私の趣味じゃないことを力説しておいた。
「お兄様、なんなら乗ってご覧になる?」と、誘ったが断わられた。
最高級仕込み車いすなのに。仕込み針もアルヨ?
昨晩いろいろ不都合な事件があって、うっかりねんざした足を酷使してしまった。
腫れ上がった足を診た医師に足を使わないよう厳重注意され、わたくし車いす生活始めました。
クララと呼んでもよろしくってよ。
「なんで走っちゃったの?」
お兄様が呆れて様子で私に聞く。
「ちょっと、アランとケンカして怒りで我を忘れまして」
「も~、ルーがわがまま言ったんでしょう? 犬も食わないヤツだよねえ」
と、ニヨニヨされた。
濡れ衣である。
「そうそう、夜会の出席者全員じゃないけど、今のところあの時、階段にいたものは居ないみたいだよ」
律儀に夜会に来た客の動向を報告に来てくれたのだ。
暇なのかと疑って、悪かった。
帰り際エディお兄様は、昨晩アランに掴まれて赤くなった手首にそっとキスして、
「アランと上手くいってないのなら、僕のお嫁さんにならない?」
ウィンクして去って行った。
ワトソン君のくせに、イケメンであった……
**
今朝もアランは、いつも通り私が起きる前に出かけていった。
いろいろ悔しいのでアランの事を調査しよう。
ふふ、調査のあては有る。
私のことを溺愛してるお父様がアランの事を調べてない訳がない。
人払いをして、執事のセバスを呼び出す。
「ご用でしょうか? ルイーゼ様」
「お父様のことだから結婚する前にアランの事調べたでしょう? その結果がほしいの」
「申し訳ありませんが、だんな様の許可が無くてはお渡しできません」
セバスが首を振る。
「ふふ、お父様には内緒で欲しいの」
「申し訳ありませんが、出来かねます」
「そう、しょうがないわね」
この手は使いたくなかったが、しょうがない……
素直に渡さなかったセバス、自分を恨むのだ。
「セバス、車いすから立ち上がりたいから手を貸してちょうだい」
「もちろんです。ルイーゼ様」
執事が指しだした手をぐいと引き寄せて、私の胸に当てる。
「まあ! セバスなんてことを! 主の娘の胸を触るなんて、ハレンチだわ!」
「ルイーゼ様が無理矢理!」
いつも冷静なセバスがあわてる。
「ふふ、お父様はどちらを信じるかしら?」
セクハラ冤罪である。
「……。 分かりました。アラン様の調査結果をお持ちします」
ルイーゼは、たいへん協力的な執事から調査書を受け取った。
「はじめからそうすれば良いのよ」
フンと鼻をならした。
調査書を渡してドアを閉めた執事は、「やっぱりルイーゼ様だ……」と額に手を当てた。
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今回は短めですが、切りが良いところで……