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007~報酬~

「約束は覚えておられまして、カネミツ様? 黄金の爪をゲット出来れば、私を生涯のパートナーにすると」

「そんな約束はしていないぞユキ君」


 生涯のパートナーという約束はしていないが、別の約束はしていた。


 ショタコンホモ野郎ハンター(濡れ衣)カネミツと、巨乳婚活ハンターユキ。

 どちらが先に黄金の爪を入手できるか勝負をする。

 そしてユキが勝てば、カネミツの仲間になるという約束だ。


 ただ、カネミツは今回を最後の冒険とする予定のため、仲間にすると言っても帰路のみ。

 詐欺みたいな話なのだが。


「結局おっさんと俺の二人で黄金の爪を確保したじゃん。お姉さんの負けだろ?」


 ホタルは、カネミツが持っている黄金の爪を見ながら言った。

 いや正確には、黄金の爪を見るフリをしながら、ユキの方をチラチラ見ていた。

 ユキはドラゴンの鱗に挟まっていた時に衣装が破れてしまい、肌の露出が増えていたのだ。

 思春期の少年が気にしてしまうのは当然である。誰も彼を責められない。


 カネミツもユキも、ホタル少年の視線には気付いていたが、大人なので黙っていてあげた。


 しかしおっぱいチラ見は黙ってあげても、勝負の勝ち負けについては言及する巨乳ハンター。


「ホタルお嬢ちゃん、よくお考えなさい。今回の勝利に寄与した貢献度は? カネミツ様が四、ホタルちゃんが一。そして私が五くらいはありますわよ」

「無いだろ! お姉さんはドラゴンの頭に挟まってただけじゃん!」

「ちらっ」

「うおぁっ!?」


 ユキは破れた衣裳を引っ張り、肌を更に見せつけた。

 十四歳男子には刺激が強く、ホタルは地面に座り込んで、黙ってしまった。


「あら。ちらっ攻撃、カネミツ様は平気みたいですわね」

「まあもう良い歳だしね。枯れているわけじゃないよ。うん、多分」

「強固なご意思をお持ちなのですわね。素晴らしいですわ!」


 ただ「お金の方が大事なので色仕掛けには乗るな」という理性が勝ってしまうだけである。


「まあ巨乳には屈しないって事で。とにかくユキ君は諦めてお帰り下さいね」

「……ぐぅっ、分かりましたわ。今日は帰らせて頂きます」


 意外にも素直なユキ。

 逆にカネミツは怪訝に思う。

 そしてホタルはまだ立ち上がれない。


 ユキは上着の裏から小さなボールを取り出し、


「ではご機嫌よう!」


 と言って、ボールを地面に叩きつけた。

 煙玉だ。

 もくもくと煙幕が上がり、「オーッホッホッホッホッホ!」とユキの高笑いが響き渡る。


「えっ。なんで煙出してんのユキ君。こわっ。カッコイイ退場方法の演出?」

「ぶわっ! なんだなんだ! 何が起こってるんだ!?」


 そこでホタル少年はやっと立ち上がった。

 立ち上がった所でおろおろするだけであったが。

 そして煙の中、ユキは叫ぶ。


「今回はカネミツ様の事を諦めますわ! それはもうスッパリと。キッパリと!」

「ああ、それは助かるよ。でも煙いからこういう去り際の嫌がらせはやめてくれ」

「嫌がらせではありませんわよ。私もプロとして手ぶらでは帰れませんので、そのための準備としての煙幕なのですわ! なんの準備かと言うとまあつまりはそういう事で、御察しくださいませ! ご機嫌ようと言った後にべらべらしゃべってしまいましたが、今度こそご機嫌よう! 再見ツァイツェン!」

「はぁ!? 何言ってんだお姉さん!」


 意味深な台詞を残し、ユキは駆け出した。

 煙が晴れた時、既にカネミツ達から遥か離れた場所を走っていた。


「……なあおっさん。あのお姉さん最後に変な事言ってたけど」

「ああ。ユキ君ってばどさくさに紛れて黄金の爪を盗んで行ったんだよ。抜け目ないねえ、さすが話題急上昇中の凄腕だ」

「盗まれたって……おい! せっかく」

「大丈夫だよ。慌てるなってホタルちゃん」


 カネミツは腰のポケットから、ペンを取り出した。

 普通のボールペンに見えるが、実は違う。

 背をノックすると……


「うっきゃあああああああ!?」


 ユキの甲高い叫び声。

 及び、爆発音が聞こえた。つまり実際爆発した。

 ユキの持っていた黄金の爪が、大爆発を起こしたのだ。


「盗まれた爪は偽物だから。本物はこれ」


 カネミツは懐から本物の黄金の爪を出し、ホタルに見せた。


「おい、あのお姉さん死んじゃったんじゃないか!?」

「いやー大丈夫でしょう。あの巨乳ハンターなら」

「確かにドラゴンの頭に刺さっても平気だったけど……」


 ホタルは爆発跡地を見た。

 未だ煙が上がっていて、ユキがどうなっているのかは分からない。

 しかしさっきから煙ばっかりだ。


「まっしかし、ユキ君のバイタリティは見習う所があるよ、新人トレジャーハンターのホタルちゃん。特に最後に美味しい所だけ持って行こうって要領の良さね」

「盗まれそうになったってのに、呑気だなおっさん……」


 ホタルはそう返事をした後、何かを考えるように俯いた。


「さて、そろそろ帰ろうかねホタルちゃん。依頼人パトロンも首を長くしてお待ちだよ。それに早く帰らないと娘が怒るからさあ」

「最後に美味しい所だけ持って行く……って、おっさん言ったな?」


 ホタルはそう言って顔を上げた。

 目には、決意の炎が宿っている。


「ああ、言ったけど」

「おっさん、俺と勝ぶっ」

「ストップ!」


 ホタルは何かを言いかけたが、カネミツのチョップが脳天に炸裂。

 言葉を遮られた。


「おい最後まで聞けよ!」

「いいよ聞かなくて。どうせ『勝負しろー。買った方が爪を総取りだー』とか言うんでしょ。あのさあ、もう止めてよそのパターン。そういうギトギトな展開は胸焼けするようになったんだよ、おっさん歳だから」


 カネミツの指摘は図星だったようで、ホタルは額に冷や汗を掻く。


「ホタルちゃん、妹の手術に三千万エン必要なんだろ?」

「ああ、そうだよ」

「この仕事の報酬は山分け。そして報酬は、スポンサーに粘って粘って粘り強く交渉して引き上げたんだよ。その額は……」


 カネミツはニヤリと笑った。


「六千万。つまり取り分は三千万だ」




 ◇




「ただいまソハヤー、パパだよー。カッコイイパパが帰って来たよー!」


 カネミツは家の扉を開け、娘の名前を呼んだ。

 四歳の娘が飛びついて来る。事を期待したけど来なかった。

 ソハヤもどんどん成長しているからなあ。仕方ないか。

 なんてオトナな考え方で寂しさを誤魔化そうとしたカネミツの耳に、娘の笑い声が聞こえて来た。

 その声は、扉が閉まった奥の部屋からしている。

 

「わーお姉ちゃんおっぱいでかいね。何食ってんの?」

「主にお米ですわよ。発芽米。そして好きなおかずは辛子明太子」


 カネミツが部屋の扉を開けると、そこで娘が楽しそうに話をしていた。


「……なんでいるの?」

「あら、お帰りなさいませ。カネミツ様」


 巨乳婚活ハンター、ユキと。


 ユキはソハヤをおんぶし、楽しそうに遊んでいる。

 ドラゴンとの戦闘、及び最後の爆発でボロボロになったはずの服を、新しいものに着替えていた。


「あっパパおかえり」


 娘がやっと父親の帰宅に気付いたようだ。


「ユキお姉さん、パパの新しい仲間だってね。でもパパ、公務員目指すんじゃなかったの?」

「ソハヤちゃん。仲間では無く、パートナー。ぱぁあとなあー! ですわよ」

「……ユキ君の事は一旦スルーしていいかな」


 カネミツは、ユキの背からソハヤを奪い取り、抱き上げた。

 そして通帳を見せる。


「ほら金が入ったぞ。これでパパは安心して公務員試験の勉強を頑張れるというわけだ」

「おお一千万エンも入ってるじゃん。さすがパパだね」

「あら、一千万?」


 ユキもカネミツの後ろから、通帳を覗き込んだ。


「確かお話によると、山分けで三千……」

「あー! あー! ちょっとユキ君、あー!」


 カネミツはユキの言葉を遮った。

 ソハヤを床に離し、小声でユキの耳に囁く。


「仕方ないじゃない、ホタルちゃんったら妹が病気だって言うし。俺は公務員になるまでの繋ぎの資金さえあればいいから、一千万でも充分なの」

「あら。お優しいんですのねカネミツ様」


 つまりは、カッコつけて相棒に多めに報酬を払っちゃったのだ。

 しかしこの事を娘に知られたら、確実に怒られる。

 バレない様にしないといけない。


「っていうかあの爆発の後でも、おじさん達の話聞いてたの……?」

「ええ、まあ。耳は良いんですの」


 最近の若い冒険者は凄いね。あの爆発でも当然のように無傷だったし。

 カネミツは己の視力聴力体力の衰えを思い出し、目の前の若者と比較してちょっとヘコんだ。


「まあいいや。俺は公務員になるの! この社会人経験者応募枠で!」


 気を取り直して、タンスの上に置いていた募集要項の冊子を開く。

 サラリーマン時代の経験を活かせそうな職種。

 年齢制限がぎりぎりだが、しばらく必死に勉強して、なんとしても喰らいついてやる。


 そう自分を鼓舞するカネミツに、ユキが質問してきた。


「あら、カネミツ様が一般会社に就職するためにトレジャーハンターを引退したのは、四年と十一ヶ月前でしたわよね?」

「うん? えーと、確か……」


 突然の質問に、カネミツは指折り数えてみた。

 あまり意味は無いが、壁に掛かったカレンダーもチラ見してみた。


「ああ確かに四年と十一ヶ月かな。いやあ、もうそんなになるのかあ」

「この募集要項には、社会人経験連続五年以上って条件が付いてますわよ」


 しばらく、場の空気が凍りついた。


 確かに書いてある。

 社会人経験五年以上。

 カネミツの社会人経験では、一ヶ月程足りない。


「え、えええ? ええええ? あっははははは。ちょっと待ってよちょっと」


 カネミツは他の職種の募集要項も見てみた。

 しかしこの国の公務員試験社会人応募枠は、どれも経験連続五年以上が条件になっていた。


 ちなみに途中で転職した場合は、同じ業種なら累計六年以上。違う業種なら七年。とある。

 今から転職しても、カネミツの年齢ではアウト。

 そして社会人応募枠で無い普通の応募枠については、とうに年齢オーバーでアウト。 


「なーんだ。パパ公務員なれないじゃん」

「そうみたいだね……あ、あははは…………パパどうしよう?」

「一般企業で働けば?」

「やはり私と共にトレジャーハンターを続けるべきですわ!」


 そんな中、家の電話が鳴った。

 ソハヤが受話器を取る。


「もしもし……あ、はい。今代わります」


 ソハヤは四歳にしては、かなりしっかりしている。

 親の贔屓目では無い。

 なぜならば、既に電話越しでは声色を高くするというコミュニケーション技術を取得しているからだ。


 なんて事を考えながら、カネミツは受話器を取った。


「おいおっさん。良かった、もう家に帰ってたか」


 ホタル少年の声だ。

 一緒に冒険したのも何かの縁と言う事で、電話番号を教えていたのだ。


「ああ、今日はお疲れホタルちゃん」

「今病院にいて、さっそく妹の手術代を払ってさ。それでどうやって金を用意したかって話になって。黄金の爪の事を言ったら、院長が……いや、おっさんは引退するって言ってたけど、一応伝えとこうと思ってさ」


 何やら興奮しているようだ。

 早口で、話の要点が分からない。


「落ち着きなよホタルちゃん。つまり、どうしたの?」

「仕事の依頼だよ! それも報酬は億!」



 …………



 カネミツは受話器を置いて、娘の顔を見た。


「まあこうなったら、ソハヤが成人式迎えるまでなんとかやり続けるしかないかなあ……」

「どうしたのパパ? さっきの電話は何?」

「カネミツ様、顔色が冴えないですけど。大丈夫ですの? 私と結婚します?」

「いや結婚はしないけど」


 公務員試験に挑む前から失敗してしまった伝説のトレジャーハンターカネミツは、こうして早くも冒険者業の再々復帰を決めたのであった。




 (おしまい)

お付き合い頂き、ありがとうございました。

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