005~試験~
黄金の廃城。
その巨大な城の外観は、名前の通り金色に光り輝いている。
ただし実際には金を使っていない、金色塗料だ。
「昔は本物の金箔を張ってたらしいんだがねえ。どんだけの価値だったんだろうね」
カネミツは、光る壁にべったりと自分の指紋を付けるように触って言う。
「でもこれだけの規模なら、復旧作業も大変だっただろうねえ。ほとんどは塗料だけど、一部歴史的価値のある建築部分には、本物の金でメッキ張ってるらしいよ」
「へー。じゃあそれも盗むのか、おっさん?」
「いやいやいやいやホタルちゃん。ホタルちゃんってばもう馬鹿だねえ。そんな事したら捕まっちゃうよ、この城今は公共物だから。そもそもトレジャーハンターであって盗賊じゃないのよ俺たちは」
「その通りですわ。ホタルちゃんは私達のお仕事を、何か勘違いしておられますわね」
二人に突っ込まれ、ホタルは「なんだよ、ちょっと言ってみただけだろ」とたじろぎ……気付いた。
「おいそこのお姉さん、なんでまたいるんだよ!」
先程鉄の鎖で木に繋いだはずのユキが、何故か二人と並んで城を見上げているのだった。
「最初からいましたわ」
「うん、しつこい! もうおっさん諦めたよ」
カネミツがそう叫ぶと、巨乳婚活ハンターはニヤリと微笑んだ。
「では、結婚……ではなく、お仲間にして頂けると?」
「近い。惜しい。君をテストしてあげよう」
「テスト、ですの?」
カネミツは偽物の金塗料の手触りを確かめながら、ユキの方を見ずに言う。
「ああ。俺より先に黄金の爪を手に入れる事が出来たら君の勝ち。仲間にしてあげる。まあ代わりに黄金の爪貰うけど。もし俺が先に入手したら諦めてね。はいよーいドン」
「え? あ、もう始まってますの? 承知致しましたわ! オーッホッホッホッホ! お待ちくださいませカネミツ様、すぐにお宝ゲーット! してまいりますわよー! オーホホホホホホホーホー」
高笑いのフェードアウトと共に、ユキは廃城内部へと走っていった。
「……その条件どっちに転んでも、おっさんが得するじゃねえか。仲間にしてやると言っても、そもそも宝見つかった後は廃業する気なんだろ?」
「まあ楽にお宝見つかるなら、それでいいじゃないの」
カネミツは床に腰を降ろし、胡坐をかいた。
このままユキが宝を持ってくるのを待つつもりだ。
「身体が資本の商売。こうやって楽するのも大事なんだよ。ホタルちゃんも座って座って」
ホタルはなんだか納得いかない顔で、低い石柱を椅子代わりにして座った。
◇
ユキが突入し、三時間経った。
カネミツ達はその間にお昼ごはんを食べた。おにぎり。
暇になったので雑談した。主に娘の話を、カネミツが一方的に。
ホタルはウンザリして途中から返事しなくなった。
そうなる程に雑談を続けても、ユキはまだ帰ってこないのだった。
「おかしいねえ。そこまで広いお城でも無いし、ドラゴンなんてすぐに見つかるはずだけど」
カネミツは床が固いせいで腰が痛くなったので、胡坐をやめ、うつ伏せに寝そべっている。
見た目とてもだらしない。
「やられちゃったんじゃないか? あのお姉さん」
「そうかもねえ。じゃあおっさんも」
カネミツは立ち上がり、ちょっとカッコイイポーズを決めた。
「いざいざいざ、城に乗り込みドラゴン退治といくかね!」
と言った次の瞬間。
大きな爆発音と共に、城門が崩れ落ちた。
建築素材となっていた石や木が、大音を立てながらどしゃぶりのように地面に降り注ぎ、大地を揺らした。
「……おっさんのせいじゃないよ」
「分かってるよそんな事は!」
砂煙の中から、巨大な唸り声。
そして巨大なシルエット。
くすんだ黄色い鱗に太陽光が反射して、まるで黄金のように見える。
「あらー、カネミツ様ー! 私を助けに来てくれましたのかしらー!」
「いや違うぞユキくーん! 君の方から、というかドラゴンの方からこっちに来たのー!」
黄金の竜。
そしてその頭のてっぺんの鱗に、巨乳婚活ハンターユキが挟まっていた。