004~鎖~
「ウマシカグマは無事駆除致しました。通報ありがとうございます」
「あーはい。いやあどうも、お疲れ様です」
「では、お気をつけて」
そう言って、駆除業者の人は帰っていった。
カネミツはホタルの方へ顔を向け、指でオーケーサインを作った。
「なっ?」
「なっ。じゃねえよおっさん! ただ役所に通報して業者呼んだだけじゃねえか!」
結構近くに役所も駆除会社もあったので、一時間程ですぐに来て、迅速に仕事を遂行してくれた。
「いやだってそれが一番確実なんだよ。ここは公道なもんで、国に頼めば金も掛からないし」
「さすがカネミツ様ですわ!」
ユキがカネミツの手を取り、小さく飛び跳ねた。
ホタルはその様子……正確には胸の様子を見て、ちょっと腰が引けた。
「と、とにかく出発しようぜ、おっさん!」
「そうだねホタルちゃん。予定より一時間もタイムロスしちゃったし」
カネミツは馬車の扉を開け、中に乗り込んだ。それに続いてユキも一緒に入ろうとして、カネミツに「君はダメ」と言われる。
「チッ」
ユキは舌打ちをして、再び馬車の上に飛び乗った。
馬車御者はそれを見て、注意したものか、金さえ貰えるのなら良いものとすべきか迷った。
◇
馬車が目的地に着いた。
ここからは徒歩で一時間だ。
「料金は二千とんで三エン。オマケしてぴったり二千エンでさぁ」
馬車御者が言った。
カネミツはあんまりオマケして貰ってないなあ。と思いつつ財布を出した。
「じゃあユキくん。半分の千エン頂戴」
「あら、あの鳥はなんという名前なのでしょうか。おほほほお待ちなさってぇ~ん、鳥さーん」
「君の方こそお待ちなさってんユキくん。鳥なんて見当たりませんけど?」
存在しない鳥を追いかけ逃げようとするユキの腕を、すかさずカネミツが掴んだ。
「さすがカネミツ様。素早いモンスターとして有名な足早ナマモノスライムさえも捉えることが出来ないこの私を、いとも簡単に捕まえになられるとは……でも、このままもう離さないでくださいまし……そうですわね、子供は三人くらい」
「財布借りるよユキくん」
そう言ってカネミツは、ユキの腕を掴んでいた右手を離した。
左手には白い小銭入れ。
「あら。いつの間に私のお財布を……侮れませんわね」
「はい、千エン貰ったから」
カネミツは財布をユキに返し、自分のと合わせた合計二千エンを御者に払った。
「へへへ、どうも旦那。帰りの時もよろしく頼みまさぁ。狼煙上げてくれればすぐに駆けつけますんで」
御者はそう言って馬車の運転席に乗り、馬を走らせ去って行った。
「さあカネミツ様、ホタルちゃん。いざ黄金の廃城に行きますわよ!」
ユキは右手を上に突き出しながら言った。
その反動で揺れる胸を横目でチラチラと見つつ、ホタルはカネミツに耳打ちをした。
「あのお姉さん、完全に仲間になった空気を出してるけど、良いのかおっさん……まあ俺としては良いんだけどさ」
そんなホタルに、カネミツは笑って返事をする。
「じゃあホタルちゃん、ちょっと我慢しててね」
「……は? 何をだよ?」
おもむろにホタルの両脇の下を掴み、持ち上げる。
十代前半少女ばりに小柄なホタルは、軽々とカネミツにかかえられ、お姫様抱っこされた。
「うわあっ!? おいおっさん、急に何だよ!」
「では、さらばだユキくん!」
「えっ!? ちょっと、お待ちくださいませカネミツ様……あああっ!? ぐえっ」
ホタルを抱っこしたまま駆け出すカネミツ。
ユキは慌ててそれを追おうとして、転び、顔面を打った。
いつの間にか右足が、鉄の鎖付きの手錠で近くの木と繋がれていたのだ。
「お、お待ぢぐだざいませ! カネミツ様ー!」
ユキは顔を押さえながら叫んだ。
「すまないなユキくん。でもこうでもしないと君、諦めないと思ったから! 仕方ないよね! おっさんは所詮こういう人間なんだから、諦めてくださいねー!」
「私諦めませんわ。諦めませんことよおおおお! おーほっほっほっほっほ! オラァッ、外れなさい鎖! あっそうですわナイフで木を切って……ああ、私の荷物一式があんな遠く、手の届かない位置に!?」
「鍵は俺が持ってるから無駄だよ。帰りに開けてあげるから、大人しく待っててくれたまえ!」
無理矢理鉄を引き千切ろうとするユキを置いて、カネミツはどんどん先へと進む。
「おっさん! 自分で走るから降ろせよ!」
ホタルの悲鳴にも似た訴えがこだました。