次に状況を理解して欲しい
「はぁ……」
思考のおりから帰ってきた僕は、周囲を見渡しーーもう何度目か分からない溜息をついた。
暗く、閉塞的な圧迫感を醸し出す密室。
柵がないとはいえ、そこは一般的にイメージされる"刑務所"の雰囲気に似通っていた。
こうして"重犯罪者"と判定され、"拘置施設"送りにされてからもう何日経つのか分からない。
四日か五日かーー下手をすると一週間は過ぎているかもしれない。
「狂った制度だよなぁ……」
いくら罪を犯していない人間ならば罪に問われることがないとはいっても、こう何日も身柄を拘束されては日常生活に支障が出るはずだ。
それに釈放された後も嘘発見器に"重犯罪者"と診断された人間というレッテルを貼られることは避けられないだろう。
何故こんな制度が可決され、施行されたのか分からない。
国民には馬鹿しかいないのか。
僕は陰鬱な気分を吐き出すように、また溜息をついた。
「……ずっとこんなところにいたら頭おかしくなるわな」
僕はそう呟き、しばらく逡巡したのちーー"個室の扉を開けて"外に出た
☆
"拘置施設"の内部は意外と充実している。
テレビ風呂付き遊具も揃っており、共用スペースに足を伸ばせば、様々な嗜好品、ネット環境まで整っている。
下手なネカフェなんぞよりよほど娯楽に満ちている。
というのも、この施設は"冤罪者が収納される"前提で作られたものだからだ。
犯罪者ならともかく罪のない人間を拘束した挙句に無粋に扱うわけには行くまい。
聞くところによると、実は本物の刑務所においても意外と娯楽設備は充実しているというがーーそれはまた別の話だ。
というわけで、僕が個室から出たのは何も施設から脱走しようと試みたわけでも何でもなく。
ただ自分の部屋から、娯楽に溢れた共用スペースへと足を伸ばしたかっただけ、なのだがーー
★
「……」
僕は浮かない顔で共用スペースの端っこで膝を抱えてまるまっていた。
視線の先にはテレビがあるが、中身が入ってこない。
……ぜっっっぜん、面白くねぇ。
ここに来てまだ数分だけど、ダメだ。
早くお部屋に帰りたい……。
僕がこんなにもナイーブになっているのには、理由がある。
現在僕が収容されている"拘置施設"は僕の住んでいるA区(人口約1万人)の人間を"嘘発見器"をかけた結果、"重犯罪者"と診断されたものを収容している。
"重犯罪者"の収容者数はちょうど"100人"だ
そして嘘発見器が"重犯罪者"と診断したものが、本当に重犯罪者である確率は99%
つまり、確率的に僕以外の99人は重犯罪者であると考えられるのである。
そんな凶悪犯が集う場所の共用スペースでくつろぐなんて、いくら娯楽が揃っているとはいえ出来るはずもなく、僕にはガクガクブルブル震えることしか出来なかった。
また他の収容者にとってもやはり、何をやらかしたか分からない"重犯罪者"は恐いらしい。
100人も収容されているにも関わらず、共用スペースにいるのは僕含めてたったの6人。
その6人も視線を合わせようとせず、ピリピリした雰囲気を維持していた。
僕は声を大にして叫びたい。
共用スペースに娯楽を集中したアホは誰だと。
これはむしろ冤罪者にとっては拷問なんじゃないかと。
小一時間ほど問い詰めてやりたい。
何よりも酷いのは供用スペースに設置されている監視カメラだ。
いや、一応凶悪犯を閉じ込めるための施設であるのだから、監視カメラがあるのは当たり前なのだが。
問題はこのカメラの映像が、"収容者"各々の部屋に音声付きでリアルタイムで流されていることだ。
つまり共用スペースにいる人間は、部屋に閉じこもっている"凶悪犯"どもからも監視されていることになる。
何故こんな設計にしたんだ、ほんと。
……ああ、もうやだ怖い。
来てすぐ帰るのは不自然だろうけど、さっさとお部屋に帰ろうかなーー
「……ばっかみたい」
おもむろに、比較的僕のそばにいた女の子が呟いた。