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タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。

「ま」 ‐馬・間・魔‐

作者: 牧田沙有狸

ま行

競馬場の中づり広告「サラブレットの睡眠時間3~4時間」と馬が言っている。

「社畜を煽っても競馬場に行く人は増えないよね」そう分析しながら言うと

「俺、平日サラブレッド並みだ」

吊革にぶら下がるようにして、付き合って二年になる真に社畜宣言をされた。

最近、仕事が忙しくてぜんぜん会えない。

でも、その忙しさの詳細を知らないあたしは、取り残されている。

電車移動でそんなやりとりをする土曜のデートも申し訳ない気にさせられる。

本当は昼過ぎまで寝ていたいんだろうなと思ってしまう。

「気分転換した方がいいから。肉体疲労もあるけど精神疲労は、日常と切り離すのが一番!」

と言ってコーヒーを飲みながらデートスポットに出かてくれる。

帰りの電車の中ではものすごい眠そうだ。

子供との思い出アリバイ作りで遊園地に連れてってくれるお父さんか。

子供並みに心の底から楽しんでいない大人の男の嘘は見破れる。

疲れてるからしかたないか。

疲れているのに付き合ってくれたことに感謝しなきゃいけないのか。

なんだか、分からなくなってくる。


カッコいい彼氏を突き通したいのか、あたしに協力させてくれない。

ワンルームと言うより六畳一間といった表現が似合う築三十年の彼のアパート。

実家みたいで落ち着くと言う理由で選んだ畳の部屋。

マンションの一畳じゃないから、六畳といっても結構広い感じがするし、リフォームされてて中はキレイ。

平日、睡眠時間も確保できないのだから、人を招き入れる状況ではないんだろう。

掃除に行ってあげるよと言ったら、断られた。

恋人は母ちゃんじゃないからと、世話を焼かれるのが嫌だという。

恋人じゃなくて、妻にして少しは世話焼かせてくれればいいのに。

真とは、本気に、できたら、結婚したい。

仕事が忙しい男に結婚を迫る女は重すぎる。

ここは踏ん張り時だと思う。

忙しい人は結婚してからだって忙しい。

忙しいことに理解のある女だってことを見せておけば、逆に結婚生活がリアルに想像できて

麻美となら結婚してもいいかな~って思わせられるかもしれない。

ここは、自分磨きの時間。

追うより追われる女になるんだ。

自分でも嫌になるくらい真にぞっこんなあたしは、そう言い聞かせて会えない日を楽しむ努力をし続けていた。

でも完全に忘れられていた気がする。

明日はわたしの誕生日。

うちに寄ったら寝ちゃうからと、送ってもらって解散。

まさか、ここでデートが終わりとは思わなかった。

誕生日が丁度日曜日で土曜に会えたから、勝手に一緒に新年のカウントダウンみたいに誕生日を祝ってくれると思ったのに。

なんにも用意されていないのが分かったから、誕生日アピールもできなかった。

忘れてたことを繕われるのも、言い訳されるのも、そうだったんだとスルーされるのも、どれも怖かった。

惚れた負い目とでもいうのか、自分があんまり大切にされていないんじゃにかと思うことには、触れたくない。

一人になった自分の部屋で日付が変わり誕生日を迎えたので、あたしは真に電話した。

「もしもし」

「あ、ごめんもう寝てた?」

「あ。うん、なんか風邪ひいたっぽくて」

「そうなんだ。大丈夫?」

「大丈夫大丈夫」

そっか、具合悪かったんだ。でも気を使ってくれて言えなかったんだ。 

あたしは言おうと思っていた言葉を言おうか迷っていた。

「どうした?」

「今日、ってか、もう昨日か、疲れてるのにありがとう」

「うううん。眠そうにしててごめんな」

「ゆっくり休んでね。おやすみ」

「ありがとう。おやすみ」

また、いい女を演じてしまった。

風邪か……

さすがにサラブレットも走れなくなったんだ。

いつでもカッコつけたい真は、今日のうちに風邪を治して明日会うことを考えていてくれたのかもしれない。

これは最大のチャンスだ。想像以上の誕生日を迎えられるかもしれない。

弱った時に一人じゃないことのありがたみを知るっていうじゃん。

あたしはポカリスエットとアイスクリームと、なんかいろいろ風邪に効きそうなやつをもって

翌朝、彼のアパートへ向かった。


施錠がされてなかったアパートのドアを開けると、女物の靴があった。

え? 

もしかしてヤバすぎて妹でも呼んだのかな?

六畳一間、玄関から部屋の奥まで見渡せる。

ひとつのお布団の中に、真と妹ではない知らない女が寝ていた。

ポカリとアイスが入ったビニール袋を勢いよく床に落とした。

その音で彼がこちらを向いた。

「麻美……」

真は慌てて布団から出た、上半身裸だった。

「昨日、田舎から友達が急にきてさ、行くところないっていうから」

驚いておき上がった隣の女も肩の露出具合から何も身に着けていないようだった。

「いや、これはちょっと魔がさして」

魔がさす?

はああ。

魔ですか。

てっきり睡魔あたりの魔かと思っていたんですけどかと、とんだ小悪魔にやられたんですね。

あまりにもベタ過ぎる光景に、あたしの真への恋心という魔法が解けた。


あたしは「馬鹿!!!」と叫び六畳一間のドアを閉めて帰った。



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