病院
作者は医療に関して無知です。多分変なところがあると思います。
「知らない天井だ……。」
言ってみたかった。言ってみたかったんだ。言わなきゃいけない気がしたしたんだ!
俺は半身を起こして周りを見渡す。
白い天井に白い壁、机付きの白いベッド。左を見ると小さいテレビがついてる棚がある。棚の横には窓があり、日が差し込んでいる。
右を見ると背のない丸い回転椅子が2つ、その向こうにはスライド式の扉。
まあ……病院だわな。あれから誰かが連れてきてくれたのだろうか。まあ連れてきてくれてなかったらまだあの工場地帯で倒れてただろうからな。感謝せねば。
えーと、今は……。13時か……。って13時かよ!やっべぇ!バイト先と学校に連絡しないと!
スマホどこいった!?しゃあない、病院なら公衆電話があるはず……。
俺は掛け布団を取っ払い、ベッドに両手をつき飛び降りようとしたのだが。
「ウグッォォォォォォ……。」
見事に左手骨折してたの忘れてた。骨折よりも酷い目にあったからな、うん、しょうがない。けど痛ぇ……。てかこれ、腕以外も痛ぇ……。
他のところもヤンキーたちに折られたのかね……。
いや、そんなことより電話しなきゃ!
俺は痛みに耐えながら病室の扉に手を掛けようと手を伸ばす。するとガラガラと勝手に扉が開いた。
「キャッ! ビックリした……。っと目覚められたんですね!!」
「えっ?あぁ、はい。お陰様で。」
扉の向こうにいたのは、看護師さんだ。少し青みがかった白色のワンピースタイプのナース服を着ている。年は20代半ばってところかな?
それにしても悪いことしたなぁ、誰だって扉開けて目の前に人がいたらビックリするわな。
まあ俺も少し驚いたけどな。病院の扉が全面自動になったのかと思っちゃった。
「どこかに用事ですか?できれば千葉さんの意識が戻ったことを担当医の者に伝えて、お身体を診察したいのですが……。」
「あ、学校とバイト先に休みの報告をしたいだけなので、後でも大丈夫ですよ?」
「わかりました。では、少しだけ病室で待っててくださいね。直ぐに担当医を呼んできます。」
本当は直ぐにでも連絡入れたいんだけどな。もう13時回ってるし、今更だもんな。取り敢えず落ち着こう。
あれ?そういえばなんで看護師さんは俺の苗字知ってんだ?名前書いたもの持ってた記憶ないんだけどな……。スマホはロックかかってるし……。あ、スマホ無いんだったな。誰かが持ってったのか?
そんなことを考えていると病室の扉がノックされた。
「はい。」
返事をすると扉が開かれ、40代後半くらいで中肉中背の、縁の細い眼鏡をかけ白衣を羽織ったおっちゃんが入ってきた。後ろにはさっきの看護師さんもいる。優しそうなおっちゃんだなぁ。
「おお、目覚めたんだね、良かった良かった。体の方はどうだい?」
「はい、少し……というか結構、この辺りを刺激すると痛いです。」
「やはりそうか……。君が眠っている間に色々君の体を診せてもらったんだけどね、肋骨が折れているんだよ。」
「マジスカ……。」
「あぁ、でも折れたのは一本だけだしそんなに重く考えることは無い。直ぐに日常生活に戻れるよ。というか今日退院してもらっていいくらいだ。」
おお、良かった。っていうか病院側としては入院なんてしないで早く帰って欲しいんだろうなぁ。
「ただ2つ気になること……というか聞きたいことがある。まず、君はなぜあんな時間に倒れていたんだい?」
まあ、その質問は来ると思った。
嘘をつく理由もないし、昨夜起こったことを、腕の骨折で病院に行ったところから正直におっちゃんに話した。いや、夜のバイトのことは伏せたけどね?
「やはりそうだったのか……。君が運ばれてきた時、顔にも体にも痣ができていたからね。明らかに暴行を受けた感じだったし、君を見つけてくれて病院まで付いてきてくれた人が警察官で、やはり同じ判断をしていたよ。」
そうだったのか……。あれ、もしかして……。
「もしかして俺の名前って、その俺を見つけてくれた警察官から聞いたんですか?」
「ん?あぁ、そうだよ。君の知り合いって言ってた。その人が、君の意識が回復したら直ぐ連絡くれって言ってたから、さっき連絡入れたんだ。もう直ぐここに来ると思うよ。」
マジか……。俺の知り合いで警察官っていったら1人しかいない。もしその人だったとしたら、和人にも俺の怪我伝わってるかもしれないなぁ。
「そしてもう1つの質問。確かに君の負わされた怪我は酷いものだった。だが、傷や痣の深さや位置、大きさから見て意識を刈り取るほどのものでもない気がするんだ。まあこれは私の医者としての勘だけどね。」
そう言っておっちゃんは薄く笑う。
てか傷見ただけでそんなことまで予想つくってすごいな。おっちゃん見かけによらずかなり優秀な医者なんじゃないか?
「そのことが引っかかって、勝手に君を色々検査させてもらったんだ。」
おい。そんなことで俺を検査するとか、この病院暇かよ……。それともこのスーパー医師のおっちゃんのお陰でこの辺一帯にいる病人怪我人が一掃されちゃったのかね。
「だけど、検査結果からは、病気の類は見受けられなかった。こういうとき、私は過労を疑うのだが……。君には心当たりがあるんじゃないのかい?」
医者ってみんなここまで頭良いのか……?まあ、心当たりしかないんだけどさ……。
「んー、過労なんて言われるほど働いてないですからねぇ。ちょっとわからないです。」
こんなことで過労なんて言われるのもいやだからな。適当にごまかしておこう。
「……そうか、うん。わかった。無粋な詮索だったね。すまなかった、変な質問をして。でも、無理してはいけないからね?」
「はい、ありがとうございます。」
なんかこのスーパーおっちゃんに勘付かれてる気がする……。あ、もしかして俺のゾンビより酷いことで有名な目を見て勘付いたのかな?自分で言ってて悲しくなるなこれ……。
これ以上このおっちゃんと話すとボロが出そうで怖いな。ここは戦略的撤退だ。
「あっ、すみません。今からバイト先と学校のほうに休みの連絡を入れたいんですけど……。」
「あぁ、それなら心配しなくても大丈夫だと思うよ?君の妹さんが色々連絡してたみたいだしね。君も今日は学校休みなんだから、しっかり体を休めなさい。」
「そうだったんですか……。真優が……。」
あー、やっぱりあの人に俺の怪我知られてるってことは真優にも伝わってるよな。迷惑かけちゃったな。後で謝らなきゃ。俺のスマホは真優が持ってったのかな……。
………………は?今このおっちゃんなんて言った?今日は学校休みって……。
「あぁ、君は運び込まれてから今までグッスリだったからね。気付かないのもしょうがないか。君は2日半丸々眠ってたんだよ。だから今日は土曜日だよ。」
えー……嘘でしょ……。
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2日半も呑気に病院のベッドで寝ていたということに、頭を抱え、後悔に打ち震えていると病室の扉がノックされた。
「どうぞ。」
返事をすると扉が勢いよく開かれ、男の人が入ってきた。
服の上からもわかる筋骨隆々とした体だが、そこまでムチムチしてるわけでもなく、どちらかというと細マッチョの部類に入るだろう。
身長は180後半くらい。顔は、目つきは鋭く、一見するとすごい怖そうに見える。
しかし……
「優作くん!良かった!無事で良かった!」
そう言って俺の頭をバシバシ叩いてくる。痛いです……。
この人は見かけによらずかなり優しい人なのだ。
平林修。和人の父親で警察官である。そして俺たち兄妹を家族のように慕ってくれる。今の俺にとって一番信頼できる大人だ。
「修さん……。ここ病院なのでもう少し静かに……。」
「あぁ、すまない。いやしかし本当に驚いたぞ。あんな所で人が倒れてると思ったら優作くんだったなんて。」
「すみません。ご迷惑をおかけして。病院まで連れてきてくれて助かりました。」
「いや、それは構わない。優作くんはもう家族みたいなものだからな。」
「ありがとうございます。」
この優しさがすごく嬉しい。きっとこの人の血が和人のいい奴っぷりを作ってるんだろうな。
「無事な姿を見ることができて良かったよ。真優ちゃんもすごく心配してたぞ?真優ちゃんを君の元に連れてきたら、優作くんの手を何時間も握っていたからな。いやぁ本当に兄想いだね真優ちゃんは。」
「そうだったんですか……。そういえば修さんはいつ俺のことを見つけたんですか?」
「あー、多分優作くんが倒れてからすぐだと思うよ?あの時は残業があって帰るのが遅くなったんだ。それで帰るのにあの道を通ったら、見るからに不良少年って感じの子たち3人とすれ違って、しばらく歩いてたら優作くんが倒れてたんだ。いやーあの時はほんと焦ったよ。」
ほう、じゃあ割と早く助けてもらったのか。こう言っちゃあれだが、修さんが残業しててくれてよかった。
「そうだ、これなんだが。」
そう言って修さんが写真を俺に見せてくる。
写真にはあの時俺を襲った、ザ・ヤンキーの3人が写っていた。どうしたんだ?この写真。
「君を襲ったのはこの3人で間違い無いか?」
「ええ、間違いないと思いますけど……。」
「やはりそうか。既に警察の方でこいつらは拘束してるからな。もう安心だ。」
「え!?はやっ!」
俺から話も聞いてないうちに捕まえたのかよ!
「ハッハッハ。君を傷つける奴を俺が野放しにしておくと思うか?」
怖いっ!怖いよ修さん!
「まあそれは半分冗談なんだが、もともとうちの署内でも目をつけられていたんだ。今回の優作くんへの暴行事件でようやく捕まえることができたよ。監視カメラが君への暴行の一部始終を捉えていたからね。」
なんだ、ビックリした。証拠も無いのに捕まえちゃったのかと思ったよ。
「ところで修さん。俺、あれから2日半も眠ってたみたいですけど、その間真優は……。」
「そのことについては安心して良いぞ。しばらくうちで預からせてもらってるからな。まあ最初は君が起きるまで側にいる勢いだったから、引き離すのに苦労したけどな。」
「本当に度々ご迷惑をおかけします!!!」
本当に修さんとその家族には感謝してもしきれないな。いつかきちんとしたお礼をしなくては。
「いや、気にしなくても良い。真優ちゃんも家事を色々手伝ってくれたからな。それにしても真優ちゃんの料理は美味かった!」
「そうでしょう!本当に真優は料理が上手くなって!店持てるレベルです!」
「お、おう。そうだな。」
なんか修さんが引いてるように見える。なんでだろ。
「目が覚めたってことはもう退院できるのか?」
「えぇ、肋骨1本折れてるみたいですけど、日常生活に支障は無いみたいなのですぐに帰りたいと思います。」
「そうか。それはよかった。ならば一度うちに来るといい。真優ちゃんが帰ってきたら真っ先に病院まで来ちゃうかもしれないからな。」
「わかりました。今日真優はどこに?」
「部活の大会って言ってた。帰ってきたらビックリするだろうな。」
真優には悪いことしちゃったな。大会に響いてないといいが……。
そうと決まればさっさと退院してしまおう!