男子二人(+女子1人?)の恋バナ
自習の後、HRと清掃も終わったのでさっさと帰ろうと支度をしていると、ポケットに入れていたスマホが震えた。画面には「大本さん」と書いてある。工事現場のバイト先の上司だった。
「はい、お疲れ様です。」
「おう、今日の現場なんだがな、中止になっちまったって連絡あったから今日は休みな。」
「あっはい、わかりました。」
月に何回か、雨が降ったり現場で急な問題が発生した時などにバイトが中止になることがある。
「今日は妹さんと夕飯一緒出来んだな。楽しめよ。んじゃな。」
大本さんは、うちの家の事情を聞いて深夜ギリギリまで俺が働けるように色々やってくれた人の1人だ。高校生の俺が0時まで働くことができているのは大本さんのおかげと言っても過言では無い。
そして、こうして俺たちのことを気にかけてくれる良い人である。助けられてばかりで感謝してもしきれない。
因みに、前に入院した時に休みの連絡を入れたのも大本さんだ。
さてと、バイトもなくなったことだし、さっさと家に帰るか。いつもバイトにかこつけて家事を真優に押し付けちゃってるからな。受験生だし、出来るだけ自分の事に専念できる環境を作ってやりたい。
「おーい優作ー。一緒に帰ろうぜー。」
「よし、和人。さっさとしないと置いてくぞ。じゃあな。」
「え?ちょ、まっ……荷物がっ!」
悪いが置いてくぞ。一緒に帰りたいなら走ってこい。
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「ふぅ。」
終わった終わった。最近は家事全般を真優にやらせちゃってるから、俺がやることが少なくなってきている。とはいえまだまだ腕は鈍っちゃいなかったようだ。
家に帰って、部屋の中に入ったと同時にカバンを放り投げ、米を洗って炊飯器にぶち込みスイッチを入れる。
そして洗濯物を取り込み畳む。畳終わったら、放り投げたカバンと洗濯物を持ち、真優、俺、洗面所の順番で洗濯物をしまい(同時に自分の部屋にカバンを放り投げる)、風呂場に飛び込み風呂掃除。
ピッカピカにしたら夕飯作り。今日は豚の生姜焼きとニラ玉、そして味噌汁である。焼いて炒めて味噌溶いて、皿を洗って盛り付けて完成。
そんな予定を家に帰りながら頭の中で組み立て反芻し、その通りに実行に移す。
そのお陰でなんとか真優が帰る前に終わらせられた。
「すげえな優作、俺がマンガ3冊読み終わる前に全部終わらしてんじゃん。」
「それは読むのが遅い。真優ももう少しで帰ってくると思うから、夕飯はもうちょい待ってて。」
「ああ。悪いな俺も貰っちゃって、飯代は出すから。」
「いや、いらねぇよ。前、真優を泊めてくれた礼だとでも思っとけ。」
あれから俺の早足帰宅について来た和人が、「今日は父さん帰ってこないんだよぉ」などと言ってきたので、折角だし一緒に飯食うことにした。
「にしてもタイミングよかったなぁ。タイミングぴったりで優作のバイトが無くなってよかったわ。」
「まあ、俺ん家来たって本読むか飯食うかしか出来ないけどな。」
「その飯が大事なんだよなぁ。」
和人の家は男の二人暮らしなのであまり凝った料理が出ないらしい。っていっても俺だって大したもの作れない。今日だって短時間で作れるものばっかだ。
あれ?和人はもしかして、俺じゃなくて真優の料理を食べたかったんじゃないか?いやまてよ……もし俺がバイトだったらこいつは真優と2人きりで……なんてやつだこいつは!
「おいなんだその目は。そんな腐った目で睨まれたら怖すぎて腰抜けそうになるからやめろ。」
「真優に悪影響を及ぼそうとするやつは誰であろうと許さん。」
「どういう考え方をしたらそうなるんだよ……。前よりシスコン悪化してねえか?」
「妹が好きで何が悪い。」
「すでに開き直ってるところが悪いかな。」
家族愛に溢れてる素敵な男子高校生だろ。悪いところなんてないはずだ。
どうでもいいけど「コンプレックス」って日本じゃ「劣等感」の意味合いで使われることが多いから、「シスコン」って妹に劣等感抱いてるように聞こえるんだよなぁ。俺の場合、「真優は俺より何倍も優れてる妹」とは思うが劣等感は抱いてないからこの言い方は好きじゃない。だから「妹大好き」の略で「ラブシス」とかいいんじゃないかと思う。
んー……ボールにモンスター収納してポケットに入っちゃうゲームに似たような名前のやつがいたような気がするなぁ。ラブゴミ……ラブクズだっけ?
「あ、そうだ、話は変わるけどさ。」
「ん?」
「優作って今好きな人いるか?」
「当たり前だろ。真優とか優作とか修さんとかバイト先の先輩とか。」
俺の周りは良い人ばかりだからな。他にも好きな人は多い。
「ああ……悪い、俺が間違ってた。そうじゃなくて恋愛的な意味で好きな人ってことな。」
なんだかスゴく可哀想なものを見る目で謝られてしまった。
恋愛的な意味、ねぇ。
「いないな。将来的にはわからんけど、今は作る気もない。」
「はあ……やっぱりなぁ。一応聞くけどなんで?」
「そりゃあ好きな人ができたとして、万が一恋人関係になったとしても、そいつの為に使ってやれる時間も金も無いからな。恋愛感情なんてものを今俺が持ったら相手が可哀想だ。というか大前提として俺を好きになるような特殊な人間なんていないだろ。」
「うん、案の定予想通りな回答ありがとう。」
「分かってんなら聞くなよ。」
「ただの確認だよ。」
そう言って和人はスマホをポチポチし始めた。ラインでもし始めたのだろう。
にしてもさっきの質問になんの意味があったんだろう。
あと、案の定予想通りってかなり頭痛が痛い。
「んーと、優作。付き合うとしたらどんな奴がタイプだ?」
「さっきからどうしたんだよ。いつもはそんな話しねぇのに。」
「いいから答えて。」
んだよ、和人って色恋沙汰に無関心なんじゃなかったのかよ。まさか誰かに一目惚れでもしたのだろうか。でもそんな性格でも無いしなぁ。
「タイプねぇ、あんまり考えたことなかったけど……。」
「ほら、そこはいろいろあるでしょ。黒髪ロングが良いとか、料理が美味いとか、頭が良いとか、優しいとか。」
なるほどそれはつまり、
「それだと俺のタイプは真優ってことになるな。これは偶然じゃなくて必然なのか。」
「おいそこのシスコン、今は妹抜きにしろ。」
ダメかー。真優ぴったりだったんだけどなー。
「そうだな……もし俺が付き合えるんだったら、3年以上遠距離しても俺のことを好きでいてくれる子が良いかな……って恥ずいなこれ。」
「ふむ、その心は?」
「さっきと同じだよ。彼女に割ける時間が少ないからな。デートするにしても数分どこかで会ってお喋り、くらいしかしてやれないからな。相手が可哀想だ。」
「なるほどね。」
そう言って和人はまたスマホをポチポチし始めた。
なんで俺がこんな恥ずかしいこと言わなきゃいけんのだ。
俺は彼女なんて選り好めるような立場に居ないから、独身生涯でも良いと思ってる。まあ、できることなら結婚して子供欲しいけどな。
「よし、優作。次の質問だ。」
「え、まだやんの!?」
「まだまだ続くと思うぞ。」
「はあ!?思うぞってなんだよ。もういいだろ、なんでそんなに聞いてくんの?お前、俺と結婚したいの?」
「キモいこと言ってないで大人しく質問に答えろ。先に進まん。」
「えーなんの拷問だよこれ……。」
「次の質問はーーーーー」
ったく……。今日は和人誘うべきじゃなかった気がする。
普段全くそういう話をしないから結構疲れるんだけど。
あぁ我が愛する妹の真優よ。早く帰ってこの拷問から解き放ってください……。




