表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

テスト返却

 真優まひろとのお出掛けから1ヶ月とちょっとが経った。

 肋骨と左腕の骨折も治り、バイトも再開。完全に日常が戻って来た。

 んで先週は定期試験があり、今日がテスト返却日である。


「あーヤバいよーヤバいよー赤点怖いよー!」

「そうかい、頑張れ。」

「冷たい!冷たすぎる!私の気持ちも察してよ!」


 俺の机の前でキャーキャー騒いでるのは新田美穂だ。毎回テスト返却日に俺の机の周りで騒ぐ性質があるようだ。

 うちの学校では、赤点を取るとその教科のテストの模範解答を作るというペナルティが課せられる。

 そして新田は毎回1教科は絶対に赤点を取る。


「でも今回はちゃんと勉強したんだろ?」

「今回『は』じゃなくて今回『も』だからね!?」

「あーはいはい。」

「でも今回はいつも以上にやったからね!赤点はないよ!」

「んなら騒ぐ必要ないだろ……。」

「それでも心配なんだもん!」


 いやいや、心配なのはいいんだけどね?心配だから騒ぐっていう意味がわからないの。しかも俺の周りで。何?同性の友達居ないの?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「(泣)」

「お、おう。」

「グスン(泣)」

「えー、と?教科は?」

「数学(泣)」

「あ、おう。数学な?ほれ。」

「100点ってナンダヨォォォォォォォォォォォッ!!!(怒)」

「声デケェよ、授業中だぞ……。」


 昼休みはいつもの通り食堂で過ごし、現在は5時間目である。

 俺の通っている高校では、テスト返却を全学年全クラス同日に行っている。そして、午前中にすべてのテストが返却され、午後の授業はテストの見直しという名の自習となる。

 一応普通は担任が教室に居るはずなのだが、うちの担任である金森は適当に適当を重ねたような人だから、こういう自習みたいな時は大体生徒ほったらかしでどこかに行ってしまう。

 そのためこの時間、うちのクラスは自由時間のようになるのが恒例だ。だから俺もこの機会に眠っときたかったんだがなぁ。


「ほんとになぁんでそんなポンポン100点取れんのかなぁ。今回8教科中100点いくつ取ったよ。」


 そう言いながら和人が俺の前の席に座った。

 あれ?前の席のやつどこいった?うわっあんな所で一狩りしてるわ。

 えーとなんだっけ?100点の数か……えーと、


「現文、数学、日本史、保健、音楽だな……えと、新田さん?そのなんとも言えない目で俺を睨んでくるのやめてくんない?」

「いやだってそんな100点取るとか尊敬通り越して引くってば。」

「なるほどなぁ、わかった。つまり俺の答案は必要ないってことだな。返してくれていいぞ。」

「え、いや、ごめんなさいほんと尊敬してますお借りします!!」


 ったく、ひどい言い草だな。これくらい誰だって取ろうと思えば取れるだろうに。

 それと新田はもうちょっと本気で勉強しなさい。

 内心で溜息を吐いていると、和人が話を続けた。


「因みに他の教科は何点なんだ?」

「んーっと、物理と地理が99点、英語97点だな。」

「うえぇ……怖っ…….。」

「相変わらずすごいなお前って。まだまだ学年1位は揺らぎそうにないな。」

「周りが本気出してないだけだろう。それと新田は俺の答案没収な。」

「あー!ごめんっ!ごめんなさい!それがないと私一生掛かっても終わらないからっ!」


 必死すぎだろ。そこまで難しかったか?


「普通は本気出したって100点取るの難しいからな?しかもお前、家で一切勉強しないだろ。そういうのって割と才能の部分あるんじゃないか?」


 勉強しないっていうかする時間ないだけなんだけどね。でも、だからこそ授業中で覚えちゃおうと頑張るから、授業はあまり眠くならずに受けることが出来る。

 それに俺は高卒で働くつもりだから出来るだけ好成績で卒業したいのだ。


「えっ……千葉くんて家で勉強しないの?」

「ん?まあな。宿題とかも学校居る時に終わらしちゃうし、家で勉強なんてほぼ無いな。」

「嘘でしょ……。」


 なんだよその絶望したような目は。


「え、なに?勉強してないんなら普段家で何してんの?」

「バイト。」

「家で!?」

「ちっげえよ、工事現場でだよ。」


 一応家でのバイトも探してはみたけど、あまり給料が高くないため断念した。


「あーなるほどね。それじゃあバイトから帰ったら?」

「軽くシャワー浴びて寝る。」

「え……?バイト何時までやってんのよ。それとも寝るのはやいの?」

「寝るのは12時半でバイトは12時までだな。夜のな?」

「は?そんな遅くまでやってんの?1日何時間バイトしてんのよ……。」


 えーと、新聞配達2時間に、現場が6時間だから。


「8時間くらいにはなるな。お?ちょっと待てよ?まだ詰められるかもしれねぇ。」

「お前まだやる気かよ……。」


 今は生活費が何より大事だからな。少しでも真優に楽させてやりたい。


「えーと……。1日24時間だろ?で、バイトで8時間。登下校時間込みの学校に居る時間が9時間。これで残り7時間。で、飯の時間やら学校とかバイトの準備やら風呂やらで4時間くらいは使うから……おい!大発見だぞ和人!まだ3時間もバイトに充てられる時間が残ってたぞ!」


 これは大発見すぎる。ヒトシくん人形欲しい。


「お前頭良いくせにそういうところは馬鹿だよな。」

「どういうことだ!俺を何処かの誰かと一緒にするな!」

「それ私見ながらそれ言うのやめてね!?」

「で?俺の完璧な計算の何処にミスがあるというのかな?」

「はぁ……。お前いつ寝るんだよ。」

「あ……。」


 寝る時間カウントしてなかったのかぁー……。

 ん?でも、待てよ……?


「寝る時間半分にすればその分……いでっ!」


 和人が丸めた教科書で俺の頭を叩いてきた。力強い……。


「今のままでもギリギリアウトなんだからそれ以上睡眠時間削んじゃねぇ。」

「アウトなのかよ……。」

「朝と夜にそんだけ働いて昼は学校で授業受けて、そんだけ頭も体も酷使してんだから今のままでも睡眠時間足りてるわけねぇだろ。」

「お兄ちゃん、真優のためなら頑張れる。」


 流石に睡眠時間0時間だと身体もたないだろうけど、なんとかなるんじゃないだろうか。


「1時間半でも身体もたねぇよ……。」

「はい、サラッと心の中読まないでね?」

「長い付き合いだ、それくらいわかる。とにかく!これ以上睡眠時間を削るようだったら、俺から真優ちゃんにチクるからな。」

「うっ……。わぁったよ、これ以上バイト時間は増やさねぇ。」


 流石に真優に言われるのはマズイ。今の勤務体制でさえ真優は芳しく思ってないからな。

 それにしても和人もすっかり俺の手綱の使い方上手くなっちまったな。全く嬉しくないぞ。


「っていうか千葉君ってなんでそんなにお金欲しいの?妹さんのため、とか言ってたけどなんか高い物でもねだられてるの?シャネルのバッグ?」

「真優はそんな我儘は言わないぞ!っていうか言ってくれないぞ!」


 真優は良い子だからな、良い子過ぎて心配になるレベル。


「また優作のシスコンが……。でもそうか、新田はまだ優作の家のこと知らねえのか。」

「別に隠してるわけでもないけど聞かされて面白い話でもないしな。」

「えー教えてよー。何ねだられてんの?香水?車?家?」


 新田の中ではねだられてんのは確定なのかよ。しかも車とか家ってなんだよ。重すぎるわ。

 真優がねだるとすれば、ねだるとすれば……。あっるぇ?心当たりが……。ちょっと悲しくなってきた。


「おい、優作。なんか暗くなってるぞ。」

「お?あ、あぁすまん。考えるまでもなく真優が良い子だなぁと思ってただけだ。

「それで暗くなる理由がよくわからんぞ……。」


 和人が呆れ顔で俺のことを見てくるがいつもの事だ。気にしない。


「んで新田、俺のバイトはただの生活費稼ぎだ。」

「え?千葉君のお父さん働いてないの?」

「いや、父さんは死んだんだよ。ちょうど2ヶ月くらいかな。」

「え……。」

「んで母さんは俺が4歳の時に死んでるからな。働けるのが俺だけなんだよ。」

「あっ、そ……うだったんだ……。ごめんなさい……。」


 新田は喜怒哀楽激しいな。でもこう、しおらしくなってる姿は似合わないと思う。


「まあ、気にすんなって方が無理かもしれんが、新田には関係ない事だし、大変なんだなーくらいで大丈夫だから。」

「関係なくなんかないもん……。」

「ほう?」


 なんかボソッと新田が呟いたみたいだが何言ってるか全く聞き取れなかった。

 それとなんか和人が1人で納得してる。なんなんだ一体。


「でもそっか、2ヶ月前……。だから新年度前と後で少し様子が違ってたんだね。」

「ん?1年の時って新田とはクラス違ったよな?俺の事知ってたのか?」

「ふぇ!?いや!その、あれだよ!あれあれ!そう!あれ!学年1位の人がどんな人なのかなーとね!思っただけで!あれだよ!」

「そ、そうか。」

「ほう、とうとう優作にも……。」


 なんかすごい剣幕でアレアレ言われたな……。知らずに地雷踏んじゃったのかな。

 でも全く面識なかった人にも違ってるように見えちまったのか。俺の中じゃ平静保ってるつもりだったんだけどなぁ。

 それと和人は何に納得してるんだ?


「あっ、金森くるぞ。席戻ったほうがいい。」

「うわっほんとだ。珍しく早いな。」


 教室から渡り廊下を渡ってくる担任の姿が見えたため、教室内が少し慌ただしくなっている。


「んじゃあ俺も席戻るわ。」

「私も戻るね。答案、すぐ返すから!」

「おう。」


 そう言って2人がそれぞれの席に戻っていった。

 はぁ、結局眠れなかったなぁ……。でもこうやって人と話すのも悪いものじゃないな。

 今日もバイトはあるし、怪我しない範囲で頑張ろう。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ