お出掛け・第2編
突如、我が愛する妹が不気味なほどに不敵な笑みを浮かべた。
俺がイヌワシを見に行き、かっこよく撮影した後のことだった。
ハシビロコウとの、瞬きさえも禁止であるかのような鬼の睨めっこに決着がついたようだ。
睨めっこが始まってから32分……33分かな?ついにハシビロコウがしびれを切らしたらしい。羽をパサッと動かした。
俺は感動した。ハシビロコウったら何時間も動かないことが普通なのに30分ちょいで動いてくれたのだ。
ちょくちょく真優の後ろから涙目で訴えかけてたのが功を奏したのだろう。閉園まで動かなかったら泣けてたよ。ありがとう……ハシビロコウ……。
「猿も他の鳥もほとんど横目で素通りだったのに……。真優はコイツを目指して歩いてたのか?」
「目的の1つではあったよ。遠足で来た時のリベンジ。」
「え、なに?小学校の時もやったの?同じこと?」
「わたし、負けず嫌いだからね。あの時は集団行動という制限があったから負けちゃったけど。今回はリベンジを果たしたよ、お兄ちゃん。」
そんな真剣な眼差しで言われてもお兄ちゃん困っちゃうなぁ。小さい時ならまだしも、今まで根に持ってたのかよ。負けず嫌いにも限度があるだろ。
まあ?日本でハシビロコウが見れる動物園なんてここ含めて数箇所しか無いもんな。珍しいものは目に焼き付けておかなきゃならないからな。しょうがないよな。よし、俺超ポジティブ。
「はい!気を取り直して次行こう!」
道なりに歩き、次に来たところは、草原ゾーンと呼ばれるところだ。主に象とかキリンがいる。
「ミーアキャットだ!可愛いなぁ……。あっ!お兄ちゃん!向こうにシマウマいるよ!」
おお……。やっと動物園に来たって感じだな……。
お、あれはアミメキリンではないか。まあ、キリンなんてアミメキリンとマサイキリン以外知らんけどな。
「ここでお兄ちゃんにクイズです!デデン!」
「おおう、急な展開だな。」
今まではスルーするか見つめ合うかのどっちかだったのに。
「人間の首の骨は全部で7つ。ではキリンの首の骨はいくつ?」
「7つだろ?」
「速い……。少しは考える素振り欲しかったよ……。」
「いやだって知ってたからなぁ。」
キリンの首の骨8つ説もあるみたいだけどな、一般的には7つで知られてるんじゃないかと思う。一般なんて知らないけど。
というか、キリンだけじゃなくて哺乳類の殆どが首の骨7つなんだよな。例外はいるけど。マナティとか。
「こっちは象いるぞ。」
「おーでかーい!んーと?インドゾウだって!」
まあ、見りゃわかる。でも俺はアフリカゾウの方が好きなんだけどな。一度生で見てみたいなぁ……。あ、そうだ。
「ここで真優ちゃんにクイズです!ででん!」
「お兄ちゃんがやるとなんかなぁ……。」
ひどいなぁ……。恥ずかしさを押して「ででん!」なんて言ったのに……。
「悪かったよ……。でクイズだクイズ。インドゾウとアフリカゾウの違いを、そうだな……3つ述べよ。」
「え、そんなに違いあるの?」
「まあな、でもあそこにいるインドゾウ見てりゃ3つくらい思いつくんじゃねえか?」
俺がそう言うと、真優はインドゾウのほうに視線を送る。
僅かな時間が過ぎ、再びこちらを向いた真優は口を開く。
「えと、耳の大きさ?」
「おー正解。インドゾウはアフリカゾウより耳が小さいんだよ。では2つ目は?」
2つ目の答えを促すと、こちらに向いていた視線をインドゾウに戻す。
さっきよりも少しだけ長い時間逡巡し、あっと小さく声をあげてこちらを向く。
「えと、牙の長さ、とか?」
「正解。アフリカゾウは長い牙持ってるけど、インドゾウは短いな。では最後。リーチだよ?」
再び視線をインドゾウに向ける。
今度はんーんーと小さく唸りながら考えてる。あら、案外わかんないもんかね。
「うー……ギブ。わかんない……。」
「残念。正解は結構あるんだよ。体自体の大きさとか蹄の数とか耳の形とか気性の荒さとか。まあ一番わかりやすいのは耳の大きさだろうけどな。」
「ほえー、よくそんなこと知ってるね。お兄ちゃんも動物好きだったっけ?」
「おう、昔ほどじゃないけどな。」
昔は金、土、日の夜は動物番組を観るのが楽しみだった。自分の知らない世界にとてつもなくワクワクしながら観てた記憶がある。
「ゾウに関してはこれくらいでいいだろ、次行こうぜ。」
「そうだねぇ。これ以上無駄なゾウの知識は要らないかなぁ。」
「無駄言うな。」
道なりに歩いて行く。歩いて行くと、ついにお目当の動物だ。
「お兄ちゃん!ライオンだ!本当にいるよ!」
「うっわマジだ!やべえな!」
何がヤバイってこの動物公園にライオンがいるところからしてヤバイな。
昔からこの動物公園に肉食の猛獣イメージが全く無かったから違和感しかない。
でもかっこいいなぁ。いかにも王者って感じだわ。
「ねぇお兄ちゃん!一緒に写真撮ってくれない?」
「いいぞ。あっちにガラス展示があるから一緒に撮るなら向こうのほうがいいんじゃないか?」
「そうだね!行こう!」
真優は駆け足でガラス展示の方に行ってしまった。
俺もそうだが真優もライオンにかなり興奮してる。
「あっ!こっち来たよ!早く早く!」
「おし、行くぞ。はい、チーズ!」
「どう?上手く撮れた?」
「こんな感じだけど、大丈夫か?」
「いいじゃんいいじゃん!良く写ってるよ!ありがと!あ、お兄ちゃんもライオンと一緒に撮る?」
撮る!と言いかけて、少し考え、辺りを見回す。
「お兄ちゃん?」
「折角だから一緒に撮ろうぜ?あ、すみませーん!写真お願いしてもいいですか?」
そう言って俺は、近くに来た若い家族の、お父さんっぽい人に声をかけて持ってたスマホを渡す。
「いいですよ。ライオンが来たら撮りますね。」
「はい、お願いします。」
「あ、来ました!いきますよー、ハイチーズっ!」
そう言って若いお父さんは俺のスマホを横にして写真を撮ってくれた。んー……。
「いい感じだと思いますよ?」
うん、確かにお父さんの言う通り、写真を見る限りはベストショットではあるのだが……。
「すみません、スマホ縦にしてもう1枚撮ってもらえますか?」
「え?あ、はい。」
そう頼んでもう1回ガラスの方に向かう。
「どしたの?ブレてた?」
「いや、そんなことは無いんだが……。ただ縦の写真が1枚欲しいだけだ。」
「縦?なんで?」
いや、なんでって言われても……。
「あ、ライオン来ました!行きますね、ハイチーズ!」
今日の記念にスマホの待ち受けにしたいんだよ……。




