第2話 試験当日
弓術者試験。
キリセル国内で二年に一度行われるそれは、弓術者を目指す者たちの登竜門。言い換えればキリセル国は他国では試験が行われず、このアリシア大陸で唯一弓術者を出している国なのだ。加えて合格者も数名のみ。かなりの高倍率である。
受かってしまえば楽なのだが、不合格だった場合、今後は受験資格がなくなり二度と弓術者になる事ができない。勿論、独学で学ぶことで知識や技量を得ることは可能。しかし、結局は試験を受けなければ聖職者になれず意味がなくなる。
◆
アナギに叱られてから一週間が経過した。会場であるレナヴァント教会には各国から弓術者を目指す受験者が集っていた。イルファーナも同じく弓術者を志すため、セナローズと共に訪れていた。
「ありゃ、意外と少ないんだな」
会場に来ていたのは約百人ほど。もっと大多数の人を想像していたイルファーナは、そのあまりの少なさに驚きを隠せずにいた。
「そんなに難しいのか」
「そりゃそうだよ。弓術者の仕事は危険と隣り合わせだからね。下手すると命を落とす可能性だってあるんだ。それを乗り越えるには…」
「力と適応力が必要って訳だな」
「そういうこと」
早速受験登録をしにイルファーナとセナローズは教会の入口の受付に向かう。
例年受験者が少ないことで流石に緊張感を無くしているのか、係の青年は眠たそうに口を大きく開けてアクビをしている。二人が近付いても何かと変わる様子は見えず、のんびりとした態度で対応してきた。
「受験者の方はー、緑の腕輪を配布しますので、受けとりましたら中で説明を聞いてください」
渡された緑の腕輪を左腕に身につけ、言われた通りに中に入る。ミサで使用される教壇が一番奥にあり、壁には彩りどりに輝くステンドガラスが教会内を照らしていた。
既に数十名の受験者が集っていたのか、各席に静かに座っている。
これから内容について説明するのか…。そんなことを考えていると、セナローズが「じゃあ」といってその場から離れるのが視えた。
「セナ、どこ行くんだよ」
「どこって、試験官の集まりだよ。一応僕もこの試験の関係者だから」
「俺はお前が試験官だなんて聞いてない」
「言ってないし聞かれてもいないよ。もし聞かれたとしても教えることはできない」
試験内容といい誰が試験官なのか当日まで極秘にされている。だからセナローズも話さなかったのだろう。
「イル、もう少しで説明が始まるけど」
「え? ああ、そうだな」
見ると教壇に説明係の人が立っていた。
イルファーナは怒られてしまわないように近くの席に座り、話を聞く体制になる。セナローズも集まりに遅刻しないようにひっそりとその場を去った。
試験内容は毎回異なるもので行われる。
近年は筆記によって知識を確認したり、面接で一人ずつ弓術者としての心構えを問うことがほとんど。今回イルファーナたち受験者に言い渡される課題は…。
「地上人の、それも人間以外の種族と契りを交わせ…か」
契約。
弓術者、魔術師を含める術者たちはそれぞれ契りを交わした契約者がいる。獣人、神族、天上人もしくは人間。契約の内容によって得られるものは大小異なる。中でも術者本人が新たな能力を求めるためが多い。
イルファーナたち受験者に課せられた課題は、各自指定された場所で明日の朝までに人間族以外の種族と契約を結び戻ってくること。
説明を聞き終えた受験者はそれぞれ指定場所はぬ向かうため次々と教会を後にしていく。
イルファーナも同じように外へ出ようとするが、背後から伸びてきた腕に服を掴まれ、引き戻された。危うく転びかけるがすぐ体勢を整えた。
「イル」
背後からイルファーナを引っ張ったのは先程まで試験官の会合に行っていたセナローズである。心無しか少々不安げな面持ちだ。
「何だよセナ、今更試験は弓術者にはなるな、とか言うんじゃないだろうな? あと、急に引っ張るのは止めろ。息が詰まって酸欠になったらどうする」
「酸欠にはならないってわかってるから大丈夫だよ。それに、流石にイルの決めたことだもん。今日に限って止めることは出来ないよ。けど……」
「けど?」
「今回の試験、何か嫌な予感がするんだ。内容もこれまでとまったく違うし……、下手をしたら命を落としかねないよ」
「実戦で個人の能力を測る為だろ。心配要らねぇよ」
幼馴染みの言葉に「そう……」と返すセナローズだが、その表情が晴れる気配は見受けられない。
受験者のイルファーナも普段見せることのない彼を慮ってか、軽く肩を叩いた。
そして、いつものように口の両端を上げて悪戯が完了した時と同じように笑ってみせる。
「セナ、確か弓術者はパートナーの魔術師を選ぶことができるんだったよな?」
「そ、そうだけど」
「お前、今現在パートナーは?」
「いないよ」
弓術者や魔術師は基本的一人で行動することが多いが、パートナーを希望する場合には自由に選択できる。
なぜ今そのようなことを聞いたのか。首を傾げる少年にイルファーナは言う。
「俺はこの試験に必ず合格する。そしたらセナ、俺のパートナーになってくれないか?」
イルファーナの言葉を聞いたセナローズは、納得がいった。パートナーを選ぶ場合、互いに信頼関係がなければ成立することはない。幼少時より一緒にいるセナローズだからこそ、自分と共に戦うことが相応しいと考えたのだろう。
「でも、まだ合格が決まらない時に宣言しちゃっていいの? 落ちるかもしれないんだよ」
「いいんだよ。これに合格しないと駄目なんだからよ。絶対に受かってみせるさ」
ニッと笑う彼の中は、どんな根拠があって言うのだろうか。
呆れるが、彼のあまりにも真っ直ぐすぎる言葉にセナローズも思わず笑ってしまう。
「わかった、パートナーになるよ。その代わり、イルもちゃんと合格してきなよ」
「まかせとけって」
イルファーナはそう言うと、自らが指定された場所へ向かうべく、教会の外へ出て行った。
試験は少年がその場所へ到着した二十分後に開始となる。