表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

土曜日

土曜日

 夜の間に、へとへとになった体を休めた。もう長く木のしるをすっていなかったが、あまりゆっくりできないようだ。

 山のむこうから、かすかにしおのにおいがしてくる。海はもう、すぐそこなのだ。山の中ほどで、はねの色がちがうセミと出会った。とてもうれしくなり、話しかけてみた。     

「こんにちは。海は、こっちのほうで合っているのかな・・・きみは、海を見たことがありますか?」

声をかけられて、大きなセミは、めんどくさそうに答えた。

「見なれない顔だね。どこから来たんだい。ぼくは、海なんか見たこともないね」

「すぐ近くにあるのに、でっかい海を見たいとは思わないのかい?」

 セミはふしぎに思ってきいてみた。じぶんとは考えが、ちがうようだ。

「ぼくは海なんか、近づきたいとも思わないね。もし海におちてしまったら、もうたすからないよ。鳥や魚がたくさんいて、ぼくらとは、すむせかいがちがうんだ」

二ひきはしずかになってしまった。やがて大きなセミが口をひらいた。

「きみはひまなセミなんだね。ぼくはメスをさがすのに、いそがしいんだ。きみもふらふらしていて、いいのかい? ぼくらには、あまり時間が、のこされていないはずだよ」

そう言いのこすと、大きなセミは、はねをふるわせて山のおくのほうへ、とんでいってしまった。

 もうまわりにセミはいなくなった。小さなアリが、ゆらゆらとゆれるえだを、いそがしそうに歩き回っているだけだった。

 見たこともない、細い虫がよってきた。みどりの体はしなやかで、前あしがギザギザとしていた。頭のてっぺんにある、ふたつの目をギラギラさせながら、なおも近よってくる。そいつは大きなカマキリだ。

 いつもならセミは、すぐとびたてるのに、その日はなぜか、うごくこともできなかった。たびをして、つかれきっていたのだろうか、それとも、はらぺこな虫からにじみだす、見えない力に、うちのめされたのだろうか。そこにセミは、くぎづけになってしまった。

 こわくてたまらなくなった時、きゅうに上のほうからすごい風がふいてくる。黒くて大きな、はばたく生きもの―それはカラスだった。気づくと、みどりの虫がきえうせている。セミは何がおこったのか、しばらく考えることができずにいたが、ぶるぶると、ふるえが止まらなくなってしまった。あとには白いこわさだけが、のこされたのだ。

あたりはいつの間にか、くらくなってしまった。もうまようことも、休むこともゆるされない。はねは、あちこちやぶれ、体はつゆにぬれておもくなり、目はぐるぐると回ったが、ふしぎと海までたどりつける思いがあった。

とんで、とんで、クモのすをつきやぶった。

とんで、とんで、ガのむれをうまくよけた。

 さいごまで気になっていたのは、妹ゼミのことであった。ぶじにあいてを見つけることは、できたのだろうか。でも、今すぐ生まれた森へ引きかえしても、もうおたがいに生きて会うことは、かなわない。

 どのくらい、とんだのだろう。まわりが明るくなってくるのが、かんじられた。夜明けが近づいてきたのだ。海のなみが、すなをあらう音も大きくなってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ