土曜日
土曜日
夜の間に、へとへとになった体を休めた。もう長く木のしるをすっていなかったが、あまりゆっくりできないようだ。
山のむこうから、かすかにしおのにおいがしてくる。海はもう、すぐそこなのだ。山の中ほどで、はねの色がちがうセミと出会った。とてもうれしくなり、話しかけてみた。
「こんにちは。海は、こっちのほうで合っているのかな・・・きみは、海を見たことがありますか?」
声をかけられて、大きなセミは、めんどくさそうに答えた。
「見なれない顔だね。どこから来たんだい。ぼくは、海なんか見たこともないね」
「すぐ近くにあるのに、でっかい海を見たいとは思わないのかい?」
セミはふしぎに思ってきいてみた。じぶんとは考えが、ちがうようだ。
「ぼくは海なんか、近づきたいとも思わないね。もし海におちてしまったら、もうたすからないよ。鳥や魚がたくさんいて、ぼくらとは、すむせかいがちがうんだ」
二ひきはしずかになってしまった。やがて大きなセミが口をひらいた。
「きみはひまなセミなんだね。ぼくはメスをさがすのに、いそがしいんだ。きみもふらふらしていて、いいのかい? ぼくらには、あまり時間が、のこされていないはずだよ」
そう言いのこすと、大きなセミは、はねをふるわせて山のおくのほうへ、とんでいってしまった。
もうまわりにセミはいなくなった。小さなアリが、ゆらゆらとゆれるえだを、いそがしそうに歩き回っているだけだった。
見たこともない、細い虫がよってきた。みどりの体はしなやかで、前あしがギザギザとしていた。頭のてっぺんにある、ふたつの目をギラギラさせながら、なおも近よってくる。そいつは大きなカマキリだ。
いつもならセミは、すぐとびたてるのに、その日はなぜか、うごくこともできなかった。たびをして、つかれきっていたのだろうか、それとも、はらぺこな虫からにじみだす、見えない力に、うちのめされたのだろうか。そこにセミは、くぎづけになってしまった。
こわくてたまらなくなった時、きゅうに上のほうからすごい風がふいてくる。黒くて大きな、はばたく生きもの―それはカラスだった。気づくと、みどりの虫がきえうせている。セミは何がおこったのか、しばらく考えることができずにいたが、ぶるぶると、ふるえが止まらなくなってしまった。あとには白いこわさだけが、のこされたのだ。
あたりはいつの間にか、くらくなってしまった。もうまようことも、休むこともゆるされない。はねは、あちこちやぶれ、体はつゆにぬれておもくなり、目はぐるぐると回ったが、ふしぎと海までたどりつける思いがあった。
とんで、とんで、クモのすをつきやぶった。
とんで、とんで、ガのむれをうまくよけた。
さいごまで気になっていたのは、妹ゼミのことであった。ぶじにあいてを見つけることは、できたのだろうか。でも、今すぐ生まれた森へ引きかえしても、もうおたがいに生きて会うことは、かなわない。
どのくらい、とんだのだろう。まわりが明るくなってくるのが、かんじられた。夜明けが近づいてきたのだ。海のなみが、すなをあらう音も大きくなってきた。