天才剣士と美少女の悲恋物語
「おりゃ!」
建物の物陰で剣を振っている少年がいる。
その剣さばきは見るからに素人、才能のさの字も見られない酷いものだ。
体移動から剣の振り方の何から何まで全てが平凡。
突然、少年は後ろから声をかけられた。
「お前の剣は全く平凡だな」
全く失礼な言葉だった。
少年は剣を振るのをやめ、声がした方に顔を向ける。
そこにはロングコートを着ている男が立っていた。
その男の特徴的なのは髪の毛だった。
その髪は紅蓮のように紅い。
「あんたは誰だよ、初対面の人に第一声がそれって酷くないか?」
「ああ、自己紹介を忘れていた。俺はクラウド・シクエル・アルバート。元亡国の皇子だった人間だ」
その名前を聞いて少年は目を丸くした。
「あん、あなたが、あのシクサード国、レイン将軍に次ぐ力を持つクラウド将軍⁉︎」
少年は汗が止まらない。
クラウドは腕を組み、少年を見据える。
「おい、俺は名乗ったぞ?」
はっとなり少年は自己紹介を始めた。
「わ、私の名前は「別に畏まらなくていい」すいません、俺の名前は……ハレルヤ・ナウル・ペルセウスです」
今度はクラウドが驚く番だった。
何故驚いたかというとファミリーネームの方に見覚えがあったのだ。
どこで見たかというとクラウドは古文書を読むのが趣味で、とある古文書にこう書かれていたからである。
『全ての戦士の祖はペルセウスにあり』
ペルセウスとは遥か昔、まだ魔法が存在していた時代の伝説的な英雄であり、史上最強の戦士のこと。そして現代に残るペルセウスの子孫は不明とされており、見つける方法は目の色を見ること。
ペルセウスの身体に関する記述には
『かの者白雪のような白銀の髪を持つ。そして特異な目の色をしており、瞳の色は世界を照らすような金色の瞳であった』
と書かれていた。
しかし、クラウドは落胆した。
伝説のペルセウスの子孫に出会ったと思ったら才能の欠片も見えない少年だったとは思わなかったからだ。
「そうか、剣の鍛錬を怠るなよ?良いな」
そう言ってクラウドは身を翻し、去っていった。
そして、ハレルヤはクラウドの後ろ姿を見ながら、深くお辞儀をした。
「でも、やっぱ俺は才能ないのかね。あんな大将軍にさえ平凡って言われたし。母さんはお前は戦士の祖の血を引いてるって言ってるけどさ。自覚ないんだよな」
少年は自嘲気味に独り言を言う。
「もう、今日はやめにしよ」
そう言って、物陰から出て、表通りへと歩く。
ハレルヤの両親は既に他界しており、両親が残した家に住んでいる。
ハレルヤが自宅へと到着し玄関を開け、ただいまと言うが誰も返事をしてくれない。というか返事をしてくれる人がいないのだ。
さて、ここで一つの話をしよう。
昔、まだ魔法が存在していた時代。一人の若者がいた。名はペルセウス。彼は魔物退治を専門とする戦士で当時、史上の者の中では最高の戦士。
しかし、ペルセウスの子らは武勇には恵まれなかった。なぜならペルセウスが過去に退治した魔物の呪いのせいだ。
ゆえにペルセウスの血を引く者は武勇に恵まれることは決してなく、一族は平凡に過ごすことを余儀なくされた。
ゆえにペルセウスの血を引いているハレルヤは呪いのせいで才能が封印されているのだ。
しかし、そんなことを知らないハレルヤは自分には才能などないと思い込んでいた。
夕ご飯を食べ、その日、ハレルヤはすぐに意識を深い夢の中へと落としていった。
「ここはどこ?」
暗い闇の中ハレルヤは彷徨っている。何から追われているのか知らないが一生懸命に、光の、終わりの見えない場所を走り続けていた。
ハレルヤは後ろを見るけれど何も見えない。
そして、息も絶え絶えになり、走るのをやめてしまった。
後ろを向くと無数の人の腕が暗闇からハレルヤへ伸びてくる。上を向くと見たことない人の顔が浮かび上がって、ハレルヤを見て嗤っている。
ああ、もう自分はここで死ぬんだと確信したとき、それは、否その者は現れた。
白銀の長髪を結ったポニーテール。顔立ちは中性的、特に特徴的だったのは自ら光を発しているかのような金色の瞳。
「おい、坊主何をビビってる。これは夢だぞ?」
それはだんだんとハレルヤに近づく。すると暗闇から伸びていた腕は慄き、顔はしかめ面になり消えていった。
「強くなりたいのならアスレト山にいるメデューサに会ってこい」
そう言うとその者は消えていった。
そして、それを見届けたあとすぐに夢は覚めた。
「夢、か」
寝汗でベットのシーツはぐっちょりと濡れていた。
「アスレト山なんて山あったか?」
夢に出てきた男が言っていた山をハレルヤは探すことにした。
そして数刻、家にあった地図で探したがどこにもアスレト山の文字はなかった。
「やっぱり、夢は夢だよな。きっとあれも強さへの渇望が作り出した妄執だ」
少年は一日、することもなくダラダラと怠惰な生活をしていた。
普段なら学校に行っているのだが今日は祝日なので学校はやっていない。
むくりと立ち上がり、夕ご飯を食べ、昼間散々睡眠を取ったので寝ることはせず、木刀を手に外へと出て行く。
いつもの場所での鍛錬。
やる気は全くなかったけれどハレルヤはやらなきゃいけないという衝動に似た何かに突き動かされていた。
一通りの剣の振り方をやってみたがやはり才能の一欠片も見えなかった。
「アスレト山……王立考古図書館に行けば分かるかな……」
王国最大の図書館ならば何か情報があるかもしれないと一縷の望みを託し、図書館へと足を進めた。
まあ、当然のことだが時間は夜で図書館は閉まっていた。
しかし、ハレルヤは塀をよじ登り、図書館敷地内へと侵入する。
お世辞でも隠密とは言い難く、もし、人が近くにいたならば即座に見つかって、捕まっていただろう。だがそれは、もしもの話、そうもしということは誰にもハレルヤは見つからなかったのだ。
ハレルヤが侵入した場所は図書館敷地内の裏。
ゆえに普段なら警備員が巡回しているはずなのだが、今日に限っては、警備員が正面口を巡回していたのだ。
「ふ、ふう。何とか侵入成功」
ひとまず侵入出来て喜ぶハレルヤだが、まだ重大なことが残っている。
それは館内に入ってから、文献が置いてある所までの道のりだ。
館内にも警備員はいる。
入るのは容易だが、その後が問題という奴だ。
まあ、ハレルヤはそのようなことは気にせず館内へと潜入する。
館内はとても静かで、昼間のバイオリン演奏による澄み渡るような音もない。
ハレルヤは身を潜めながら、古文書がある場所へと足音を極力消して歩く。
そして、第一の関門が現れる。
階段だ。古文書がある場所は二階なので必然的に階段を使用しなければならない。
別に階段を使用せず、かつ誰にも
気づかれないルートは確かにある。
しかし、ハレルヤの現在の身体能力では無理なものばかり、まあ、ハレルヤは何も考えていないのでそんな考えにすら到達していない。
足早にそして、コソコソと進む。
何故だかは知らないがハレルヤは誰にも気づかれることなく、古文書が保管してある場所へと辿り着く。
そして、古代世界地図なるものをハレルヤは見つけた。
そして、地図を床に広げ、必死にアスレト山という文字を探す。
古代語の成績は結構いいので読むことに苦労はしなかった。
「…………あ、あった……しかも、ここからすぐ近くの山じゃんか……。ていうか、メデューサなんて伝説の生き物居るわけが……ものは試しか。でも今はここから脱出しないと」
しかし、出るときもハレルヤは難なく、そして誰にも気づかれることなく図書館を出ることができた。
これは運命か、あるいは偶然か。まあ、どちらにせよ、この侵入が成功したことにより、ハレルヤの人生は大きな転換期を迎えることとなる。
「おっし、早速行くか」
次の日の朝、ハレルヤは座学の成績は良い方なので学校をサボったとしても卒業に響くことはないゆえに、学校をサボることにし、荷をまとめ、現アフィラ山、旧名アスレト山に向かった。
アフィラ山、山麓。
ハレルヤはアフィラ山は鬱蒼と生い茂る木々を想像していたのだが、実際は違った。
確かに森ではあるが鬱蒼としておらず、木々の間から太陽の光が大量に射し込んでいて、視界も良好。
そして、ハレルヤは辺りを見回し、メデューサを探す。
その探す目はさも狩人の如き鋭い目……ではなく、覇気も感じさせない何とも言えない目だった。
「やっぱ、奥に居るのか」
そう呟きながら、足を進める。
あと何故山の中を迷わずに進めているのかというと、道があるからだった。
その道は山の奥へと続いているのでハレルヤはその先にメデューサがいるのではないかと推測していたからだった。
流石に歩きすぎたのかハレルヤは少しフラついていた。
「ちょっと休憩。てか、まだ続くのかよこの道は」
かなり歩いたはずなのにまだ先が見えないのでハレルヤは迷ったのではないかと不安になる。
しかし、道なりにずっと進んでいるから迷うはずがないとハレルヤは思い直した。
〜???〜
今日はたくさん山の幸を取ってきた。
なんでかと言うと今日は私の誕生日だからだ。
海の幸とやらも本当は欲しかったけれど、かれこれ一度も海を見たことがないので海というもの自体がわからない。
まあ、海の幸が無くても生きていけるし、山の幸だって美味しいものがたくさんある。
アフィラ山には果物もあるから自給自足もできるし必要なら、街までお買い物に行けばいい。
人は苦手だけど我慢すればなんとかなる。
でも長期に渡っての山からの外出はできない。
私たちの種族はある一人の人間をここで待たなきゃいけないらしい。私のお母さんやおばあちゃんやそのまたお母さんの何世代もここで待ったけど誰も来なくて、みんな老衰で死んじゃった。
私の願いは一つ、外の世界を見ること。
誰か叶えてくれないかなー。
そういえば、その人の一族の特徴って何だっけ?
確か、ここの棚に特徴を書いた紙が………………あったあった。
えっとなになに。
ペルセウス一族の特徴ー。
・そのいち髪の色が銀。
・そのに目の色は金色。
・そのさん、そして、初代ペルセウスはイケメンだったから子孫もイケメンの可能性があるかもしれないので要注意。
恋なんていけませんよ?でも、万が一に恋をしてしまったのなら、
自殺しなさい。死になさい。
まあ、ペルセウスが力を取り戻すためには私たちを殺すことだから結局、死ぬんだけどね。
私たちメデューサは人を不幸にする種族。それを肝に命じなさい。
ペルセウス一族の特徴終了ー。
………………はぁ、初代メデューサはいったいどんな人だったんだろう。
一回でいいから話してみたいな。
……恋をするな……か。
でも、お願いを聞いてもらうくらいなら別にいいよね。
そう、私たちは恋をしていけない。だったらどうやって子供を作るの?とよく森の動物たちに聞かれる。
答えは、私たちは子供を産んでなんかいない。
私たちはその待ち人が生きてるうちに現れないと直感で感じたとき、私たちの中に眠る膨大な魔力が私たちの細胞を元にして、勝手に子供を作るのだ。
まぁ、まだ私は若いからそれは起こらないけど……。
突然、動物用の小さいドアをノックする音が聞こえた。
おかしいな、まだみんなが来る時間じゃないのに。
「はーい、ちょっと待っててね」
ドアの鍵を開けてあげると、外にいたのはリスのユーリだった。
「どうかしたの?」
と聞くと急いだ調子で、小さな口を開いた。
「あ、あのね! アリスの家に向かって歩いてる人を見たの!」
ひ、ひとっ⁉ どどうしよ。おもてなしの準備してないよ!
ああっ、早くお湯を沸かさなきゃ。
そう思って、中に戻ってお湯を沸かそうとするとユーリが聞いて! と言った。
「ご、ごめん! お湯沸かさなきゃいけないから中に入って話して」
私はバタバタと家の中を小走りでキッチンまで行く。
「わ、分かった。驚かないで聞いてね。……そ、その人間の特徴何だけど、髪が銀、目の色が銀だったの!」
へぇー……ん? ……っ⁉ えっ⁉ えっ⁉ えっ⁉ あまりに驚いてしまったため、お水が入ったお鍋を落としてしまった。そして、お水が足にかかって思わず声を出す。
「ひゃっ!つ、冷たいー」
コンコン。
えっ⁉ もう⁉ まだ何も用意してないよぉ!
何年も何年も待った人がようやく来た。で、でも急すぎて、な、何をすればいいんだろ……ととと、とりあえず声出さなきゃ!
「は、はーい!」
〜ハレルヤ〜
「それにしてもこの森綺麗だな」
道なりにずっと歩いているハレルヤだが、暇なのか周りをキョロキョロして景色を楽しんでいた。
ときには剣を取り出し、果物を取ってかぶりつき、またあるときは家から持参したお茶を啜りながら暇を潰し歩いている。
そして、だいぶ森の奥まで進むとやっと何かが見えた。
「で、でかいな」
ハレルヤの前に姿を現したのは一本の巨木。直径は八メートルを越すかという大きさ。
ハレルヤの目に止まったものは一つのドアだった。
「あ、ドアだ。もしかしてここに居るのか?」
とりあえず、ノックしてみようとドアに近づくと中から声が聞こえてくる。
声音から推測するに性別は女。
そして、声の高さからまだ子供といったところ、年齢はハレルヤと同い年くらい。
ノックすると、応答の声はなくて、もう一回ノックしようとした時、中からはーいと声が聞こえた。
そして、五分ほどたったあと、ようやくドアが開いた。
「ご、ごめんなさい。おもてなしの準備に手間取ってしまいました。ささ、どうぞ中へ」
家の中から出てきたのは鮮やかな青色の長い髪を持ち、目は燃えるような紅蓮の緋色で色白な肌を持つ少女だった。
ハレルヤはその言葉に促され、中に入ってゆく。
さっきまで中で物音が絶えなかったというのに案外綺麗で驚くハレルヤ。
「ささ、椅子に座ってペルセウスの血を引く人ー」
その言葉に驚き目を見開く。
ハレルヤは最初に君はメデューサか? と聞こうとしていたのに、逆にペルセウスの血を引く人と呼ばれ瞬間的にこの少女はメデューサだと確信する。
「俺の先祖のこと知ってるってことは君はメデューサだな」
こくりと頷き、ハレルヤの向かいのイスに座るアリス。
自家製のアップルティーを啜り、カップを置き、ハレルヤの方を見る。
「そうだよ。私は長年あなたを待ち続けたメデューサ一族の生き残り、あなたがここに来た理由は分かってる。才能という名の力を取り戻しに来たんでしょ?」
「ああ、そうだ。どうすればいい」
とハレルヤは聞く。
しかし、それは教えませんと言われてしまう。
「やり方は教えませんがあなたの才能を戻すには条件があります……、私をここから外の世界に連れ出してください!私長い間ここの森から離れることができなかったから外の世界が見たいの。
その条件を飲んでくれるなら、旅の終わりにあなたに才能を戻します」
ハレルヤは迷うことなく、わかったと承諾する。
それからハレルヤは山をアリスと下りて、街へと向かった。
両者の足取りは軽い。
ハレルヤはやっと強くなれるという理由で。
アリスは外の世界を見ることができるという理由で。
だが、そんな二人の未来を暗示するかのように空は僅かに曇っていた。
それから二年くらいが経った。
ハレルヤの背丈は今や175センチほどになり年齢も十五歳ほどになっていた。同年代から見るとかなり大柄である。
アリスとハレルヤは、様々な場所へと赴き、色んな人に出会い、話し、笑い、泣き、別れた。
この二年間でハレルヤは、密かにアリスへと恋心を抱くようになっていて、同じくアリスも同様の感情をハレルヤに感じるようになっていた。
「もうそろそろ、旅も終わるな」
不意にハレルヤが呟いたその言葉にアリスは、ピクリと肩を震わせる。アリスの金髪が、風に揺れて踊った。
高を括ったような、何か決心をしたような顔つきへと変わるとアリスはハレルヤの方へと向き直り、真剣な目つきで見つめる。
それに気づいたハレルヤは、顔を真っ赤に染め上げて銀髪を弄りだしながらも、顔を上げた。
「ハレルヤさん。私は十分すぎるくらい外の世界を見て回ることが出来ました。だからハレルヤさんの願いを叶える義務があります。約束は守らないといけませんし」
突然、真面目な話を喋り出したアリスにハレルヤは、記憶の片隅に置いてあった旅をさせる代わりにハレルヤの才能を彼に返すという約束を思い出した。旅がハレルヤにとっても楽しいものとなっていたため、そんな約束は少し忘れていたらしい。
「ああ、あれか」
「はい、覚悟を決めました。今からハレルヤさんの才能を戻す方法を説明します」
ゴクリとハレルヤは、唾を飲み込むと妙に汗ばんだ掌を服の裾で拭う。
「方法は簡単です……私を殺せばいいんです……」
告げられた言葉の意味を理解したくないのかハレルヤは、乾いた笑い声をあげて思考をシャットダウンしてしまった。
太陽の日差しが燦々と降り注ぐ昼下がりのこと。そんな明るい景色とは、縁のないはずの言葉がハレルヤを突き刺す。
「ハハハッ! 冗談キツイぞ〜。嘘はよくない」
場をちゃかそうと、明るく振る舞うその姿は笑いしか出てこないほどに滑稽だが、実際問題そんか話ではない。
そんなハレルヤの振る舞いとはうって変わるアリスの表情。
「本当なんです‼︎ 私を殺さないとあなたの力は戻らない‼︎ 」
アリスから出たとはとても思えないくらいの大声が、山道に木霊する。
運命の悪戯は、時に優しく時に厳しい。そして、今回は非情な運命だった。
「アラアラァァ? 痴話喧嘩かな? まあ、そんなことはどうでもいい。俺たち山賊に会ったことを後悔するといい」
ここで第三者、山賊どもの登場だ。
森の中から次々と現れる人影は、日の下に出る。熊の皮や鹿の角を纏っている山賊たち。
ある者は、アリスを見ていきり立った表情を浮かべ鼻息を激しくし、また別の者はすでに鉈を構えていつでも襲えるように準備している。
突然出てきた第三者の存在に呆気を取られたハレルヤとアリスは、逃げる暇もなく山賊たちに囲まれてしまった。
ハレルヤは囲まれてからやっと剣を抜き放ち、アリスを背にして構える。
ハレルヤは、旅の中でも自主的に訓練を積み剣を振るうに足る筋力を付け、何度も繰り返す反復練習により剣技を繰り出すに十分な技術を身に付けた。
しかし、それを使いこなす才能が圧倒的に足らない。
これまでも何度か盗賊山賊に海を渡る時には海賊とも戦って、退けてきた。しかしそれが可能だったのは、ある旅の双剣使いが同行していたからだった。彼の強さは、誰もが見ても舌を巻くモノ。名はルーク。それ以外は二人に教えてくれなかったが、トランプだけは肌身離さず持って、時折トランプを使った遊びをハレルヤやアリスに持ちかけていた。
そんなある種の用心棒が居たから何とかやってきたのに、今回はルークが居ない。
「ふーむ。まあ、女は俺たちが使って、闇市にでも売り飛ばすとして、男の方はどうしようか……」
山賊の棟梁と思われる男が、二人の品定めをしている。舐め回すような視線に嫌悪感を抱くハレルヤとアリス。
「お頭! 男は殺して、女はオモチャにしましょうぜ!」
「いいだろう。じゃ、やれ。俺は見てやるから」
棟梁は近くにあった切り株へと腰を下ろすと、足を組み高みの見物といった風に眺めていた。
そして、先ほどの言葉通り子分たちが二人に襲いかかる。
第一撃目は、前方からの振り下ろし。
ハレルヤは、それを力任せに剣を振るって鉈を弾き飛ばす。人一人守ることの難しさを、ハレルヤは感じていた。
守護対象から離れすぎてはいけない、がハレルヤはそれをやってしまう。振り返った時にはもうアリスは子分たちに捕まっていた。
口元を抑えられ、羽交い締めにされている。
子分の一人がもう待てないと、アリスの胸元の服を握り、破った。露わになったアリスの胸。
それを見た瞬間、ハレルヤの中で、最奥の扉が軋んだ。その時に漏れ出した微小の何かを感じたハレルヤ。
怒りという激情が、一瞬メデューサの呪いを歪ませたのだった。
そして、一瞬間の内にハレルヤは、自分の培ってきた技量、体をフルに使い間合いを詰める。
そのままの勢いを利用し、逆手に持った剣を地面すれすれに滑らせ、体を半回転させた切り方で、アリスに触ろうとした山賊の腕を切り落とす。
間髪入れずに、左手に持ったもう片方の剣で
首と胴体を切り離した。
しかし、漏れ出したのは力は微小ですぐに消えてしまった。
その瞬間、思うように動くことが出来ず呆気なく盗賊の下っ端たちに捕まる。
まず彼は、下っ端どもに殴られ、蹴られたりして報復を受けた。特にハレルヤを蹴っていたのはハレルヤに両腕を切り落とされた男で、終始罵倒しながら蹴っていた。
「おっ、こいつもう動かねぇぞ」
地面に倒れたままピクリとも動かないハレルヤは、意識だけ残っていて何も出来ない自分を悔やんでいた。
「ハレルヤァ‼︎ 起きてよ‼︎ 選択して! 私は、ずっと貴方を待ってたんだ……このまま死ぬなら私は、貴方に殺されたい‼︎ 」
遠くから聞こえてくるアリスの懇願は、ハレルヤの意識には届かない。あと数秒でハレルヤの命は消えようとしていた。
このまま、死んでしまうのだろうか? とハレルヤは初めて死という概念に触れ、死は終わりにして、高潔な始まり。
ならそのまま死ねばいいと誰かがハレルヤに囁いた。
〜〜あんたは……いつかの夢に出てきた……〜〜
ハレルヤは、いつの間にか白い部屋にいた。窓も入り口すらない、ましてや家具なんてものはない簡素すぎる部屋の中心に、白銀の長髪を地面に垂らし、自ら光でも発しているんじゃないかと思いたくなるような金の瞳をハレルヤに向けている青年が座っていた。
〜〜俺のことはどうでもいい。お前は、好きな人の願いさえも叶えることが出来ないのか? それが死であっても、叶えてやるべきではないのか? あのままでは、彼女陵辱されて捨てられるぞ。それでいいのか? 〜〜
そう告げられたハレルヤは、顔を強張らせて銀髪の青年を睨んだ。
〜〜よくないに、よくないに決まってんだろうがッ! でもどうしようもないんだよッ! 死にかけの俺に何をしろと言うんだ。動かそうとしても動かない身体、考えようとも痛みでまともに思考出来ない頭、どうしろって言うんだッ! 〜〜
そう言うと銀髪の青年は、口元を歪ませて笑みを浮かべ、その場を立つ。その言葉を待ってたと言わんばかりに。
〜〜なら俺が手を貸してやる〜〜
青年は、無邪気に笑いながらハレルヤの手を掴み何かを送る。ハレルヤはとても熱いモノを感じて、微小ではあるが立ち上がり数メートル走る力くらいは湧き出た。
お礼を言おうとハレルヤが青年の方を向くと、すでに青年は消えていて白い部屋も崩れようとしている。
〜〜誰かは知らないけど、ありがとう〜〜
現実で目を覚ましたハレルヤが感じたのは、地面の冷たさと、周りにいる生物全ての呼吸。身体の感覚は、戻っている。顔を動かすとアリスが、今まさに陵辱されようとしていた。
動くなら今しかないと、ハレルヤは身体を動かし落ちていた自分の剣を拾って走る。
さっき、死んだと思われていた人間が、鬼の形相で走ってきたら誰でもビビる。それはここでも例外ではなく、盗賊たちは一瞬怯んだ。その隙を突いて、ハレルヤは剣をアリスの心臓に突き立てた。
アリスはとても驚いた表情をしていたが、次第に笑顔へと変わる。
「ハレルヤ君。ありがとう……私の最期のわがままに付き合ってくれて……」
異様な光景に盗賊たちは、固まり動くことが出来ずただそれを見ることしか出来なかった。
「……」
「本当はもっと一緒にいて、君と結婚もしたかった。もっと旅行したかった。もっともっと……恋をしては、いけないと言われて、たけど……やっぱり無理だったみたいです……だって、ハレルヤ君の笑顔、とっても輝いていたから。普通の二人で、普通に出会って、普通に恋をして、結婚して、二人で死にたかった……。争いのない世の中ならよかったのに……な。それじゃ、先に行くね……」
言うことだけ言ってアリスは目を閉じる。
それを無言で聞いていたハレルヤは、おもむろに口を開いた。
「俺ももっと一緒に居たかった。怖くて言えなかったけど、俺は君を、アリスを好きだった……だから君と過ごした日々は忘れない。俺は、アリスが願った世界を……争いのない世界を、作ってみせるよ。そして、来世でまた会って恋をするんだ……それまで待っててくれるかい? 」
一筋の涙を流しながらアリスは微笑み、それを見てハレルヤは、アリスの唇を自分の唇で塞いだ。柔らかいキス。
盗賊たちは、ようやくはっと気付いて目の前にいる獲物を殺すために武器を取った。
しかし、それはもう遅い。
盗賊の目に映るハレルヤの姿は、先ほどとは全く異なっていた。
銀をベースとして、金のメッシュが所々に入り、金眼は、金と銀のオッドアイへと変色している。ハレルヤが纏う闘気は、シクサード国の将軍クラウドと同等かそれ以上のモノになっていた。
「お前ら、生きて……帰られると思うなよ……」
そう一言言うとハレルヤの姿が消え、それとほぼ同時に、手前にいた三人の下っ端が真っ二つに両断された。鮮血が空中に舞い、大地を汚す。木々はざわめき、動物は全て等しく戦慄した。
目の前に現れたハレルヤの銀髪から垣間見る金と銀の瞳は、妖しく輝いている。
その双眸に射抜かれた者は、皆動くことが不可能となり、瞬きをしている間に切られていた。
「後は、お前……だけだ」
静かに刃を棟梁に向けて、首を切り落とそうとした時、突然棟梁が両腕を上げてハレルヤを見た。
「殺られる前に一つ聞きたいことがある。お前はペルセウスのしそn」
質問をさせる前にハレルヤは、首を落とす。俗物を見るように一瞥すると、顔を踏み潰し身体を細切れになるまで切り刻んだ。
そして、気が済むとアリスの死体を抱えて、アリスが住んでいた森へと歩みを進める。
足は重く、戦闘が終わってから体の痛みが戻って顔が歪む。
「俺は、きっとこの世界を……戦乱だらけの……世界を、変えてみせるから……」
そう呟くといつの間にか夕暮れ時になった空にさよならを告げて、森の中へと姿を消して行った。
数百年、数千年、はたまたそれ以上の月日が経ったこの世界のどこかのある日のこと。
街を歩く耳にイヤホンを着けた少年がいた。髪は、その時代では珍しい銀髪。スケートボードを抱えて、人混みの中をかき分けてゆく。
すると、少年の心にびびっと感じるモノ、いや、人を見つけた。
金髪に銀色の瞳を持つ美少女。
彼女もまた一人で歩いている。少年は、無意識のうちに手を伸ばし、少女を追いかけてその手を掴んだ。
「やっと、やっと見つけたよ……」
自分でもどうしてそう言ったのか理解できなかった。しかし、少年は運命とはこういうことを言うんだろうと直感的に感じた。
少女も笑顔でこう言った。
「ありがとう……」




