第壱話:全ての始まり
懐かしい光景。
僕たちの始まりの日。
『第壱話:全ての始まり』
「ここの中で待っていてね」
「はい」
応接室の前ような場所に連れてこられる。
では、と言って去っていく男を見送って僕は恐る恐る部屋の扉を開けた。
ギィと軋んだ音を立てて開く扉。
扉の隙間から顔を覗かせてみるも、部屋の中には誰もいなかった。
革張りのソファー。
硝子製のテーブル。
高価そうな置物が並ぶ広い校長室のような場所だ。
(どうしよう……)
そわそわする。
こんな立派な部屋に入ったことが無いので落ち着かなかった。
立っていても仕方が無いのでソファーに腰を落ち着ける。
そわそわ。
それでも落ち着かない。
(…場違い。僕何でこんな部屋にいるんだっけ……?)
****
話しは2ヶ月前に遡る。
求人欄で見つけたアルバイト。
一年間、疑似家族をする人材募集の広告だった。
求人欄には何とか計画、とかいう大層な名前が付けられている。
何でも将来性の高い研究だそうだけど、そんな事僕には関係無かった。
(衣食住と教育の保証…)
僕が目に付いたのはそこだ。
元々、今通っている中学を卒業したらすぐに家を出て働くつもりだった。
そうしなければいけなかったから。
誰に何て言われようとも。
でもお金も無く、住む場所の検討もついていない。
僕にとってこのアルバイトは最悪な状況で見つけた希望の光のようなものだ。
考える間も無く僕は縋りついた。
一親等以内の親族がいないということ。
今年の4月からの就労状況が無職だということ。
年齢も条件もぴったりだった。
そして、
(擬似家族……か)
気味が悪い程の偶然。
それに縋るしか僕に生きる道が無いということも含めて。
運命だろうか?
偶然だろうか?
それとも
僕の過去さえも必然だったのだろうか?
答えは、未だに出ていない。
『水谷裕也様 結果通知書在中』
応募してから採用通知が届くまでは早かった。
3度の面接と1回の筆記試験。
その後、僕の下には採用通知とともに規約やら契約書やらという書類の山が届けられた。
その中に入っていたもの。
アルバイト開始日程と集合場所の地図。
そして僕は今その地図に書かれていたビルの中の一室にいる。
ここで話は冒頭に戻るのであった。
(どうしよう…)
緊張して手が冷たくなっていくのがはっきりとわかった。
嫌な汗が背中を伝う。
一年間一緒に暮らす人。
緊張の度合いでいうと、クラス替えとかそういうレベルではない。
どうしよう。
そればかりが頭をよぎって何も考えられない。
好かれる自信はあった。
ただ、心配は別にある。
どうしよう。
(もしかしたら、今度は……)
コンコンッ。
そこまで考えたとき、扉がノックされる音が部屋に響き渡った。
ようやく一話分、更新…!
おめでとう、自分!
裕也「その割には進んでいないけどね」
如月「うっ…!(泣)」
裕也「見てくれる人が意外にも多いんだから、もう少し頑張ってよね」
如月「うぅ…っ。……ハイ」
裕也「まぁ、今日はこの辺で許してあげるよ。次回はもっと頑張るんだね」
如月「(何で上から目線…?)…分かりましたです」
お読みくださり、有難う御座いました!
更新速度は亀並みですが、次話もお付き合い下さると嬉しいです!