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第零話:僕の家族

ジリリリ!!


「………う」

ジリリリリリリリリリ!!!


「うー……………んん」


ぱちん。


「ふあぁ。眠ー…。支度…………しなきゃ」



『第零話 僕の家族』



眠い目を擦りながらカーテンを開けて外を見る。

道端には雨によって落ちてしまった桜の絨毯。

コンクリートで出来た無機質な地面が白く染め上げられていた。

「……雨のバカヤロー」

せっかくの桜が。

こんなことならこの前の日曜に花見に行っておくんだった。

明後日に行ってもこのぶんじゃおおかたが散っているだろう。

せっかく母さんが弁当を気合い入れて作るって言ってたのに。

思わずため息。

そもそもこの前の日曜に行く予定だったのを父さんと二人で野球観戦に行きたいからと断ったのは僕だ。

確かにあの日のゲームは楽しかったけど、花見が潰れてしまうとは……。

アサが怒る姿が目に浮かぶ。

(お兄ちゃんのせいなんだからっっ)

はあーーー…。何てことだ。また口を利いてもらえなくなる。


―――裕くーん、まだ寝てるのー?そろそろ支度しなさーい??


うわっ!そうだった!早く下に降りていかないとアサが起こしにきてしまう。

……………朝からそんなハードな展開はごめんだ。

パジャマを脱ぎ捨て制服に着替える。僕は家族の待つリビングへと降りていった。


「あら、おはよう。裕くん。やっと起きたのね。」

「おはよ、母さん。もう起きてたよ。ただ、少しボーっとしてただけ」

下の偕に降りていくと、まず先にキッチンの母さんが僕に気づいた。

一体何時から起きているんだろう。キッチンには朝ごはんのための道具が散らかっていた。

相変わらず片付けるのが苦手な人だ。

「…まあ。また遅くまで本を読んでいたんでしょう。目に隈が出来ているわ。あれほど夜更かしはしちゃ駄目って言っているのに。そんなことだから朝から元気ないのよ!もう…。朝ごはん用意してあるわ。食べて少し目を覚ましなさい?」


それだけ言うと―――それじゃあ陽太さんを起こしてくるわ、と言って寝室へと向かっていった。

父さんも朝が苦手な人だ。

リビングまで出てきてもまだ目は覚めていないらしく、朝食を食べこぼしている姿を偶に見る。

僕はそこまで酷くないのだが、やっぱり朝は苦手だ。

昼から学校に行けたらどんなに素晴らしい事か。


そんなくだらない事を考えながらダイニングへと向かう。テーブルには所狭しと朝食の山。

キツネ色にこんがりと焼けたトースト

湯気の立つミネストローネ

しっかりとした焼色のグラタン

揚げたてのハッシュポテトに唐揚げ

僕好みの半熟の目玉焼き

極めつけに母さん特製のフルーツヨーグルトと言った具合だ。

思わず胃もたれしそうな量にメニューがズラリと整列していた。

それを妹、朝美が黙々と食べている。


「おはよ、アサ。…………毎朝ながら、よくその量が食べられるね」

「ん?お兄ちゃんか。おはよ。今日のグラタン、ミートソースが入ってる。なかなかこれも美味しいよ。少しくらい食べたらいいのに、勿体無いなぁ」

無駄にキラキラと輝く朝食に心なしか胃がむかむかしてきた。

……ごめん、母さん。僕には無理だよ。

「…………無理。勿体無いならアサが食べてよ」

「ホントっ?ホントにいいのっ?」

「どーぞ。好きなだけ」

「やったあああ!」

朝美は本当によく食べる。僕の数倍は食べるんじゃないだろうか。

その細い身体にどこまで大きい胃袋が入っているのかは謎だが、まあ健康みたいだし僕にはそれでいいかなと思う。


「おはよう……」

「父さん。おはよう」

「あっ、おとーさん!おはよ」

ふわあ、と欠伸をしながらやってくる父さん。

珍しくいつもより目が覚めているらしく、母さんにコーヒーを頼んでからダイニングにやってくるとちらり、とテーブルの上―――と云う名の朝食のパレードを見つめてゲンナリとした顔をした。

(……さやかさん。またか)

(また、だね。父さんからもうちょっと何とか言ってよ。見てるだけで食欲減退)

(う、うん。そうだねぇ……)

こそこそと二人で会話する。

母さんが料理を多く作りすぎるのはいつもの事として、朝食だけは勘弁してもらいたい。

僕だって胃痛を起こさずに学校に行きたいのだ。


「さやかさん。ちょっと」

「なあに、陽太さん?あ、分かったわ。アレでしょう?用意しておいたわ!」

「え、そうじゃなくて……って、アレ?」

「はい、どうぞ」

無駄に輝く笑顔と共に母さんが持ってきたもの。



ジューサーいっぱいの緑色の液体。


「さ、さやかさん……。一応念のために訊くけど、これは……?」

汗をだらだら掻きながら引きつった顔で問いかける父さん。今きっと父さんの脳内では「嫌な予感」という言葉がテロップ表示されている筈だ。哀れ。

「何って、決まってるじゃない陽太さん。青汁よ。あ・お・じ・る!この前の健康診断でお医者さんに野菜を多く摂って下さいって言われたんでしょう?野菜と言ったら青汁じゃない?作ってみたの!さあ、どんどん飲んじゃってね!」

あーあ。やっちゃった。

そんな事を母さんに話したらどうなるのか予想ぐらいつくものなのに。


(おとーさん、馬鹿だね)

(しっ。二人に聞こえるよ)

こうなったら関わらない方が身の為だ。

僕は用意された朝食の中から比較的に少量盛られているヨーグルトを引き寄せて口へ運び始めた。


「……………………………………………………」

沈黙。

「さあ!」

きらきら。

「………………………………………………………………………………」

更に沈黙。

「飲みますよね?健康のためだもの!」

輝く笑顔。

「………………………………………………………………………………………………………………………はい」

押し負けた。隣では朝美がうわあ、といった目線で父さんを見つめている。

激しく同感だ。


「あら、二人も飲んでいいのよ?注いであげるわ」


「………………っ!!げほっげほ!!」

「えええーと、僕はいいよ。うん。ほら、もうこんな時間だし!そういえば今日は朝から委員会の仕事あるし!!もう行かなくっちゃ!ごちそうさま!!」

「ごほっ、ごほっ!…あ、アサも今日は日直だからもう行く!ごちそうさま!!」

二人して脱兎の如くリビングから遠ざかる。

父さんが恨みがましそうな目でコッチをみているけどそんな事は気にしていられない。

朝から胃痛もごめんだが、青汁の方がもっとごめんだ。

こうしちゃいられない。

もともと委員会の仕事なんて今日は無かったが家に居ると危険な気がするので僕は学校に向かうことにした。


急いで支度をしてから玄関に向かうとそこには朝美がいた。

「あーあぁ。朝食食べ損なっちゃったよ。おとーさんのせいだ………!」

「あれだけ食べたんだからもういいんんじゃないかと僕は思うけどね…」

「ま、いっかぁ。学校でお弁当たべよっと」

どんだけ食べる気だ、この娘は。

「……………まぁいいけどね。じゃあ、行こうか。行って来ます!」

「いってきまーす!!」


玄関から飛び出して朝美は左へ、僕は右へ。

また今日が始まっていく。



*****



つい最近から始まった日常がそこにはある。


挨拶。

家族団らんの食事。

笑い顔も、泣き顔も、諍いも。

ついこの間から始まった事。



僕たちは赤の他人だった。



姿も

声も

存在も何一つ知らなかった間柄。



アルバイトという名のもとに出会うまでは。



僕たちは「赤の他人が仮初めの家族を演じ、どこまで親密になれるか」という研究を目的にアルバイトとして雇われた。

両親を含め家族を持たず、現在就労状況が無職のものに限り応募資格があるアルバイト。

契約期間は一年間。

その期間の住む場所と働く場所や学校は与えられ、集められた人間で家族となり暮らす。

監視カメラや盗聴器がある訳でもなく、定期的に観察者が家を出入りする以外は普通の生活を営めばよい。

約束事はただ一つ。

「己の過去を明かさない」という約束でのみ僕たちは暮らしていた。



家族を失い、

やるべき事も無く、

そんな中で出会った赤の他人同士がする『家族ごっこ』。



これは悲しくも優しい僕たち家族の物語である。





連載始動ー!

これからよろしくお願い致しますっ(ぺこり)

頑張って…、更新していく予定です!!


裕也「頑張ってね。僕も応援してるよ」

如月「うん…!がんばる!!!」

裕也「そして母さんのご飯の量を少し減らしてくれると嬉しいんだけど」

如月「裕也くん…!?その微笑みが黒いよ…っ!!」


読んで下さった方!どうもありがとうございますっ。

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