007 魔の遺跡へ
さて、と。
ここから先の話をしなければな。
俺は驚いている未宝に言う。
「お前はこれからユーランの森にある、魔の遺跡に入ってもらう。魔の遺跡はお前の魔力量を格段に増やしてくれる筈だ」
「え……」
「お前は力が足らない。魔力量が無ければ満足の出来る神術一つすら出来ないだろう。はっきりいって今のお前では足でまといだ」
未宝が口を硬く縮める。体全体がわなわな震え、見ている俺には悔しい気持ちがよく分かる。
「お前がどれだけ悔しがろうと、結果は変わらん。さっさと魔の遺跡にいくぞ」
俺はすっくと芝の地面から立ち上がると、ユーランの森の奥に進もうとする。
未宝は不服そうだがおれについて行くしか方法がないと悟ったのか俺の後ろを追いかけついてくる。
ユーランの森の森は鬱蒼と茂るジャングルだ。道がけもの道な上に魔物もそこらにうじゃうじゃいる(低レベルだが)。
人はあまり寄り付かず、木材が足らない村でもここの木は切らない。そんな森の奥には俺が魔術を習得する為に寄った魔の遺跡が在る。魔の遺跡は攻略すると莫大な魔力が貰え、さらには魔術の行使方法も覚えられる。反面、遺跡には様々なトラップと守護神・ガーディアンがいるので、帰らぬ冒険者になる事が多い。
「あの」
後ろから声がかかる。
「何だ」
「君は、日本人じゃないの?」
「なぜそう思った」
「美帆、なんていう名前は日本でよく見かける名だ」
まあ、確かにそうだな。ここはどう対応していくか。
「ふうん。そうなのか。知らんかったな」
ここは知らんふりをしておくか。慎重に慎重を重ねておいた方がいいだろう。
「じゃあ、日本人じゃないのか……」
「ああ。そういうことになるな」
「あともう一つ、女の子なのに、俺、とか、~だな。とかの男口調は変だと思うよ?」
元は男だが。
「女の子だと見られると相手に低く見られる。俺はついこの前にそれを実感した」
「……そういうもんなの?」
「ああ。そういうもんだ」
ん? そろそろ着くな。この地形には見覚えがある。
ちなみに俺周囲に半径1kmのドーム型・対魔族用魔法陣を形成しいていたから、魔物は一匹も現れなかった。
◇◆未宝◆◇
男口調は女性に似合わないと思う。
まして、僕の目の前にいる美帆は美少女だ。後ろからみると、弱々しく細い身体とその身体を覆うように漆黒の黒髪がドロドロの湿地で汚れそうなくらいに長く品やかだ。
普通の女の子なら男はメロメロだろうに……
いや、違うか。メロメロだからこそ、男は時として狼となり、か弱く、大人しい子を……
「おい」
鋭い口調が前から聞こえる。
どうやら無事に魔の遺跡とやらに着いたらしい。
「何をへらへら笑ってる」
そんなに顔に出ていたか。僕は顔をブンブン横にふり、今までの雑念をかき消した。
「ここが、入り口だ」
案内されるがままに来た場所は石造りのアーチ状の門と、アラベスクの様な幾何学模様で彩られている。
中は洞窟のようだ。洞窟は魔族が多いと聞くが、大丈夫だろうか。
いや、僕は勇者だ。ここで僕が率先していかなければ……
そんな気持ちぶち壊して、「さっさと行くぞ」と気だるそうにさっそうと中に入る彼女は何処までも男らしかった。
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12/09/19…主人公の喋り方をミスり修正。