貴方を求めて三千里
午年はっぴーにゅーいやー
ようやくスマホが直り仕事なおちつきました。
長らくお待たせしました。馬です。よろしくお願いします。ヒヒン。
吾輩はポニーである。
名前はレッドクリムゾンシュヴァルツスター号。クリーム色の豊かな毛並みに鮮やかな真っ赤な瞳が特徴の神々しくも愛らしいポニーである。
物心がついた時にはふかふかの干し草溢れる立派な厩舎に住んでいた。丁寧な手つきで毛並みを整える人間たちに角砂糖と一緒にみずみずしいオレンジ色の細長い食べ物。この世の春とはまさにこのこと。
まぁ美しい吾輩には当然の待遇。善きにはからえ。──なんて、思っていたのだ。
運命に出会うまでは。
──どのような干し草も霞む輝かしい麦色の髪。
──吾輩とお揃いの、いや、吾輩のそれよりもなおきらめく赤い瞳。
白くて柔らかくて、小さくて脆くて、でも何よりも愛らしいお嬢様。
「まぁ!わたくしといっしょのおいろをしてるのねおうまさん!」
そう、ころころと心からうれしそうに笑う一人の人間。
率直に言おう。一目ぼれだった。
彼女と共に草原を走り、共に笑い、泣く彼女を全てから隠すように影となり、彼女の言葉に耳を澄ませ、慰め、ふかふかの干し草の上でともに寝る。これ以上ない幸福だった。
吾輩は、私は、この方と会うために、この方に寄り添い、支えるために生まれてきたのだと、心の底から思っていた。
でも、その生活は数年で幕を下ろした。
「この馬を王宮に、名誉なことだろう?」
忌々しいあの青目の男。ひどく怯えた彼女が連れてきた、彼女と同い年の子供。そいつが、彼女と私を引き裂いた。
「ごめんなさい…ごめんなさい……!!」
知らない、鉄と血の匂いがする男達に無理矢理引っ立てられ、泣く彼女を慰めることもできずに連れて行かれた先は、なるほど名誉と言うだけはある。素晴らしい場所だった。
でも、彼女が、あの子がいない。
私には耐え難い悪臭の女達が私を見に来る。あの子は、こんな匂いをするものなど一つもつけていなかった。
私の毛並みはもっと美しくできると、食事を変えられた。…私は、野菜と角砂糖しか消化できないのに。血濡れた肉など誰が食うものか。
私に乗ろうと、あの青目の子供が近寄ってきた。乗せたくなどなかった、触れられたくなどなかった。だから、振り払って、怪我をさせて、それで、
──気がつけば、ふわふわとした白い床の上にいた。
すごく体が軽くって、なんだかとっても幸福で、どこまで走ってもちっとも苦しくならなくて、どれだけはしゃいでもお腹は減らなくて、でもその気になれば今まで食べたことないほど美味しい草と甘い角砂糖を羽を生やした人間みたいな生き物が持ってきてくれる。
でも、あの子がいないじゃないか。
見たこともないほど綺麗な金色の髪、キラキラ輝くお揃いの赤い瞳、泣きたくなるほど愛しくて、笑っちゃうくらい大好きな、ぼくのたいせつなあのこ。名前はもうわからないけど、ぼくがなんてよばれていたかももうおぼえていないけど、それでもぼくはあのこにあいたい。
ふわふわな寝床もおいしいごはんも、あのこといっしょじゃなきゃいやなんだ。
それを伝えると羽根の生えた生き物は悲しそうな顔をして、優しく頭を撫でてくれた。ちっとも嫌じゃなくて笑っていると、『すごく辛いことがあるかもしれないけど頑張れる?』と優しい声がふってきた。
それが羽根の生えた生き物の声だって気がつくのに少し遅れて、でもすぐに頷いた。あの子に会えるのならなんだっていいんだ、本当に。
『じゃあまずは素敵な身体を作らないとね。』
そう言って優しく抱き上げて、なにか不思議な水桶のような物の前まで羽根の生えた生き物は僕を連れて行った。
『人間と、その馬の姿、どっちがいい?』
どっちでもいいよ、でも、馬の姿だとうまくおしゃべりできないからできればあのことお話できる姿がいいなぁ。
『男の子と女の子、どっちがいい?』
おとこのこ!だっておんなのこよりつよいんだもん!あのこはおんなのこだから守ってあげるんだ!…それに、あの子をいじめた青目のこ、あのこもおとこのこだったから、いいおとこのこもいるんだっておしえてあげなきゃ!
『ふふ、じゃあ、残したいものはある?』
うーんとね!ぜんぶ!速く走れるあしも、このふわふわの毛並みも、長い尻尾もあのこが大好きだって言ってたからぜんぶがいいなぁ、あ!でも一番残したいのは目の色!あのことおそろいだもん。
『記憶はいい?』
あのこをあのこだってわかることができたなら、それ以上はいらないよ!
『多くを望まぬよいこね……、では贈り物をひとつまみ…いってらっしゃい。』
ふわふわ、くるくる、きらきら、そんななにかがふってきて同時にまぶたがとろりと沈んで
─────それが最後の記憶だった。
─目が覚めた。
なにか夢を見ていたような気がして首を傾げる。サラリとその動きに合わせてまるで少女のように長く伸ばされたクリーム色の髪が背中をくすぐった。
なんだっけ、なにか、とてもだいじな夢を見ていた気がする。とても大切で、どうしょうもなく胸が苦しくて、でも希望に満ちた、そんな夢。
「───ぃ、おぉーい!いつまでさぼってるんだよーぅ…!」
遠くで自分を呼ぶ同室の子の声がする。いけない、今日は洗濯当番だったんだ。乾いたものを取り込んでたらあんまりに日差しが心地よくて眠ってしまってたのだ。…これではシスターに怒られる。
「ごめーん!すぐもってくーー!」
急いで籠に全てを放り込んで走る。こういう時だけ力持ちの獣人でよかったなんて頭の片隅で思いながら。
─マリアベル女王国第五孤児院。それが僕のいる場所。僕はそこの玄関に赤ん坊の頃捨てられていたらしい。
サラサラのクリーム色の髪に赤い瞳、ピンと立った馬の耳と感情に合わせてしなる尻尾。そして誰より速い足。獣人の子供なんて中々孤児院に捨てられないから悩みながらもシスターたちは僕を育ててくれた。
僕は、今年で十歳。そろそろ下働きとして街に降りて将来の仕事を探さなくてはいけない時期だ。幸い、獣人は力もあり丈夫なのでどの職業でもよっぽど根っこと手癖が悪くなければ受け入れられるらしい。僕も実際配達業の人たちを中心に声がかかっていて、正直将来のことはあんまり気にしていない。
そんな僕のことを贅沢者っていう子たちも多いけれど、でも僕はそんなことよりずっと一つのことに悩んでいた。
寂しいのだ。胸が何か、ポッカリと空いているような気がして。なにか、だいじなものをなくしてしまったような、忘れてしまっているような、誰かのそばに走っていかなくてはいけないのに、それができていないような、そんな気がして。
今よりもっと小さい頃、衝動に任せて走り出したことがある。走って、走って、息が切れても足から血が出ても気にせず走って、倒れた所を人の足で4日かかる街で見つけられたのだ。
その時は手ひどく怒られて、泣かれて、心配したのだというシスターたちの言葉に反省はした。─したけれど、
したけれど、その時のくすぶりはまだこころに残ったままで。むしろ最近どんどんそんな気持ちが大きくなっていく。
夢を見るたび、眠りに落ちるたび、目を覚ますたび、『なにか』にたいする渇望は止まらなくて。
でも、誰にも言えなかった。
ここはいい国だけど、周りの人たちはいい人達ばかりだけど、みんな人間なのだ。─ヒューマンなのだ。
僕はどうしょうもなく獣人で、誰も僕のほんとのことは理解できない。
だからなのだろう。
夜のことだった。
帝国とか言う国。その国の人間が、この孤児院にやってきたのだ。
男は僕を見て、見たことのないほど顔をゆがめて、いやらしく口元をゆがめて、シスター達の前に見たことのないほどのたくさんのお金を放り捨ててこういった。
「馬の獣人の値段だ」と、そう。
気がつけばシスターはその男を張り飛ばしていた。ゆっくりと、ひどく時間が流れて、何もできずにたちすくしていて、僕は
「にげて!!!!!!!!!!」
その声に弾かれるように駆け出していた。
聞いていた、聞いてはいた。少し離れた国に、ヒューマン至上主義の人間たちの国があると。
そこでは、僕みたいな獣人は連れ去らわれてひどい目にあうということを。
どうしよう、どうすればいい、突然の出来事に頭はまわらなくて、走って、走って、走ることしかできなくて。走り出した瞬間に背中が急に痛くなって、それでも走って近くの街の警邏隊に泣きついて。
シスターたちは助かった。子どもたちも。でも、僕だけはもうここにはいられなかった。
帝国の奴隷商人だと男は言ったらしい。この国で人身売買は法に触れるから今回は捕まったけど、それも大金を積めばどうにでもなるから、すぐに男は牢から出てくるらしい。
だからその前に、この街を離れたほうがいい、なんて警邏隊の人に言われて、シスター達にたくさん泣かれたけれど僕はそれに頷くことにした。
背中に魔法を撃たれたみたいで、それもまだ痛かったけどそんなもの数時間もすれば治ったからすぐに荷物をまとめて生まれ育った街を出た。
荷物を背負って、両手両足を地面につけて、何年かぶりに四足の足で走り出す。
二本足の時より高い視界、二本足の時より速い世界、そう、本当はずっとこうして走りたかった。
シスターたちが困った顔をするから、この姿に─馬の姿になって走るのは我慢していたけれど、本当はこっちの方が昔からなぜかしっくりきていた。
なったことなんて数えることしかなかったのに、どうしてだろう。僕はこの世界を、この視界をずっと昔から知っていた気がする。この世界こそが僕の生きている世界だと、そう。
──そして、この世界を、誰かにずっと、もう一度見せたかったのだと──
足が向いた。
頭が何か思うより先に、向かうはずだった方向とは別の道へ身体が勝手に向かっていた。
なぜだろう、何も考えられないのに、道だけはキラキラ綺麗に輝いていて、なぜだかとっても気分が良くて、それで、
──『あのこ』をみつけた。
ギラギラ、ビカビカ光る赤い瞳。誰よりも輝いていて、誰よりも美しい、ぼくのおほしさま。
嬉しくて、悲しくて、寂しくて、愛しくて、言葉では表せないほどたくさんの気持ちが溢れてこぼれて、泣きたくなるくらい幸福なのに涙が出ないほど苦しくて。
胸にぽっかりあいた穴は、あのこの形をしていたのだと、そう、だから。
「─は、はじめまして!!」
どうか今度こそ、僕を手放さないで、二度と離れて行かないで、僕は、ずっとずっと、あなたに
「ぼく!あなたにあうために生まれてきました!」
「なまえは──!」
もういちど、ぼくのなまえをよんでくれたらそれだけで。
しんでもいいくらい、こうふくだったのです。
〜わかりやすい人物紹介と用語解説〜
馬…馬。ポニー。お嬢様ともう一度会うため黄泉路も夜道もひたすらに駆け続けてきた。本人は覚えてないけどどえれぇ試練をくぐり抜けている。
実は祖霊返りという獣人の中でも特殊な個体に生まれ変わった。この後『あのこ』にひっついてどこまでもお供するし最終的には結ばれる。
『あのこ』…『攻略対象ぶらり四人旅』『獅子に(以下略)』に出てきた公爵令嬢のお嬢様。奪われたポニーとそっくりではあるが3メートルの巨体の馬にスキスキビームを撃たれている。ビビってたらものすごい美ショタになったので保護をした。最終的に逆光源氏をすることになる。
お付きの2人…お嬢様の護衛兼メイドと騎士の夫婦。妻の方は一目で巨体の馬が祖国では信仰対象の祖霊返りであることを看破してしまい恐れ多すぎて地に伏せ夫のハーフエルフは警戒しつつも二人を守っていた。この後美ショタになった馬の教育係りになる。
シスターと街の人々…事あるごとに巨体の馬になる美ショタを全力で育てた気のいい人たち。馬のことをものすごく案じてるしこんなことになるきっかけになった奴隷商人と帝国をハチャメチャに恨んでいる。
奴隷商人…一目で高く売れそうな蛮族(獣人)を発見してホクホクしてたら鈍器で殴られた。この後釈放されるけどとんでもない目に遭う。
羽根の生えた奇妙な生き物…生命と愛を司る女神様。傷ついた魂を天の国に導きケアをする役でもある。けなげな動物と人間の愛に弱く小癪なイケメンが嫌い。
推しカプを邪魔するやつはけしてゆるせない。ぶちっとする。掃除が得意。
『あのこ』の故郷の主神でもある。
祖霊返り…時折獣人の中に生まれる先祖である獣の力を強く持って生まれる存在。人間で言うと現人神。
普段は獣の耳と尻尾がある人間だが必要に応じて先祖である獣の姿に姿を転じることができる。総じて本来の獣姿よりも巨大であり種族によっては10メートルをゆうに超える姿になることも。
獣人の国では王家よりも重く扱われ信仰されている。クソつよい。




