第7話 勇者、襲撃される
「すぅ……はぁ……。いよいよか」
俺は深呼吸をすると目の前の扉を見た。
『勇者様の入場です』
中から声が聞こえ、王座の間の扉が開かれる。
重厚な扉を二人の兵士が押し開けると、俺の視界には大勢の人間の姿が映っていた。
「前へお進みください」
その言葉に従い、レッドカーペットを前へと進める。
両側には着飾った者達がおり、中には剣や杖を持つ者たちが存在している。
しばらく進むと、階段があったのでその手前で立ち止まった。
正面にはこの国の国王と、その斜め後ろにミレーヌがいた。
俺が視線を向けると、ミレーヌは頬を赤く染める。昨晩の風呂場での騒動を思い出し、冷静ではいられないのだろう。
俺も彼女の裸を思い出すと体温が急上昇するのを感じる。
「勇者殿よ、よくぞ召喚に応じてくれた」
そんな油断をしていると、国王が話しかけてきたので意識を切り替える。
済んでしまったことは仕方ない。後で改めて謝罪させてもらうことにしよう。
無事に保護された俺のことはミレーヌを通して国中に伝えられたらしい。
一晩経った今は俺という勇者のお披露目の場となっている。
「このたび召喚された勇者殿の名前を聞かせてくれぬだろうか?」
「龍河 勇輝です」
「リュウガ殿とお呼びしても良いかな?」
「陛下の好きなようにお呼びください」
俺の返事に彼は頷く。
「リュウガ殿にはこれよりこの国の勇者として世界を救う旅に出て欲しいと考えている。今から五年前に新たな魔王が誕生してからというもの、世界は滅びの危機に瀕しているのだ」
「あやつらは、突然世界中の国々に攻撃を仕掛けてきました。中には滅んでしまった国もあり……無念です」
国王の側に仕えていた魔導師がこの世界の状況を伝えると、国王やミレーヌ、他の貴族の人たちも悔しそうに、中には涙すら浮かべている者もいた。
全員が演技をしているというわけではなさそうなので、魔王が悪い人物というのは間違っていなさそうだ。
「安心してください。魔王は俺が倒します」
そんな彼らに安心してもらいたく、気が付けば俺は柄にもないセリフを言葉にしていた。
周囲にいた貴族や国王にミレーヌも安堵の表情を浮かべる。どうやら俺の言葉は一定の効果があったらしい。
「リュウガ殿にはこちらからできる限りの支援を行うつもりだが、何か欲しい物はあるかね?」
「では、旅の資金と食糧などをいただければ助かります」
「武器や防具は必要ない……と?」
「ええ、この通り持っていますから」
俺はラグナロクウエポンを彼に見せつける。
国王の側仕えの魔導師がギョッとした表情でこちらを見ている。
「これだけの装備があれば、近いうちに魔王討伐の報告ができると思いますよ」
やはりまずは、戦闘経験を積むべきだろう。
【グロウマスタリー】があれば経験値が10倍という話だし、あっという間に強くなって魔王を倒しに行くことができる。
「そもそも、勇者様は召喚されてからどこにいらっしゃったのですか? わたくしたちは国内をくまなく捜索していたのです。何故誰も発見できなかったのでしょうか?」
俺の持ち物を不思議に思ったのか、ミレーヌが疑問を口にした。
そういえば、俺が魔王城にいつでも侵入できることについても話しておいた方が皆安心できるか……。
「実はですねーー」
そう考えて説明しようとした瞬間、視界の端で何かが動いた。
「死ねっ! 勇者!」
「セルヴァス!?」
国王の側に控えていたセルヴァスという魔導師が短剣を突き出し俺に迫ってくる。
およそ人間離れした動きで接近してきたので、今の俺では避けることも迎えうつこともできなかった。
「殺った!」
勝利を確信し短剣を振り下ろすセルヴァス。この時ばかりは動きが遅くなり、彼の勝ち誇った笑みがよく見えた。
ーーキィーーーンーー
ガラスがぶつかったような音が響くと、短剣が俺の身体から弾かれた。
「ば……馬鹿な!?」
動揺するセルヴァス。
「そっか、この指輪の効果か」
俺は指に嵌めているイージスリングを見た。
「何故貴様がそれをっ!」
さらに慌てふためくセルヴァス。
「だが、そのアーティファクトの対処法は心得ている。魔法ならばダメージを与えられるのだよ」
セルヴァスは短剣を捨てると杖を構え魔法の詠唱を始めた。
「深淵の焔よ……紅蓮の咆哮を纏いてーー」
「あれはっ! 神級魔法のイグニス・デストラクティオ!」
「この城ごと吹き飛ばすつもりかっ!」
「そうはさせんぞっ!」
近衛騎士が剣を抜き、セルヴァスに攻撃を仕掛けるのだが……。
ーーキンッーー
その攻撃は見えない壁に防がれてしまった。
「こんな強力な障壁見たことがありませんよっ!」
ミレーヌが焦りを浮かべて叫んだ。
「いくらセルヴァスが宮廷魔導師筆頭とはいえ、このような芸当……人間の領域を超えています」
「汝古き煉獄の息吹を此処に呼び覚まし、万象を灰燼に帰す忌火をーー」
「とにかくっ! 国王と王女を避難させるのだっ!」
「今からでは間に合いませんっ!」
蜂の巣を突いたように混乱する王座の間。貴族は慌てて部屋から逃げ出しているし、怒鳴りあって喧嘩をしている者もいる。中には祈りを捧げる者も……。
「女神様……どうか我らをお救いください」
ミレーヌに至っては両手を前で組み女神に祈っている。
俺は無造作にセルヴァスへと近付いていく。防壁があるらしいのだがそれは別に問題ではない。
「解き放て! ──イグニス・デストラクティオ! 」
「転移」
俺は障壁を抜け彼の背後に立つとセルヴァスの背中に触れた。
「転移」
そして魔法を放とうとしている彼を魔王城の宝物庫へと転移させる。魔法に詠唱が必要ということは隙だらけということ。
「「「「「はっ?」」」」」」
何が起きたか分からず、皆呆気に取られた表情を浮かべるのだった。




