第6話 王女の祈りが届き、勇者が現れる
「戻って……こられたか?」
転移魔法を成功させた俺は、膝をつくと息を切らし周囲を見た。
あたりはすっかり暗くなっているのだが、最初に召喚された中庭で間違いなさそうだ。
城内は魔法による灯りに照らされており、中庭には薄らとその明かりが差し込んでいる。
「ひとまず、魔力は完全に空っぽになってしまったからな……」
魔導王の魂のお蔭でギリギリ転移魔法で戻ってこられたが、宿で休めば魔力は回復するのだろうか?
いずれにしても、切り札が使えないというのは心細くて仕方ない。
「とりあえず、誰かに見つけてもらえれば助かるんだけど……」
先程、俺のことを探している大勢の声が聞こえた。
向こうも勇者召喚を行ったと認識しているので、ここで名乗りをあげても不審者として始末されるようなことにはならないだろう。
「だけど、人の気配がまったくないぞ?」
先程、召喚されたばかり時は城内にかなりの人数が控えていたようなのだが、一体どこに行ってしまったのだろうか?
数分待ってみるが人一人通りかかることはない。
「このまま待っていても駄目そうだな。探しに行くとするか……」
できるだけトラブルを避けたいと思っていたので、向こうから発見して欲しかったのだがこのまま夜を明かすのはしんどいし、暗いのも怖い。
俺はそう考えると、城内を歩き回り始めた。
★
「はぁ、勇者様はいずこへ……?」
私は胸を痛めると勇者様のことが心配で溜息を吐きました。
「城の人間のほとんどは城下町に繰り出していますし、良い報告があれば良いのですけど……」
城内に残っているのは国王の護衛についている近衛騎士団長と宮廷魔導師筆頭のセルヴァスのみとなります。
側仕えの侍女にも捜索をさせていますが、それだけ勇者様の安否が大事だからです。
「そう言えば……身体を洗った方がいいでしょうか?」
私は自分の身体の匂いを嗅ぐと、慌てて浴場へと向かいました。
ドレスを脱ぎ、足早に大浴場に入ります。
身体を洗い身を清めお湯をかけると身体が芯から温まりました。
何日にも及ぶ儀式のせいで汗を掻いて汚れてしまっていたので、このまま勇者様にお会いするのは失礼だと判断していまのうちに湯浴みを済ませておくことにしましたのです。
「はぁ、生き返ります」
髪と身体を洗い終え、湯船に身体を浮かせると気持ちが落ち着いてきます。
私は胸の上に浮かんでいたペンダントを右手で掬うとじっと観察しました。
勇者様を召喚してから何度も見ていますが、その輝きは美しく失われることはありません。
「こうしている間にも、勇者様が危険な状態になっていたら……」
この輝きが失われた時、勇者様の命運も私の命も尽きてしまう。そのことを想像すると私は身震いをしました。
私は女神に祈りを捧げます。
「女神様……どうか、勇者様に引き合わせてください」
これだけ大勢で探しているにもかかわらず発見できないということは、現時点で魔王軍の手に落ちている可能性もあります。
召喚して心細い状態の勇者様。私は勇者様にお会いしたいと真剣に祈り続けました。
ーーガラッーー
どれだけの時間祈っていたのでしょうか?
女神様から意思のようなものが伝わってきた気がします。
心なしかペンダントが輝きを増したようで、ほんのりと温かみが宿った気がします。
風が吹き、髪が揺れ、私が目を開けると……。
「きゃあああああああああああああああああああああああああっ!」
そこに黒髪の不審人物が立っていました。




