ボードゲームカフェ
「いらっしゃいませーようこそ『セピア』へ」
店に入ると大学生くらいの男の人が笑顔で出迎えてくれた。
「こんにちは、今日は明石さんひとりですか?」
「店長今忙しくてね、この時間はお客さんも少ないし」
「そうなんですね。それはそうと、見てください!後輩を連れてきました」
「真田です」
「小野です」
「おー、ついに如月君にも後輩が。ここでバイトやってる明石です。よろしくね」
なんだか言動がどことなくふわふわしていて、優しそうな雰囲気が溢れていた。
「じゃあ早速本題に入ろうか、あっちの奥の席で待ってて」
僕たち3人は店の隅に位置する4人掛けのテーブルへと案内された。
席についてから改めて店内を見渡してみた。
店内はオシャレな喫茶店そのもの、心地よいBGMとほのかなコーヒーの香りがあり、とても落ち着く。
壁沿いの棚には世界各国のボードゲームが所狭しと並んでいて海外の雑貨屋みたいだった。
明石さんがコーヒーを注いで持ってきてくれた。
「小野君、真田君、砂糖は大丈夫?」
大丈夫ですと答えた。
「じゃあ如月君の分」
といってシュガーポットを如月先輩の前に差し出す。
如月先輩はコーヒーの中に砂糖を4杯、5杯と入れていく。
「そんな入れて大丈夫ですか?」
と真田が聞くと、
「コーヒーは甘くないとね」
と、それがさも当たり前であるかのように砂糖を入れ続けた。
その間に明石さんは空いている1席に座って話し始めた。
「じゃあ始めよっか」
「その前に」
如月先輩が横から入ってきた。
「これからやることはマジの秘密だからここのことは探偵部と氷上先生以外の誰にも喋っちゃダメだからね」
と念を押してきた。
急に場の空気が張り詰めた。
「で例の後輩君はどっち?」
「こっちです」
如月先輩は僕のほうを指さして答えた。
「災難だったね。傷口を見せてくれる?」
生物室での件かと察しがついた僕は左足の靴下を脱いで足首あたりにある傷口を見せた。
大分治ってはきたものの、傷跡はまだ残っている。
「なるほどね」
明石さんは僕の傷口を見ると目を瞑ってしまった。
「よし、大体わかった。多分」
目を瞑ったままそう言った。
「如月君、目を瞑って」
明石さんに言われて如月先輩も目を瞑った。
「『同期現象』」
明石さんは呟いた。おそらくなにかしらの学術を使ったのだろう。
「ああ、これは多分沿岸の工場地帯ですね」
「あそこは変な人溜まってるからね」
明石さんと如月先輩が目を瞑ったまま会話している。
しばらくすると、二人同時に目を開けた。
「ありがとうございます」
「場所はわかったけど、突入するの?」
「ちょっと色々作戦考えてみるつもりです。突入するとなったら明石さんがいると心強いんですけどね」
「力にはなりたいんだけどね」
ままならないよという表情を浮かべた。
「今日はありがとうございました」
「また遊びに来てね」
こうして僕らは『セピア』をたった。
明石さんと如月先輩だけで話を進められてなにがなんだかわからないというのが正直な感想だった。
「なにしてたんですか?」
店を出て最初に真田は聞いた。
如月先輩は「これは機密事項だからね」と前置きをして話し始めた。
「明石さんは見た学術の使用者の様子を見ることができるんだ。それを僕に見せてくれたんだ。
その結果沿岸部の工場地帯にアジトがあることがわかった」
「あんな一瞬で......」
真田は驚いている。僕も同じ気持ちだ。
「明石さんは探偵部のOBなんだ」
「そうだったんですね」
「さ、学校に戻るよ」
探偵部の部室に戻ると、相良先輩と小夜先輩がぬいぐるみで人形劇をして遊んでいた。
相良先輩に付き合わされているのかと思いきや、ノリノリでアテレコしていた。
如月先輩が部室に入ると小夜先輩はムッとして、
「あー、せっかくの女子会でしたのに」
と言っていた。
「それで、場所はわかったんですか?」
「まあね」
「じゃあミーティング始めましょう、氷上先生も呼んできて」
「はいっ!」
体育会系の返事をして真田が走っていった。
僕はこうやってすぐに動けないので見習わないとなと思った。




