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学歴戦争  作者: 突然雨
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探偵部

部室の中央には大きな机が置かれており、その奥には3人掛けくらいの大きさのソファが置いてある。

さらにその奥の壁には天井まで届く大きさの棚があり、その棚にはびっしりとぬいぐるみが詰まっていた。

奥の壁一面がぬいぐるみの壁になっている。


ぬいぐるみの壁の前には、人形劇をしている少女の姿があった。

右手には兎のぬいぐるみを、左手には猫のぬいぐるみを持って小さい声で会話していた。


人形劇を中断し、少女はこちらを振り向いた。


凛とした視線は僕らの動きを止めてしまうほど冷たい。

人形劇を見られたことを怒っているのだろうか。


数秒間、沈黙が続いた。


鋭い視線ばかりに気を取られていて気づかなかったが、その少女は流れるような黒髪と透き通るような白い肌を持っており、どこか儚げな雰囲気をまとっていた。

初対面の女性にこんなことを思うのは気持ち悪いのかもしれないが、まるで童話の中から飛び出したお姫様のようだった。



僕と真田がその場で立ち尽くしていると少女が声をかけてきた。


「あら、新入生?」


「はい」


真田が答える。


「ここ探偵部よ、合ってる?」


「合ってます」


また真田が答える。


「そう、覚悟はあるのね」


覚悟?どういうことだろうか。部活に入る覚悟という意味だろうか。

ひょっとすると、かなり厳しい部活だったりするのだろうか。


「じゃあそこに座って」


少女は何枚かの紙を持ってソファの真ん中に座った。

僕らは机を挟んで向かい側の、古びた椅子にそれぞれ座った。


座ってから気づいたのだが、この椅子、かなりいい椅子で年季は入っているのにしっかりしている。

よく見ると彫られている模様もなんだか高そうに見える。


「私は相良まい、成績優秀な3年生よ。あなた達はその紙を書いて」


小さいけれど、僕らより先輩だった。そりゃそうか。


机に置かれた書類に目を向けると、「誓約書」という文字が目に入ってきた。


僕はこれまで部活に参加したことがなく入部の勝手には疎かったがこんな序盤に誓約書を書かされるものなのだろうか、疑問に思いつつも読み進めていった。

すると下のほうに気になる文を見つけた。


「あの、……先輩?」


「何?読めない漢字でもあった?」


「ここに書いてあることって」


と言って誓約書の下の方に書かれている部分を指さした。

守秘義務と書いてある項目だ。


「『部内の活動内容を第三者に漏洩することを禁じる』そのままの意味よ。部活であったことは秘密で誰にも話しちゃだめなの。わかった?」


「……ああ、はい」


部活ってそんなものなのだろうか。

でもクラスの奴らは部活の話とか普通に教室で話してた気がする。

探偵部だから特別なのだろうか。そもそも探偵部って何をするところなんだ?


疑問が拭えないまま誓約書を読み進めると、一番下の行に気になる表記を見つけた。


『学術協会が認めた「監督者」が監督しており、正当な理由がある場合に限り、公の場での学術の使用を許可する』


ここも相良先輩に聞いてみると、


「あなた何も知らないで入ってきたの?見てて」


ずっと抱えてた兎のぬいぐるみを机の上に置くとその上に手をかざし、何か呟いた。


「憑依: 不思議の(Alice)国の(in)アリス(Wonderland)


すると兎のぬいぐるみの前足が動き出したかと思うと体が起き上がりぴょんと跳ねて相良先輩の肩に飛び乗った。


ついさっきまで無機物だった兎のぬいぐるみに、命が吹き込まれた。

見た目はぬいぐるみのままだが、瞬きや呼吸の様子は本物の兎そのものであった。


「すごいでしょ」


相良先輩は小学生のようなキラキラした笑顔で自信満々にそう言った。

先程まで氷のような表情が一変したことにも驚いたが、それよりも間近でこんなものを見たことはなく、学術ではこんなこともできるのかと驚いてしまった。


「この部活に入れば、いつでもこの子達に会えるってわけ」


と言って壁一面のぬいぐるみに手を向けた。

これ全部相良先輩のもので動かすことができるのだろうか。

彼女は只者ではないのかもしれないと思ってきた。


「ってことは相良先輩はこの『監督者』ってことですか?」


今度は真田が質問した。


「そういうこと。私は成績優秀だから協会に認められるってわけ。あなたたちも部活に入れば私がいるときに自由に使っていいわよ」


「でも、ここに相応の理由がある場合に限るって書いてありますけど」


真田が追って聞く。その点は気になっていた。


「あなた真面目ね。理由なんてどうでもいいのよ。寂しかったからこの子達に癒してもらった。とか言えばいいのよ」


そのこじつけにはちょっと無理がある気がするが、そこまで厳しく取り締まられているわけではないことは分かった。


書き進めていくうちに重要なことに気づいた。


このまま探偵部に入部する流れになってしまっている。


隣の真田は探偵部に入部したいからここまで来たのであって、僕はただ友達になりたくてついてきただけだ。ただ説明を少し聞いただけで入部するには少し早急な判断な気がする。

まだ他の部活を見る時間もあるし、ここで部室を出るという手もある。


しかし、先刻目の前で見た学術、あれを見た瞬間、体の中で何かが燃え出したように熱くなった。

今はもう、何で憧れていたのか忘れてしまったけれど、昔はあんなになりたかった学者。その憧れも時と共に風化し、今はもう潰えてしまった。

もう一度、あの夢を追ってもいいのだろうか。


「————」


もう一度確認しよう。

でも他の部活を見てからでも遅くないよな。

いや、真田とせっかく仲良くなれたんだ、このチャンスを逃すのか?

そもそも探偵部って何するんだよ。ミステリ研究会みたいな?

いや、じゃあなんで学術の使用許可が出てるんだ?ここにいれば学術を使えるのか?

そしたら憧れてた学者に近づくことができるのか?探偵?学術?

僕の頭は大量のクエスチョンマークで一杯になった。


そんな時、新たな人物が豪快に扉を開けて部室に入ってきた。



「おおっ!、新入生が2人もいるぞ」


「お前、いつもこない幽霊部員のくせに何で急に来るんだよ」


相良先輩が面倒くさそうにあしらう。


「いやいや、期待できる新入生がみえてついつい立ち寄っちゃたのよ」


「みえたってどういう意味だか」


入ってきた恐らく探偵部の部員の先輩は笑顔で僕らに声をかけてきた。


「新入生のみんな、っても2人だけど、初めまして、如月在真です。よろしくね」


急に入ってきた生徒はそう自己紹介した。

スラっとしており、脚が長くて、背が高く180は超えているだろう。

飄々としているが、何か只者ではないオーラを持っている、そんな印象だ。

こういう人がモテるんだろうななどと思った。


「え!?あの如月さんですか」


その名前を聞いて、真田がすぐに反応した。


「おお!もしかして僕のファン?」


「ファンってわけじゃないんですけど、如月先輩の名前はよく耳にします」


「正直だね。でも僕の名前知ってくれてるのは嬉しいよ」


「お前はよくも悪くも有名だからな」


相良先輩がそう言った。


「2人はもう誓約書は書いたの?」


如月先輩が聞いてくる。


真田は「はい」と答えた。


「あの、僕は実はまだで、まだ探偵部についてあまりわかっていないので......」


歯切れの悪い答えをしてしまった。


「それもそうだよね」


「見学とかってできたりしますか?」


「うーん、この部活に見て学べることはあんまりないかな。実際に現場に行ってみるのがいいと思うよ」


「わかりました、そうします」


「じゃあ早速明日の放課後、生物室の前に集合ね。相良さんが来てくれるよ」


「生物室の件か?あれならお前ひとりで片付くだろう」


「僕は別の調査があるからねえ」


「お前は行かないのかよ……はあ、わかったよ」


気だるげに相良先輩は答える。


「よし、じゃあえっと見学希望の......」


「小野です」


「小野君、明日生物室前集合ね」


「はい!」


こうして、部活動の第一歩が明日から始まることになった。

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