依頼
探偵部の部室には探偵部の部員5人と顧問である氷上先生が集まった。
如月先輩の一声でミーティングは始まった。
「アポトーシスのアジトについてですが、明石さんに見てもらったところ、沿岸部にある工場地帯にアジトがあることがわかりました。周りの状況から鑑みると恐らくふ頭5号線道路のあたりでしょう」
「問題はここからどうするかです。君たちにここまでやってもらって申し訳ないが、もちろん君たちだけで襲撃はできない。ここからは警察か協会の協力を仰ぐ必要があります」
氷上先生が真剣な顔つきでそう言った。
「ここから先はプロに任せるしかない。僕が警察と協会に掛け合ってみます」
少し考えればわかることだが、犯罪組織の襲撃に高校生が行けるわけがない。
どこか残念な気持ちもあるが、ほっとした気持ちのほうが大きかった。
こうしてこの日のミーティングは終わった。
3日後、放課後に探偵部の部室へ行ってみると氷上先生がいた。
大事な話があるといった顔つきだ。
しばらくして探偵部員が集まると先生は話し始めた。
「例の件、警察と協会に連絡してみました」
先生は重そうに次の言葉を紡ぐ。
「警察の協力は得られませんでした」
「そんな......」
「証拠不十分だそうです。ただ協会のほうは話は聞いてくれました。
しかし、そんな人員を割いてくれるわけではなく、学者を数人派遣ならできる、とのことでした」
「私立事務所の学者に頼むのはどうなんですか?」
真田が質問する。
「この件は表向きに報道されていません。利益も見込めず、報道で名前を売れそうにもない今回の件で協力は難しいでしょう」
「そうなんですね……」
「そこで非常に不本意なのですが、君たちに依頼をしたい。
……この事件の証拠を掴んでほしい」
「襲撃はしない。あくまでも証拠になるものをとってきてほしい。もちろん危険な依頼なので先生も付きますし、1年生の二人は参加しないでいい。お願いできますか?」
「そりゃあもちろん」
一番に返事をしたのは如月先輩だった。
ほかの先輩もそれに続いて引き受けた。
「ありがとうございます」
「あの、先生、僕も参加します。元はと言えば僕が原因ですし、先輩に頼ってばかりではいけないと思うので」
僕も手を挙げた。
内心は怖いという気持ちが勝っているが、こんな状況で引っ込んでいる不甲斐無さが勝ったのだろう、自然に手が挙がった。
続けて真田も手を挙げて、結局探偵部全員で参加することになった。
「1年生の二人は特にですが、学術の勉強をしっかりしておくように。2週間後になります」
こうしてミーティングは幕を閉じた。
数日後、僕は悩んでいた。
今日もどうやら落ち着かず、朝早くに目が覚めてしまった。
することもないのでいつもより1時間くらい早く登校して、探偵部の部室に寄ってみた。
すると小夜先輩がなにやら自主練をしていた。
「あ、おはようございます」
「あー小野君、早いねえ」
「いや、先輩もですよ」
小夜先輩はクスっと笑った。
探偵部に小夜先輩がいて良かったと本当に思った。
相良先輩は当たりが強めだし、如月先輩は自由奔放な人だ。
そんな先輩方と上手く接して場を和ませてくれるような印象だ。
「そういえば、こんどの潜入のときですけど、どういう学術を学んでおけばいいんでしょうか?」
そんな小夜先輩に、悩んでいたことを聞いてみた。
「うーん、まずは基本が大事だけど、そのあとはほんとに好みですかね。
ほら、相良先輩とかは小説好きだし、如月君は星が好きだから神話とか天文学とか、そういった系統の学術でしょ?」
「そうなんですね」
「小野君はなんか好きなものとかありますか?」
「高校に入ってからは物理に興味が湧いてきました」
「いいですねえ、理系科目は体系化されてるものも多いので扱いやすいですよ。物理の中でもどの分野が好きですか?」
「強いて言うなら力学でしょうか。熱も好きです」
「好きな分野たくさんあるのはいいことです。物理となると、質点の生成はもうできますよね?」
「はい!」
「エネルギーについて学んでみるのもいいかもです」
「エネルギー、ですか?」
「仕事を行う能力のことです。
エネルギー保存則って聞いたことありますかね?
エネルギーの形が変わっても総量は変化しないっていう決まりです。
これを使いこなせればかなり強くなれますよ」
その後もかなり長いことエネルギーについて語ってくれたが、申し訳ないことに理解できた部分のほうが少なかった。
「なるほど......勉強してみます」
小夜先輩にお礼を言って別れ、早速図書室で本を読んでみた。
このエネルギーというもの、深すぎる。
学術もエネルギー保存則の応用だという。
体内の化学エネルギーを超自然エネルギーに変換することで学術を使っているらしい。
厳密に言うとこの化学エネルギーを超自然エネルギーへ変換する操作を学術と呼んでいるという。
ダメだ。読めば読むほどわからなくなっていく。
ひとまず本を借りて、教室へと向かった。




