5 ボスと裏ボスのライスバトル前はイベントはわりとどうでもいい
後に勇者一行が通るであろう玉座までの道。魔王の部屋に続く巨大空間は、力強く荘厳な作りが真っすぐに続くいた。
一瞬立ち止まってしまうほどーーーー綺麗だ。
さて、勇者一行が来るまでの緊張感など本来は物語には必要ないだろう。残念なことに俺はこの世界の悪役だ。裏ボスなのだ。
レベル1の美少女になっちまったが。
死ね、この世界の設計者よ。未来永劫祟ろうぞ。
はい、創造神の代理である世界の声です。
「注意するようにとのことで」
まあひどい。
「ひどくない。AIもそうだが自分で考える力をなくすと後悔するよってことでしょう? 役割が決まっている世界ほどそう思えるものの賢さは大事だよ」
ーーーーはい。
奥の部屋の前についた。
紅と黄金とドクロで装飾された趣味の悪い入口だ。
待っていたかのように巨大な門が開き、奥の間が姿を現す。
円状の舞台、階段上にある禍々しい玉座。そこに座るものはーーーー入口脇で膝をついていた。
「邪竜様、女神との一戦お疲れ様です。双方無力化という結果お見事です」
でけええっ。こええええ!
立ち姿は10メートルをという巨躯。黒い肌と血色の六つの瞳、巨木のような手足と漆黒の鎧。
でも、見慣れてくるとかっけえ。背負ってる剣は盾でも鎚でも斧でも使えそうなほど巨大であった。
「ーーーー」
ぽかーんとしていた俺に合わせ話を進めてくれる。
「邪竜様、いえ邪神竜様」魔王はどこか嬉しそうに「新たな道が開きましたな」と口にした。
勇者劣らずすげえ良いやつのようだ。
「あの、そのな。まあそういうことだ。で、呼んだ件だが」
「はっ。こたびのいくさですが戦局の要は魔王である勇者一行との決戦です。勝つーーーーと言いたいところですが」
「なるようにしかならない」
「はい。それにリスクのあるクラスチェンジで邪神竜になられたのも今後のためでございましょう。この城には秘密の転移門があります。そこより邪神竜様はお逃げになり、我が身なければ新たな魔王を」
「最後にどどーんて出たほうが」
俺の可愛らしい脅かすポーズに魔王はドヤってきた。
「一応3段階まで変身可能ですのでご安心を。それに邪神竜様を失う可能性は排除せねばなりません」
そっか。ラスボス戦が4回は長いよな。
「わかったよ。魔王は良いやつだな」
「ーーーーそれがこの世界の役割というものです」
こいつわかってやがるな。
「おけ」
「以前使っていた部屋は右脇の階段から言った先です。必要な物資を取り次第その先の裏道前にいる衛兵にお話ください。転移門まで案内を言伝ております」
「さんきゅー。ま、楽しんで」
やっぱり、しごできすぎるっ。
「ーーーー邪神竜様も」
そして明らかに仰々しい階段先の部屋に入るとアイテムや装備を漁った。
ラッキー。裏ボスムーブしなくていいよって。
世界の声が響く。
テュルルルンッ、邪竜の部屋のアイテムを獲得しました。
「声で獲得音を作るな。さてアイテムの内容は」
ポーション99、ハイポーション82、エリクサー75、魔灯石45ーーーーーー
すっごい量。これきっとずるいスタートになるやつだ。何々、邪竜の日記がある。それとEXアイテムが。
【邪竜の日記】
☓月☓日 勇者はまだ来ない。せっかく貯めたドロップ用アイテムがカンストした。
☓月☓日 勇者はまだ来ない。大量の金銀財宝も用意したのにーーーー
☓月☓日 勇者はまだ来ない。未知の文明の装備や神代の魔道具も用意したよ。これで我もイチコロだよ。
☓月☓日 勇者はまだ来ない。本当にさ、やる気あるの? 最近の若者は役割を軽く考えすぎっ。
グレてきた。
☓月☓日 勇者イケメン、素敵っ、ちゅっちゅっ。我を焦らすなー。
☓月☓日 やっべ。夢で勇者と二人でダンジョンランデブーしちゃった。
☓月☓日 勇者来て、来て来て、来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て。
ーーーーきも。アイテム全部燃やそうか。
もったいないと進言します。
それか勇者に残すかーーーー。
次の1ページで手が止まった。
☓月☓日 勇者はまだ来ない。だがとある異界のアイテムを発見した。電気で反応するそれらの複数あるうちの一つが我を変えてしまった。異世界っていいなー。役割があるって不自由だ。我ものんびり生きてみたい。
そっか。そういう悩みもあるんだなあ。
☓月☓日 勇者はまだ来ない。時空魔法も進化が進んだ。かつては世界中を転移するぐらいだが、今では異界と一時的につながるブラックホールを観測できるようになった。ふははっ、世界の声よ。邪竜ハデスはここでくたばる器ではないわ。異世界のアイテムが来るということはーーーーチャンスはある。勇者よ残念だったな。我が野望は異世界で叶えてくれよう。世界の役割とイベントにとらわれた子羊よさらば。
そして我となった者よ。
本来は死ぬ定めを助けた。褒美に貴様は貰う。詫びに我と部屋にあるものは全て持っていけ。そしてこの世界の呪いを見るがいい。
願わくば我と同じ気持ちであれば幸いだ。
運命より自由へ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「なるほど、ね。計算だと思ってたけどこういう理由があったとはね」
【運命を恨みますか?】
世界に声が響く。
「さあね。ハデスはどうして魂を入れ替えたの?」
【邪竜の役割がある限り時空魔法でも世界の外側に外にはいけません。だからこそ城を空に浮かし虚空を見上げていました。役割を引き継ぐ存在を探すため】
「俺も役割がある限り」
【ーーーーはい】
俺は目を閉じた。
【再度伺います。運命を恨みますか?】
「ーーーーなるようになるさ」
と覚悟を決めやように視界を開けた。
俺の言葉に世界の声は何も答えなかった。
まあ、どうせ死ぬ身だったし異世界モラトリアムと考えたらお得なもんだな。
それにしても俺の世界の何に影響されたんだ?
一覧から異界のアイテムを取り出した。
四角い紙箱、美少女が複数人いる表紙。
黒埼永礼はアイテムボックスから、異界のアイテム【美少女ゲーム・どぎ○ぎメモリアル】を取り出した。
PS.幼馴染か妹属性が最高だよな。くうー!
そっちの美少女は拳どころか魔法も強めだから頑張れよ。この日常感はこちらでは体験不可だっ。
さらばだっ。
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うん。あの野郎⋯⋯⋯⋯あの野郎っ。
【運命を恨みますか?】
「美少女ゲームをリアル体験するために異世界転生してんだけど!! 恨むだけじゃ物足りねえよっ。幼馴染と妹の危機じゃねえかっ! ゴミデスっ。絶対殺す! 俺の愛する平穏を美少女ゲーム感覚でちょっかいかけてみろっ。許さねえからな!!」
俺の絶叫が小さく木霊する中、勇者と魔王の最後の戦いが始まった。