3 お初の魔王城を探検する暇もない
俺は邪神竜。世界の敵である。
世界の声曰く、只今勇者と魔王の戦いのクライマックスだ。雲の上にある天外要塞魔王城にて最後の戦いが起きていた。
周囲では勇者連合と魔王軍が鬨の声を上げていた。勇者一行は戦力差をひっくり返すために、少数先鋭で城内に特攻。玉座にいる魔王を目指した。
まさに連合を囮とした乾坤一擲の手であった。
この世界には運命とそれに合わせた役割が決めれています。ナガレさまの世界と違い、何をするべきか多くが決まっているのです。
「なるほどね。それでこのイベントの最後は魔王を倒して終了ということかな?」
概ねそうです。
「世界の声さ。この世界のイベントは絶対なの?」
はい。創造神がお決めになったことです。
「この世界のルール。俺もその一つ、か」
ーーーーはい。
「まあ、うまく演じてみせるさ」
俺は魔王城内の螺旋階段を降りていった。
中世の城とSFの電子機材が融合したような不気味な内部であった。ゴーレムがうろついているがこちらには敵意がなかった。
螺旋階段のある空間だけで高さ100メートルがあり、電灯と魔法式の壮大な景色はどこか魅力的であった。
静かな館内にうっすらと響く、外からの轟音。機械と魔法式の音が舞台を奏でた。
こんな景色日本ではない。今の文明が発達してもこれだけの物質を持ち上げるのに100年以上がかかるだろう。
景色に圧倒されていると、視界の右下にある一覧ボタンに電話マークが出てきた。
「ん?」
仲間との通信機能です。
「なるほど。ぽちっと」
『偉大なる邪竜様。魔王でございます』
「ーーーーああ、君呼んでたね」
おどろおどろしい声だが、礼儀正しい。
『はい。お忙しいかと思いますが玉座にお戻りください。勇者一行および連合の先鋭が侵入しています』
「ごめんごめん女神とやっていて」
『戦の美神とですか! お怪我は?』
「大丈夫引き分けだよ」
『ーーーーなるほど。それは僥倖です。では今後のイベントの主は予定通り』
「勇者と魔王の最終決戦だろう?」
『はい。邪竜様、玉座には戻ってきてください。今後の動きを報告いたしますので』
「おっけー」
『ーーーー邪竜様、いえ、なんでもありません。親しみやすさも大事ですので。味方の力を吸い取っていたお姿から今の姿が』
そんな悪役ムーブちゃんとやっていたんだ。
「まあ最終決戦前だし」
『変わられましたな。我もまた、おっと時間が惜しいですね。では邪竜様、我らが希望よお急ぎを』
「まっかせて。あっーーーー」
どうかされました?
「世界の声さん、玉座の場所がわかりません」
マップがあります。
「それだけだと」
魔王からのメッセージが来た。
「おおっメール機能、マップと目的地点の設定。この魔王、しごできすぎるっ」
地点をマップに登録すれば、魔王城の内部と玉座への行き方及び音声案内を行います。
「よしっ、行こう」
俺は螺旋階段から横に抜ける通路を走り出した。
「ーーーーこんにちわ」
空中通路と電灯と魔法式の光の間で彼に出会った。
「僕は勇者ノエル。
こんな危ないところにいる君は何者だい?」
勇者の身長は俺より低いため幼く見えた。ただ真っ直ぐな眼差しは、彼の超えてきた苦難を理解させるのに十分であった。絵に描いたような小さな勇者がそこにいた。
レベル1の邪神竜がピンチであることは言うまでもない。