1 邪竜と女神とチュートリアル、てか一方的な暴力
俺の名前は黒埼永礼。
ごく普通の一般大学生だ。
ひょんなことから飛行機事故に巻き込まれ、邪竜と契約してしまった男だ。
現在は、女神に目覚めの挨拶にとトドメを入れられようとしていた。
「ーーーーこれでっ!」
『まっ、待てっ』
情報が多すぎる。どうなってんだっ。まずいっ。
俺はあたふたしながら周囲を見た。場所を知らなければどう逃げていいかもわからなかった。
あいつは邪竜って言ったてから、今の俺はドラゴンか。通りで体が重いわけだ。だがこのままぼっとしているとトドメをもらいそうだ。一旦落ち着かせなければーーーー名前、えっとなんて言ってたか。
俺こと邪竜の口先でメイスを掲げる人生で一番キレイな女性ーーーー『白。待て』と見た目の印象で呼んだ。
「ーーーーっ。どこ見てんだっ。変態は邪竜!!」
『見た目の話だっ。名前を知らなくてっ。てか自身のパンツを公表するやつに変態だと言われたくないっ』
俺は美少女を振り払って立ち上がった。
彼女は器用にバク宙しながら着地した。
「ーーーー殺す」
『ん?』
「女神である私の名前をお忘れた? 宿敵だぞ? それに変態扱いーーーー」
『ーーーー』
やっべー。ぶちギレ。やっちゃったー。
『ーーーー一時休戦』
「確実にやる」
バーサーク化した女神の前に言葉は効力をもたらさなかった。
視界には日本では見たこともない美少女。うっすらと虹色に光る白銀の長髪。空のように青い瞳、黄金と白銀で編まれた鎧は闇属性特攻を持って言うことがわかる。
それによく見れば、自分の視界の端にボタンのような物があった。
おめでとうございます。貴方は邪竜になりました。
チュートリアルを開始しますか?
『どこから声が』
世界の声と呼ばれる案内役です。開始しますか?
『今にも殺されそうな状況で?』
始まりのイベントですので。
『ーーーーそっか。よろしく頼む』
マイペースだな。
では女神アルテミシアの攻撃を避けながら聞いてくださいね。
『ゲームみたいに絶対耐えられるとか?』
貴方の世界のゲームと似た部分は多いですが、ダメージは命に関わるので回避を推奨します。
『なるほどな』
「覚悟っ」
俺は女神の上段からの攻撃を、体を捻って躱す。
右下のボタンを選択してください、という声に従うと、ゲームメニューのような画面が視界に現れた。
『へえ。これでスキルや持ち物がわかるのか』
その通りです。この世界ではこの一覧、いわゆるクイックメニューで表示されるものが大切です。全体として、
クイックメニュー
アクション
スキル
装備
ステータス
持ち物
イベント
マップ
設定
と分かれています。
貴方の世界にあるネットやスマートフォンに近いです。基本的に使わなくても一般的な生活ができますが、活用すると非常に便利となっております。
『例えば意識外の攻撃に対処するようにアクションで防御を設定しておくような?』
はい。お見事な解釈です。ではアクションの前にスキルをご確認ください。そちらには本来所有スキル以外にレベルや経験値で獲得する技や魔法があります。
『ーーーー』
ワールド・エンド、ヘルファイヤなど小っ恥ずかしい技名ばかりだ。
『これを使うのか?』
いえーーーー貴方は魂が変わっているため使用不可です。
『はい?』
試しにスキルを選択するもバツが出てきた。
「ーーーー」
どうですか? この絶望的状況は?
『性格がいいなっ。世界の声っ』
ありがとうございます。この攻撃受けると死ぬと思うので飛び下がってください。
「死ねええええええ!!」
「ひいいっ」
多分一撃食らえば終わりであろう神聖魔法のメイスの一撃が自分のいた場所に大穴を開けた。
『まったくっ。邪竜の力を使えないならどうするっ』
俺は飛んで逃げながら視界の端で他の一覧を見た。
スキルは全て使用不可。アイテムもマップも、ステータスも全て無効となっていた。
もう、視界で操作を覚えるとは慣れがいいですね。
『瞬発と感覚での戦闘にアクションやスキルによる行動設定、次元空間のアイテムを活用するのがこの世界の基本だろう。なら意識のみで一覧は操作可能』
その通りです。あと、アイテム使用不可は邪竜の設定です。
『なら、スキル使用不可のこの状況は有り余った体力でが耐えられるかどうかだけっ』
はいっ。
『俺の不幸を喜びやがってっ』
【神罰ノ慈悲】
女神の一言で俺の全身は鎖で包まれた。
『しまっ。世界の声、教えなかったなっ』
最高位神聖魔法です。EXクラスの神も捕縛できます。スキルなしでは脱出不可です。
「天の慈悲、空の涙、大地の嘆き、放つは運命を変える意思ーーーー」
『明らかにやばい演唱に入ったぞっ』
彗星級魔法ですね。
『彗星級? 流れ星っ。そんなのにぶつかったら星が滅ぶぞっ!!』
はいっ。邪竜もっ。
『ふっざけんなっ』
「星宙を断つ閃光、貫くは邪悪、我が身を捧げ繋ぐは悠久の時ーーーー」
『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ』
死んだ死んだ死んだ死んだ。
『おいいいいっ。フェア精神にかけるぞっ』
ふふっ。ではステータス右上のジョブを見てください。そこにクラスチェンジボタンがあります。
『はやく言えっ。あったっ』
ーーーー押す前にこの世界のチュートリアルなどは適当です。これはなくていいもの。貴方はこのボタンを押すとこの世界に適応した存在になります。
それでもこの世界の|《・》宿命《さだめ|》《・》を背負いますか?
『ーーーー知るかよ』
状況は滅茶苦茶だ。でもそれしかなかった。
『世の中って思い通りにいかないんだ。この先もきっとそうだ。世界の声とやら、邪竜の宿命が世界の敵か何かは知らない。ただ俺であることは変わらない』
ーーーー【邪竜ハデス。魂の変化に伴いクラスチェンジが可能です。承認しますか?】
俺がする選択肢は一つだけであった。
【彗星級戦略神聖魔法ーーーー天ノ楔】
女神の一言共に効果が表示された。
空間を丸ごと破壊する神罰の槍。
邪竜・神族にも有効。防御無効。一撃必殺。
時間がねえ。
『クラスチェンジだ!!』
【邪竜ハデスがクラスチェンジします。この度の戦闘キャンセルとなります。キャンセルに伴い、邪竜ハデスにはペナルティが発生、女神アルテミシアにはクラスチェンジによる防御機能により戦闘不可まで一定ダメージ。後に恩恵を与えることで終了】
「ばかなっ! 邪竜がこれ以上進化などありえーー」
女神アルテミシアは世界の意思によってダメージを与えられ、砕けた鎧を飛び散らしながら吹き飛ばされた。