10 不自由な自由の少女。
一人の少女が噴水の側で腰をかけ、褐色肌の細い足をばたつかせていた。
「小鳥さん、あなたは誰かに飼われていたね。じゃないとこんなに警戒感がないのはおかしいよ。
私とおんなじーーーー自由という苦難」
小鳥はそんなことなど梅雨知らず、乾いたパンくずを美味しそうに食べていた。手のひらの上にいる無知はかつての少女を見ているようで寂しかった。
「ちゃんと考えて旅に出るんだよ。魔王軍に味方したダークエルフの少女なんて、聖都で乞食しても助けてはくれない、奴隷になったほうがいいって言われる存在だから」
無情にも小鳥は首をひねった。
「もうーーーーわかってないんだから」
少女は空を見上げた。
翼の生えた自由な生き物になりたい。綺麗な空の向こう側へ、星を掴みにいきたい。
そんな夢は叶うはずもないのに。
なんでこんなに不自由なのに、空は綺麗に見えるのだろう?
魔王軍が負ければ終わると思った世界は、苦難のみを残して存続した。
それでも時折来る静寂は、どこか居心地が良かった。
噴水の音が戻った。向こう側で兵士の声をが聞こえる。
どこに行った?
ダークエルフは貴族や司祭連中に高く売れるぞ!
法が整備されていない今が最後の好機っ。
おっと魔王軍残党って言えっ。
「小鳥さん時間よ。本当の自由を手にしてね」
そう少女が両手を掲げた時、空から巨大が黒い翼を生やした乙女が舞い降りた。
「ーーーー救世主」
慌てふためくそれを見て、少女は昔話を思い出した。
死海の側に広がる枯れ森に住むダークエルフ。その先に忘れられた大地があった。苦難の地を歩く謎の神秘教団。その教祖が枯れ森に来て口にしたこと。
旅に出よーーーー君の救世主に会えるかもしれん。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は地図表記された小鳥のピンにめがけて、聖都を一直線に横断していた。
時間がない、間に合うかーーーー。
天井、壁、人混みを飛び越えていく。
その中で、外側に向けて低くなる聖都の一大観光スポット、街のいたるところにある崖で最大でもある高さ100メートルは超える祈りの壁から飛び降りてしまった。
「やべえええええぇぇぇぇっ!」
服の隙間から風が入って涼しいーーーーじゃなく、どうする? 着地地点を人気のない広場に調整、あの噴水あたり誰もいないな。飛行能力使ったら翼見えるし、わんちゃん着地を耐えられるか?
『足を少し痛める程度かと』
「エコーナイス。じゃあ気合いで自由落下着地」
下層の噴水近づいてくると、調整をミスしていた。
このままじゃあ噴水に突っ込む、てか女の子が側で座っているっ。
「危ない、逃げろ!!」
俺は咄嗟に翼を広げた。完全に止まることはできず、噴水内に女の子を押し倒しまった。
「いたたっ。ごめん怪我はなかった」
覆い被さる形で、ダークエルフの少女が水面を背にこちらを見つめていた。灰色のショートボブ、褐色の肌、透き通った深海を思わせるような瞳は魅力と静けさを持っていた。12.3歳だろうか。140cm余りの身長と控えめな胸。そして粗悪な服と身を隠すような外套から浮浪者とわかった。
「大、丈夫?」
こっそり竜翼と尻尾と申し訳程度の角を消した。
少女は放心状態でこちらを見つめていた。
ぴよぴよっと俺の頭の上に小鳥が止まった。
『クエスト対象です。魔法で用意されて鳥籠に』
「ラッキー。捕まえるよ」
起き上がってクイックメニューより、クエストの専用道具を取り出して鳥を捕縛した。
「ーーーーそう。小鳥さんはそういう運命だね」
少女は上半身を起こした。
「ごめんね。所有者が探していたんだ」
俺は空いていた右手を差し出した。
「いいの。それが幸せな場合もある。その鳥は狩りができない」
「温室育ちだしね」
小さな力で答えた少女の引っ張り起こし、2人で噴水から出た。
「ごめんな水浸しにして」
俺は噴水の側に鳥籠を置いて服を絞った。
「大丈夫。憂鬱だったからちょうどいい」
「そっか」
少女も穴だらけの外套を絞りながら「お姉さんは何者?」と聞いてきた。
「俺は通りすがりのお兄さんだよ」
「お兄さん? 雌雄一対の存在、邪竜と女神が同一性。ああ、やっぱり予言の救世主」
「ん?」
少女の狂信的な視線に戸惑っていると、ぞろぞろとガラの悪い騎士がやってきた。
「えへへっ、見つけたぜええー。金のなる実」
始めて剣を舐めるやつを見た。
三者三様のしゃぶり方、
「うっわー」
絵に描いたような下級悪役騎士三人衆のご到来だ。
「先輩。あの子もやべええ美人」
「ひひっ。今は正義のギルド連中も遊び呆けているしなあ。この間に売れる奴隷を仕入れておかないと。明らかな脱走奴隷のダークエルフは売り物で、お姉さんは異端の罪で俺たちのご奉仕してもらわないとなあ!」
「ーーーー」
うわっ、すごーい安物の悪役。
「俺男だぞ」
一応忠告しておこう。
「もう少しマシな嘘をつけっ。んなボインな男がいるか!」
「ーーーーはあ、そうだった。おっと、これもあった。俺は冒険者ですよ?」
「「はいーーーー」」
3人まとめてやっちまった顔になった。
すげえ安物だよ。エコー最適解ちょうだい。
球体ドローンの目が周囲を見ていた。
『お仕置き後、ギルドの報告』
「おけ」
俺は鳥籠を少女に手渡した。
「よろしく」
「はっ、はい」
少女は慌てて受け取った。
「俺の後ろにいて」
小走りで俺の後ろに下がった。
俺は少女の前でストレッチを始めた。
「先輩っ」
「臆するなっ。俺たちにはあの方の保護がある。それに服装を見る限り見習いだ。無茶苦茶にして殺せばーーーー」
鈍い音が響く。
俺は間髪入れずに、無言の騎士の鎧を砕き腹部に右拳をめり込ませた。
ゲームじゃないんだ。バトルなんて掛け声があるはずもない。何よそ見してるんだ?
殴られた騎士は地面を転がり、道路の置物となった。
「なっ? 卑怯者っ! 強化寄越せっ」
「は、はい先輩っ。ーーーー我は理を」
「やっぱりだ」
俺は左足を踏み込むと浮かび上がったレンガを右足で蹴り飛ばす。
演唱を終える前に弾丸のようなレンガが顔の鼻骨と意識を砕いた。
これで残り一人だ。
「技の弊害、スキルという基礎もあるかな? この世界は臨機応変さにかける。そう思わない間抜け?」
「くっそおおおおっ。だまれだまれっ。聖騎士なって4年の俺様をなめるなっ。我が剛剣をみよっ!」
「こいつらじゃあ、俺の使いたい武器の選別にならなかった。まあ自分の程度と世界の程度がわかった。ありがとう」
「きぇええええっ!」
大振りの上段斬り。
俺は何事もなく左拳の人差し指と中指の間で両手剣を白刃取りした。
「えっーーーー」
今世紀最大のマヌケ顔。
「ノエルが急ぐわけだ。武器の選別も好きにして。それは技も使う必要もないということ。出てくる答えは、ここじゃあレベリングができないじゃないか」
俺は右拳で騎士の剣をへし折り、驚いた隙にみぞおちへの左膝、左手で胸ぐらを掴み、引く勢いも合わせた右拳のフックで勝負は見えた。
顎に入った太った聖騎士が脳が揺れて崩れ落ちる。
俺は数歩下がり「エコー追撃よろしく」と最後に矢のような飛び蹴りを放ち肉塊を吹き飛ばした。
壁面に穴の開いた家の屋根を吹き飛ばし、神罰が落ちた。
「近くの男子高校の不良連中と、平凡のために決闘していたんだ。喧嘩慣れはしているよ。相手が悪かったな」
俺のセリフを待ってましたと屋根が崩れていき、騎士の痴態を隠して終幕となった。
声を漏らしながらダークエルフの少女は驚いていた。
「怪我はない?」
無言で首を縦に振っていた。
「えっと、自己紹介まだだったな。俺はナガレ、ただいま新米冒険者になるところだ。君は?」
「ーーーー枯れ森のシェナ」
おお、名乗りで出身をいっているのか。
「よろしくシェナ。怪我がなくて何より」
俺はシェナから鳥籠を受け取り頭を撫でた。
寡黙であるが目が嬉しそうだ。子犬みたいな少女であった。鋼鉄の首輪が気になるが。
「ーーーー救世主。いずれまた会いましょう。私は自分を買わなくてはいけないので。そのために路銀稼ぎを」
「買う? ああ、そうか。すべてを救うことはできないけど、まあこれぐらいしておかないとバチが当たりそうだ」
俺は銀色の貨幣の入った小包を手渡した。
「小鳥と一緒にいてくれたお礼」
「あのーーーー」
「それで自由を買えるといいね。じゃあ、俺も急いでいるのでお先に」
おっと口止めっと。
「俺が竜っことは内緒でね。銀貨20枚分の口止め料だよ」と俺はその場をあとにした。
さて、間に合うか。
太陽が少しずつ山の向こうに消えていこうとしていた。俺は気にすることなく彼女が平凡に戻れることを願った。
ダークエルフの少女ティナが右手に握っていた指輪を見て、どこか罪悪感を噛み締めていたと知らずに。




