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本棚の影に隠れて見えてなかったけど、壁に……剣が……剣が立てかけてある!
奴隷に武器を渡すとか、馬鹿よね?
すたたたっと剣に引き寄せられるように近づいた。
剣、剣だぁ、剣よぉ、本物の剣っ!
手を伸ばして触ろうとした瞬間に、手を止める。
「おちちゅくのよ……」
悪党は馬鹿じゃなくて、めちゃくちゃ賢いのかも。
私が刀剣好きだと察し、わざと置いている可能性もある。
罠……。触ると電気が流れるとか……。
頑丈でもきっと電気はびりびりして、下手したら死んじゃう……。
ああ、でも目の前に求めてやまなかった剣が。
剣だ。本物の……。剣なのだよ!
さやから引き抜いたら、どんな刀身が……ん、刀じゃないと刀身ではないか、剣身だっけ。
見たい……。見たいよぉぉぉ!
ふらりと、伸ばした手が思わず剣に触れた。
ひぎゃーっ!電気が!流れない!
なんてことでしょう!
ここは天国か!うはははは!剣、剣、剣!
思わず剣の舞を披露する4歳児。あ、もちろん剣をもって舞うわけじゃなくて、剣があることへの喜びの舞だよ!
……って、ぜーはー。空腹で踊りまくって息も絶え絶え。
失敗した。でもおかげで気持ちが落ち着いた。
「……では、ちちゅれいちて……」
さやから抜いてみようと、壁に立てかけてあった剣の束をもって傾けた。
うぐっ、重たいっ!
べしゃり。
剣が倒れてきて下敷きになった。
「おもちゃい……」
どかすこともできない重量感。
ってことは、これ、鉄の剣じゃない。確かミスリルとかアダマンタイトとか重たいとか言ってた。
ってことは!ミスリルとかなんか貴重な金属が使われてる剣ってこと?
なんでそんないい剣が奴隷部屋に?
「今の音はなんだ?」
ばたんとドアが開いた。
明かりがつく魔道具……蛍光灯のようなものじゃなくて、ランプとかテーブルライトみたいな、もしくは提灯みたいなめちゃくちゃ明るくなるものではないけど……を、声の主がつけてベッドを確認している。
「いない!どこへ行ったんだ?行く場所なんてないというのに……知らないのか……」
行く場所がない……逃げられないってこと?
っていうか、私の馬鹿!
剣に思わずつられちゃったよ。何で逃げなかったの!
「くそっ、小屋を出たら周りは魔物だらけだというのに、外に出たんじゃないよな?」
焦ったような声を出す男の人。……たぶん飼っちゃだめだとか言ってた人だよね。
こちらに背を向けているので顔は見えない。
「しまったな、間に合うか」
ぐるりと男の人が振り返って、私が何歩もかかったベッドから出入り口近くの壁まで、数歩で近づいてきた。
「ぎゃぁっ!死んでるっ!」
男の人が私を見てちょこっと飛び上がった。
「ちんでない」
反射的に答える。
「大丈夫か?」
剣を私から奪うと、すぐに抱き上げられた。
さようなら、剣……。
「ああ、生きてるか、よかった。剣が倒れてきてつぶされたんだよな……無事でよかった」
私を抱き上げた男の人の顔が見えた。
男の人というか、前世アラサー女子からすると男の子と呼びたくなる若者だ。20歳になってないかも?
「痛いとこはないか?重たかっただろう?びっくりしたよな」
……なんだか、思ってたのと違う。
奴隷に対して親切すぎない?
でもペットに対してならそんなものなのかな?だって、猫は正義だもん。
私が猫だとすると、心配もするし、抱っこもする。
よし、ならば、大事にされるようにミチェは猫になろう。
大丈夫にゃんとか言えばいいだろうか?
「ぐぅぅ~」