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ポシェットに手を突っ込んだら一番初めに丸くてひんやりとしたものに手が触れた。
「ん?」
取り出してみる。
「レモンでしゅ……」
そういえば、バナナが食べたいと言って、黄色い実だよって説明したら、黄色いレモンとってきてくれたんだっけ……。
確かに、なんかレモンのクエン酸だかなんだかが、疲労回復にどうのとか。
なるほど、願い通りのものが出てきましたよ。
って、違う、そういうビタミンBが疲労回復にいいからって豚肉出てきても困るでしょ!それと一緒で……さぁ。
やれやれ。
まるで分かってないねと上から目線でレモンに視線を向けたら、ポロンとレモンが手から逃げ出した。
ぐ、わ、落ちるっ!
手を伸ばしたけどだめだった。
ううう、仕方ないよ。4歳児の手は小さいんだからっ!レモンは大人の手なら簡単に握れるけど、この小さな手じゃ落としちゃうよ。
って、うわー、レモン、ロッドさんの真上に!たかがレモンといえども、こんな高い位置から落ちたらかなりの衝撃が……!
と、思ったら、ロッドさんは危険を感じたのかぱっと上を見てスパーンとレモンを真っ二つに切り裂いた。
ロッドさんを避けるようにして落ちたレモンは、すぐに足元に落下し、ぐしゃりと踏みつけられた。
「ばにゃにゃでにゃくてよかった」
心底ほっとする。
あれが、もしバナナなら、踏みつけたとたんにすっころんで大変なことになっていたかもしれない。
いや、バナナだったら、すぐに食べてポシェットには入れなかったか。
そういえば、バナナも疲労回復効果があるんだっけ?危ない危ない。バナナをポロンと落としていたら大惨事……って、あれ?
ロッドさんの周りに、あれほど集まっていた鎧アーントが少し距離を取っている。
いや、違う、レモンが踏みつぶされた場所を避けている。
「しょうだ、くえんしゃん!」
レモンのクエン酸は蟻除け効果があるって何かで見た。
蟻が嫌がる匂いなんだとか。レモンを水で薄めてスプレーしておくと蟻が来なくなるとか、蟻の巣にレモンとか……。
ピンピコピーン!
「ひらめいたでちゅ!」
タッタターン、レモンー!
四次元なポシェットから脳内擬音を付けて取り出す。
「ロッドにーたん、レモンのちるを体にかけるでちゅ」
それだけの言葉で、ロッドさんは理解してくれたようだ。
それはそうだろう。地面でつむれたレモンから鎧アーントは距離を取っているのだ。この変化に気が付かないわけがない。
レモンの実を持った手をぶんぶんと振り回してアピールする。
「助かる!」
こちらを向いたので、すぐにレモンをロッドさんに向けて放り投げた。いや、落とした。
ロッドさんは大地を蹴り、そして、迫りくる鎧アーントの頭を踏みつけてさらに飛び上がって、落下途中のレモンを華麗にキャッチ。
すごい身体能力だなぁ……!もしかして身体強化(攻)スキルもちなのかな?
ロッドさんはキャッチしたレモンをすぐに握りつぶして体にレモン汁を振りかけた。
すごい。その間1秒にも満たない早業。
それから着地するとすぐに女王鎧アーントに剣を向けた。
今までそれを邪魔するように鎧アーントがわらわらと近づいてきていたというのに、それがない。
ロッドさんを避けるように鎧アーントが道を作る。
うおお、レモン汁、効果ありすぎだろう!
いや、希釈しないレモン汁だから効果が強いのかな?
「ロッドにーたん、がんばえー!」
あと、私にできることは応援しかない。