4
はいはい、回想終わり。半生の振り返り、あっという間だな。
ぐぅとお腹が鳴る。
運が悪かった……。
スキルの確認が終わったら、4歳の誕生日パーティーでごちそうが待っていたというのに。ごちそう食べ損ねた……。
目の前……じゃない、これは目下というのか、広がるのは、大自然パノラマ。
まだ、上空のミチェです。どれくらい移動してるんだろう……。
運が悪かったのは他にもある。
私が身体強化(受)があったこと。
屋敷周辺に現れる獣や魔物程度じゃ私を傷つけることはできないということで油断されてたんだろう。ちょっと勝手に外に出ても大丈夫と。
まさか体ごと持っていかれるとは……ね?普段空飛ぶ魔物なんていないのに。
あー、眠くなってきた。寝よう。
とりあえず起きたら何とかなってるかもしれない。
お父様が助けに来てくれるよ。きっと……。
と、思っていたミチェです。
おはようございます。
……頭、かじられてるんですけど……。
えーっとですね、ここはどうやら、高い山の険しい崖のちょっとしたでっぱりに作られた、でっかい鷹の魔物の巣みたいです。
でっかい鷲の魔物……親?の姿はなくて、ヒナかな?まだ羽毛が生えそろってもいないようなのが1羽。ヒナなんだろうけど、サイズ的には人間の大人より大きい。
ガバリとくちばしを広げて、私の頭をがりがりかじってます。
多分食べようとしてるんだろうけど、身体強化(受)……の頑丈さが功を奏して痛くもかゆくもない。若干くすぐったいのと髪の毛がぐちゃぐちゃになるのでやめてほしい。
が、逆らっても非力な私が何かできるわけでもないだろうから、気が済むまでかじらせるとします。
それよりも……お腹がすきました。
何か食べるものないかな……。
ふと、横を見ると、私をかじっているヒナの姿が目にはいった。
鶏肉……ここに、鶏肉がある……。
かじってみるか?私の方からもかじってみるべきか?
ギラリと目を光らせると、何かを感じ取ったのかヒナが私から距離を取った。
失礼な。さすがに生きたままかじるなんてしないよっ!
「あ……!」
ヒナがどいた場所に、卵の殻が落ちてる!
鶏の卵の殻などとは比較にならないほど、でかい。分厚い。
かけらの一つを手に取ると、厚みにして2センチ以上はある。手のひらサイズなのにずっしり重い。
「これ、本当に卵の殻?」
こんこんと殻と殻を打ち合わせる。
硬い……これだけ硬ければ、この鋭くとがった三角の部分を……。
鋭い先の卵の殻を振り上げた。
「ふんすっ」
振り下ろすと、ひらりとヒナはよけて、私の頭をかじる。
むぎぎぎっ!
いいさ、好きなだけ私の頭をかじるがいい。ミチェは頑丈だから傷つけられないよ。
「あ!鞄だっ!」
卵の殻の下にポシェットが落ちていた。大人の体型だとポシェットだけど、私にとっては斜めかけの鞄だ。
かけてみる。
ひもが長すぎて、地面についちゃった……。
「……うん……、幼女用じゃないかりゃね、そうにゃる、ちってた。ミチェちってたから」
誰に言い訳するわけでもなく、スカートをポンポンとして整えてから座る。ヒナは馬鹿の一つ覚えのように私をかじってる。
「ここを、こうちましゅ」
鞄の紐を縛って短くした。多分これで大丈夫。
……て、大丈夫じゃない、勝手に自分のものにしようとしちゃだめじゃないかっ!
「えーっと、この鞄を落とちた人はいまちぇんかぁ~?」
と、尋ねてみる。
返事はない。
標高8000m級の岩山の切り立った崖の高い位置の大きな鷹のような魔物の巣に、鞄を落とした人いる?
「いねーよな!」
いるわけない……。
でも、ここに鞄はある……。
一瞬にして青ざめる。
どう考えても、あたちと同じように鷲掴みされた人の持ち物っ!
「う、うわーん、食べられちゃったんだー、うわーん」
思いっきり泣いた。4歳児は涙が我慢できない。
そして、泣きつかれて寝た。4歳児はよく寝る。