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いつの間にか、小屋の前には私を取り囲むように、前にルーナちゃん、左右に角兎と羽猫がいた。
カチカチカチという音は相変わらず聞こえてくるけれど、遠くから聞こえてくる状態に変化はない。
たぶん、鎧蟻が口を鳴らしているんだと思うんだけど……。音が収まるまでここで守られてないとだめなのかな?
ちょっと移動しようすると、すぐにルーナちゃんがくわえて元の位置にもどすんだけど。
「ミチェはルーナが守る」
……退屈。
「あ、ちょうだ!」
むふふ。ポシェットの中から、さっき拾った折れた短剣の先を取り出す。
普通なら、刃を持てば手を切ってしまうので、よい子は真似しちゃいけないのだ。
でも、ミチェは頑丈だから大丈夫!
でっかい鷲の魔物の卵の殻も取り出す。
「みじゅがほちいでしゅ」
前はルーナちゃんが持ってきてくれたけど、今回は守ることが優先らしく動いてくれない。
んー。
「ちょうだ!スキルに水魔法(生)があっちゃ」
(生)がよくわからないけど、水魔法なのだから、水が出せるんだよね?
生水が出るのか?分からないけど、磨研スキルは心の中で唱えたらできた。
水魔法(生)もいけるんじゃない?
「なまみじゅよ、でりょ!」
なんとなく、両手を上にあげて言ってみた。
「うぉーたーぼーゆ!」
漫画でよく使われる水球的なものを出す呪文を唱えてみた。
……。
どうちよう。「わが手に集まりし魔力のかけらよ、生命の源である水を形どり、この手から放たれよ、ウォーターボール」みたいなこっぱづかしい呪文を詠唱しないと使えないんだったら……。
あ、でも、ロッドさんは「風刃」で使ってた。
……でも、あれ、長い呪文で使えるようになってから短縮呪文になった可能性も……。
弱気になっちゃだめ!使える。
魔法はイメージ、
水、水、うーんと、体から出る……おねちょはもうミチェしないもんっ。違うもんっ、ミチェ、もうおねちょちな……。
「うう、トラウマが、ちげきちゃれまちた……」
あぶない。両手をついてがっくりとうなだれると、ぺろりとほっぺをなめられた。
「にゃ」
ざらりとした舌の感触。
羽猫が、私を慰めるようにぺろりとほっぺを……。くぅー、かわいい。
抱きしめようと手を伸ばすと、すいっとよけられた。
ツンデレかっ!と、思ったら、羽猫は水の入ったバケツを私の方に押し出した。
なんと!
「みじゅっ!あいがと!」
水を運んでくれたんだ!
ぎゅっと抱きしめたかったんだけど、すいっと私の手をよけて、定位置にもどった。
私を三角形で取り囲む守りの陣形。
……。もふもふはお預け。ちぇ。いいんだ。ミチェ、水があるんだから、さっきの折れた短剣の先を磨く……じゃない、剣なんだから、研ぐんだ!
人生初の、研ぎだよ!
砥石のような形になっている平らな卵の殻を選んで奥。水で湿らせる。
それから、刃を卵の殻……砥石卵(命名)に置いて、いざ。
磨研スキル発動!
しゅっ。
おおお、いい感じ、砥石卵、いい感じではないですか!
えへへ……ご覧いただきありがとうございます。