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「ミチェ!抱っこしてあげる!」
なぜか、私、10歳くらいの少女に抱っこされてました。
あれ?誰?どっから出てきたの?
白い肌に、白い肩までの髪。綿毛みたいにふわふわしてる。
瞳の色は金色で、整った顔立ちをしている少女だ。
「うわー、すごぉい。抱っこするとこんな感じなんだ!」
むぎゅーっと力いっぱい絞められていく。
ちょ、圧死だよ、普通の人間軽く圧死。これは抱っこじゃなくて、羽交い絞め!
痛くないけど、ギブ、ギブっ!
ミチェは頑丈だからいいけど、何なの、無邪気を装った殺人鬼なの?怖っ!少女殺人鬼なんて、中二病くすぐるじゃんっ。
「ルーナ、だめだ、手を放せ!殺す気か!」
真っ青になったロッドさんが私をルーナちゃんの手から取り返した。
「おい、ミチェ大丈夫か?死んでないか?」
「ちんでにゃい」
ほっとした顔をして、ロッドさんが私を優しく抱きしめる。
「よかった……内臓飛び出してぐしゃっとつぶれるかと思った……」
あ、うん。なんか、たぶん、私じゃなかったらそうなってたかも……。
「そんな……ちょっと抱っこしただけで、絞め殺そうなんてしてないよ……」
しゅんっと落ち込む白い少女。
「おい、ルーナ、これを同じように抱きしめてみろ」
ルーナ?
ロッドさん、白い少女をルーナって呼んだ?
ロッドさんが、床板に使った木の板の余ったものを白い少女に手渡す。
1mほどの長さの30センチ幅3センチ厚の木の板だ。床が抜けないようにそれなりの固さはある。
メキッ、バキッ。
少女は可憐な姿には似つかわしくない怪力を発揮し、板を秒で粉砕した。
「人間は、板の何倍も弱い。子供ともなればさらに弱い。例外を除いて」
あ、あたしがその例外だよー。身体強化(受)スキルレベル8の頑丈幼女だ!
「踏みつけただけで死ぬ」
え?さすがにそんなに弱くはないのでは?
「えええーっ!」
ぼふんと音がして、白い少女がルーナちゃん……サーベルフェンリルの姿になる。
「ええ!ルーナねーね?」
落ち着け。
ここは剣と魔法の世界。魔物もいる。人に姿を変えられる種族だっているに違いない。
それがルーナちゃん……サーベルフェンリルなんだろう。
しゃべれるだし、変身できても不思議じゃない。
すごーい!
「そうだ。まずはお祝いだな。ルーナ、おめでとう」
そういえばロッドさんは突然現れた白い少女に驚きもせず対応していた。ルーナと初めから呼んでいたし、サーベルフェンリルが人間に変身できるっていうのは一般常識?それとも一般人は知らなくとも、魔物の知識が豊富な冒険者の間では有名?
……って、テイマーは冒険者の中でも魔物と仲良しだからなのかな?
「へへへー」
ロッドさんが、ルーナちゃんの首筋を撫でた。
「ルーナレベル100になったから変身できるようになった!」
レベル、100?
レベルが、三桁?
わなわなと震える私。
幼女なのにレベル3ってすごくない?とか思ってたけど、勘違いもはなはだしかった?