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蟻って、顎の力が強くて体重の300倍もの重たいものを持ち上げられるとかっていうよね。
ルーナちゃんが危ない!
と思った瞬間、ロッドさんがものすごいスピードで鎧アーントの額を解体用のナイフを突き刺していた。
「くっ!やはりこれでは無理かっ!」
と、思っていたら、ナイフの刃はパキンと折れて太陽の日を浴びてきらりと光りながら地面に落ちた。
ああ、ナイフという名の短剣さんが……って、そうじゃない。ロッドさんは大丈夫なの?
ロッドさんは、無理かと言いはしたもののまるきり焦ってはいないようで、着地するとすぐに鎧アーントの胴体を蹴り上げた。
柵の外まで吹っ飛んでいく鎧アーント。
それから、いつも使ってるであろう剣を手に取ると、ダッシュで吹っ飛ばした鎧アーントまで距離を詰める。
その間、私はといえば……。
折れたナイフの先に近づき、こっそりポシェットの中に入れた。
ほ、ほら、そのまま地面に置いておくとうっかり踏むと危ないからね?ちゃんとロッドさんがどこ行ったかなって探したら渡すよ?拾っておきましたよと。
自分の物にしようとか思ってないよ?
もちろん、いらないならもらうけど。
ロッドさんが、右手に剣、左手に鎧アーントの触角を持って戻ってきた。触角を持って、でっかい鎧アーントを引きずっている。
力持ちだな……。
「おい、ルーナ、この穴ぼこお前の牙のあとだよな?」
首と胴体の繋がっているあたりに、穴が開いていて、緑色の液体で汚れていた。
へー、血が緑なんだ。
「うん、ルーナ首と銅の繋がってる関節狙ったの。でも外しちゃった」
「普通なら牙が折れてるとこだぞ?無理するな。たまたま脱皮直後かなにかで助かっただけだからな」
ルーナがしょぼんと頭を垂れた。
そして、突然泣き出す私。
「うわーん……やだよ」
思わず感情が抑えられずに泣いちゃったよ。
「ルーナねーねの、牙、折れちゃうのやー」
サーベルウルフのサーベルが折れたら……ルーナちゃんからサーベル……剣がなくなったらと考えたら……。
剣を奪われる悲しみは人一倍知っている。
「うわーん、うわーん」
「ほら、ミチェも心配してる。”お姉さん”として無謀なことはしてはだめだと教えるのもルーナの役目だぞ?」
ルーナちゃんがしょぼんとなった。
「でも、牙は折れても、また生えてくるし……」
何?
何だと?
「ルーナねーねの牙、折れても生えてくる?」
泣き止むと、ルーナちゃんが途端に元気になったみたいでしっぽを揺らした。
「折れた牙、ちょうだい、ミチェほしい!」
サーベルウルフの折れた牙、それはもはやサーベル。剣じゃないか!
「いいよー!ミチェにあげるよ!」
ゴチンとルーナの頭にこぶしが落ちた。
「こら、ルーナ!折れたらじゃない、折れないように慎重に行動しろって言ってるんだ!」
そうだった。折れることを楽しみにしちゃだめだ。
後ろめたい気持ちで視線を外した。
少しだけ、また生えてくるならいいじゃんとか思っちゃったり。
「また生えるといっても何日かかかるだろう。その間無防備で過ごすつもりか!」
ああ、そうだよね。生え変わるのに時間がいるよね。その間剣がないのは、丸腰で敵と対峙するようなものなんだ。そりゃ危険。
ロッドさんが怒るわけだ。私も、反省……。ううう。
でも、サーベル……折れた牙が生えてくるのってサメみたいだけど、サメと違って牙は長いから鹿の角みたいなもの?
鹿の角は毎年生え変わるんだよね。でも牛の角は生え変わらない。ユニコーンはどっちだろうね?というか、ユニコーンはいるのかな?角兎がいるくらいだから、角の生えた馬もいそうだよね?
と、いろいろなことを考えている間に、突然持ち上げられた。