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ごしごしごし。
1度ふいた場所を、もう一度拭く。
まだ、綺麗にならない。……そうか、これは汚れを落としてるだけで、磨きの作業じゃない判定なのね。たぶん。鍋も3度目磨いたところで入ったよね?
と、言うわけでここからが本番!うなれ、私の右腕!
ごしごし。
まぁ、何ということでしょう。
木の床が、磨いたところだけまるでワックスをかけたかのようにつやつやと輝いています。
すごいな、私の磨研スキル。だって、築100年くらいの建物の階段の手すりみたいになったよ、床が。
分かる?伝わる?人の手で何度も何度もこすられてつるつるのてかてかのあの感じ。
パフン≪経験値4取得≫
「うわーん、綺麗にならにゃーい」
しみこんだ血はそのまま染みになっていて、落ちない。経験値が入ったってことは、これが完成形なのだろう。
新品のように綺麗になると思ったのに、つやつやにはなったけど、染みが、染みがぁ……消えないっ。
敗北感に悔しくなって思わず泣きだした。
4歳、悔しくてもすぐ泣くのかと。新しい発見。
泣きだすとすぐにロッドさんが駆け寄ってきた。
「どうした、ミチェ」
「綺麗に、にゃらない」
ロッドさんが床を見た。
「すごいな、綺麗になってるじゃないか。ぴかぴかだ。すごいぞ、ミチェ!」
「にゃい」
ロッドさんが首を傾げた。
「落ちてにゃい、綺麗じゃにゃいよ、わーん」
ぶんぶんと子供の用に我儘を言う。いや、子供だけど。見た目は4歳。精神も4歳。知識だけが大人。
殺人現場みたいに私の体のあとが、落ちない血で形作られている。ぽたぽたと滴った血痕も残っていて……。この形に合わせて寝転べばいつでも死体ごっこができるね!
って、やらないわ!何その物騒な遊び!そのたびにきっとロッドさんは「死んでる!」と飛び上がるに違いない。
あれ?それはそれでちょっと面白そう?
と、悪いことを考えたら涙が止まった。
ロッドさんが私を抱っこした。
「そうか、そのままでもいいかと思ったが、怖いよな?んー」
ロッドさんが私を片手で抱っこしたまま小屋を出た。
小屋の右側は解体場所なのか、魔物が積まれていた。ひーふーみーよー……なんか、いっぱい。
「ロッドさんはそれに目もくれずに、すたすたと森の方へと近づいていく。
小屋の周り、小学校の運動場くらいは開けていて、その周りに丸太で作られた柵が設置されている。その外側が森だ。
四方八方森。
ロッドさんの家、ぽつんと一軒家だった……。
と、家の周りの様子を興味深く見ているとロッドさんが森に向かって魔法を発動した。
「【風刃】」
倒れる大木。お、おお、ワイバーンハムを切るだけの魔法じゃなかった。木も切り倒してる。
ロッドさんは、倒れた木を片手で持ち上げると……って説明してる私もおかしいと思うよ。私を抱っこしながらもう片方の手でひょいっと大木を持ち上げてるんだよ。麺棒じゃないんだから!
柵のところにまで持ってくると、柵に使ってある丸太を1本引き抜いてぽいっと家の方に投げて、切ったばかりの木を抜いた穴に差し込んだ。
……あー、うん。身体強化(攻)を持ってるんだろうな、そうすると、戦うこと以外にもいろいろ使えちゃうってことだ。うん。
遠い目をしていると、ロッドさんが私を家の前に降ろした。