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「んーと、どこにあったかな」
ロッドさんが棚をがさがさとひっかきまわし、スプーンを取り出した。
黒ずんだ色をした金属のスプーンだ。
その黒ずみ方は、銀のスプーンなのでは?あったんだ、銀のスプーン。
「磨く」
手を伸ばすと、ロッドさんが苦笑いする。
「ああ、後で頼むな。今は、ほら、野菜も食べろ、これなら小さい子でも食べられるっていう話だ」
スプーンでアボカドもどきをすくって口に運ばれる。
ぱくん。もぐもぐ。
トロっとして、青臭さの少ないよいアボカドのお味。
でも、あっさりすすぎて味にインパクトがない。醤油が欲しいところだ。ほら、アボカドのお寿司のイメージ。でもないもんねぇ。
「おちお」
「ん?降りるのか?」
「違う、おちお」
「落ちそう?」
「違う、おちお、ちお!ちろくてぱっぱってしゅる、おちお!」
「ああ、塩か」
……すぐに……通じるのに。
うまく発音できなくても、お父様もお母様もお兄様も……侍女も、すぐに「塩」だって分かってくれるのに……。
「うわーん、お家に帰る、お家~」
家族のことを思い出したら、途端に泣けてくる。
「ああ、そうだ、ミチェ、大丈夫だ、大丈夫」
ロッドさんが揺らしながら私の背中をポンポンとしてくれた。
なかなかに、子供の扱い上手だよね?
「ギルドに行くと言っていただろう?」
ポンポンされているうちに少し落ち着いてきた。
それを見計らって、ロッドさんが塩を少し振りかけたアボカドをスプーンですくって私の口に運ぶ。
ぱくり。もぐもぐ。
「ミチェの捜索の依頼が出ていないか確認したんだが、出ていなかった」
それ、家族が探してないってこと?
ちょっと悲しそうな顔になってしまったのか、ロッドさんが慰めるように続けた。
「大体は自分たちで探し始める。そのあと警らなど行方不明者として届けたら捜索が始まる。警らの捜索は長くて1週間ほどだろう。ギルドに捜索の依頼が出るのはその後というのが普通だ」
普通というけれど、大人だからロッドさんが少しつらそうな表情をしたのはすぐにわかった。
警らの捜索の長くて1週間も、短ければ探してもくれないのだろう。身分制度があり貧富の差が大きな世界だというのはなんとなく知ってる。ギルドに依頼を出すにもお金がかかる……。
「それから、ギルドへ依頼するにもまずは地元のみというのが普通だろう。それから、少しずつ地域を広げる」
そりゃそうか。
っていうか、だめじゃん。私、相当遠くに運ばれてきたよ?少しずつ広げたくらいじゃいつまでも見つけてもらえない。
「ミチェのお家、遠い」
ロッドさんが私の口に、今度はちぎったパンを近づけた。
ぱくん。もぐもぐ。
あ、これ、甘い。はちみつがつけてある!
ワイバーンハムといい、アボカドもどきといい、はちみつといい、かなりお金がかかった品だよね。
え?大丈夫なの?ロッドさん……。見ず知らずの幼女のためにそんなに散財して……。
黒ずんだ銀のスプーンを戸棚の奥から取り出すような生活は裕福ではないよね?
いや、銀のスプーンがあるだけ、多少はお金があるのかな?でも、高級品をぽんぽん買えるほどじゃないよね?
「とりあえず、ギルドに逆に依頼をかけといたよ。ギルドに金髪で紫の瞳の3歳くらいのミチェという子供を探している人の情報が入ったら教えてほしいと。国中のギルドに明日には伝わるはずだから、情報が入ったら家に帰れるぞ、少し時間がかかるだろうから、それまでもう少し我慢してくれ」
国中のギルドに情報提供の依頼?それも、お金がかかるのでは?
……おうちに帰ったら、お父様にロッドさんにたくさんお礼してと頼もう。
うん。使用人がいたので、それなりにお金持ちだよね?少なくともロッドさんよりは……。
それに、私もできるだけ恩返ししよう。
私にできる恩返し……。
恩返しといえば、機織り。鶴じゃないからできないわ!いや、鶴だったとしても機織りできる自信はない。
鶴やヒラメの舞い踊りを見せる?
いや、鶴じゃないって、そこは鯛やヒラメの舞い踊り。カメを助けたお礼のあれだけど……。踊りを見せられて嬉しいかな?
私にできることといえば……。
えーっと……。
うーん……と……な……に……、……。
「ん?寝たな。お腹がいっぱいになって眠くなったのか」
むにゃむにゃすやぁー。