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「いやー、新品みたいにぴかぴかだな、すごいな、ミチェ。これだけ働けばお腹もすくよな。待ってろ、すぐに用意するからな」
と、ロッドさんはウエストポーチからいろいろな食材を取り出した。
私を抱っこしたまま、器用に皿に盛り付けていく。
ウエストポーチ……どうやら収納鞄みたいだ。割と一般的なのかなぁ?
家の中では家族も使用人も使ってなかったから全然分からない。
それからまな板の上にでっかいハムの塊を載せた。
おお、これは、切らないと食べられないやつ!
ってことは、包丁の……刃物の出番!
包丁といえども、この世界って包丁とナイフとの境目があいまいだし、ナイフと短剣の境目もあいまい。
ってことは、包丁は剣!包丁サイズの剣なら、私でも持てるはず!そして、磨く!いや、研ぐ!
「【風刃】」
ロッドさんは、軽く手を動かして、ハムを切った。
手刀みたいな動きだけど手はハムを触ってないし、呪文も唱えていたから……。
「魔法?」
「ん?ああ、そうだ。見たことないか?今のは風属性の魔法で、風の刃を出して物を切るんだよ」
……なんですと……!
ロッドさんがニコニコしながら説明してくれる。
ちょっとどや顔までしている。
「普通は攻撃魔法……魔物を倒すのに使うんだが、こうして包丁代わりの生活魔法みたいに使うと便利だぞ」
「便利、違う……」
包丁、包丁が見たかったのに!
涙がにじむ。
「そうだな、威力を間違えてうっかりまな板まで切っちまったり、使いすぎて魔力を消費しすぎたり、便利なばかりじゃないな」
ポンポンと頭を撫でられる。
そんなことで私がこの、行き場のない怒りにも似た悲しみを押えられるとでも?
包丁、包丁を使いなさいよっ!まさか包丁がないとか言わないよね?
本格的に泣きそうになってきた。4歳児、泣くのを我慢するのは苦手なのだ。
「う、わーんっ……%*$V'」
「待ちきれなかったか」
むぐぐぐ、口にハムを突っ込まれた。
こんなことで騙され……もぐもぐ。
「おいちー」
ロッドさんが笑っている。
「そうか、美味しいか。ワイバーンハムの味がわかるのか」
ワ、ワイバーンハム?
それって、なんか、ちぃにいの大好物だけど、たまにしか市場に出ないうえに高級品だから年に数回しか食べられない、あの、ワイバーンハム?
ロッドさんがニコニコして、私の口元に風刃で薄くスライスしたワイバーンハムを持ってくる。
ぱくり、もぐもぐ。
差し出されたら食いつく。幼女の習性。だって、ちょっと前まで食べさせてもらってた幼女だもの。
あ、知識は大人でも、体の動きはこの間まで赤ちゃん。今も4歳とはいえ数えなので日本的には3歳。しかもなりたてほやほや3歳。スプーンぐーでしか握れないような年齢だよ?動かないんだよ、手が。驚くほどさ。うまく歩けないし、すぐ転ぶし、脳みそ大人でも感情も体も思うようにコントロールできないの。
「おっと、野菜も食べさせないとダメだって、店の人に言われたんだった」
「やちゃい嫌い!」
反射的に拒否った。
「あはは、そうか、野菜は嫌いか」
笑いながら、ロッドさんはウエストポーチからメロンくらいの大きさの深緑色の野菜を取り出した。
野菜?
大きさ的にはメロン、色の濃さは緑のほうのかぼちゃ。艶感はレモン方面……。
ああ、リンゴとかも磨いたりするか?その謎の野菜も磨いたら経験値が得られる?
なんて考えている間に、スパーンとロッドさんが謎野菜を真っ二つに切った。
「あ……」
大きさこそでかいけど、この見た目……。
アボガド……って言うと警察に怒られる、アボカドだ。
でっかいアボカド。




