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ロッドさんが、頭を押さえている。
「あのね、赤ちゃんがお腹空いたみたいだから、食べるもの取ってきたの!うんと、食べやすいようにお肉が柔らかい甲羅ベアーをとってきたんだよ!」
ルーナちゃんの言葉を聞いて、ロッドさんが首を小さく横に振った。
「あのな、ルーナ。まずは、赤ちゃんじゃない。ミチェは子供……えーっと、ルーナと同じぐらいだ」
「「え?」」
私とルーナちゃんの声が重なった。
「ルーナは赤ちゃんじゃないよっ!」
「そうだ、だからミチェは赤ちゃんじゃない。子供だ」
ロッドさんの言葉に、首をかしげる。10歳くらいだと思ってたら、ルーナちゃんは私と同じサーベルフェンリルの幼女なの?
「ルーナねーね、ミチェと同じ?」
ロッドさんがんーと考えた。
「ちょっと、ルーナの方がお姉さんかな?……といっても、サーベルフェンリルは人間と年の取り方が違うからなぁ……」
そうだね。犬や猫も1年で大人になるし。ハムスターなんてもっと早いんだっけ?
「それから、人間は料理しないと食べられない。こんな大きな獲物は食べきれない。あと、怖くて倒れてるだろう!ミチェを怖がらせるなら、もう出入り禁止だ!」
ロッドさんがルーナちゃんを叱っている。
「違うでちゅ、怖くない、ミチェは怖くて倒れたんじゃないよ」
誤解を解こうと立ち上がったら、くらっと貧血みたいに頭がふらついた。
「大丈夫かミチェ!」
ロッドさんがとっさに私を支えて、それから抱っこしてくれた。
「おにゃか……しゅいて……力がでにゃいよ……」
ロッドさんがハッとした。
「すまん……何か食べるもの用意して出かければよかったな……」
ちょっと落ち込み、それから、ルーナちゃんに顔を向けた。
「ルーナ、悪い、強く言い過ぎた。お前はミチェに食べさせてやろうとしたんだな……。甲羅ベアは甲羅のようにかたい皮膚で急所を守っているから倒すの大変だっただろう」
ロッドさんが角兎の角に刺さった大きな鼠を抜き取った。
「弾力があって剣が刺さりにくいのに、お前もよく丸鼠を一突きにできたな」
それからロッドさんは羽猫にも視線を向けた。
「かみつき攻撃なし、引っ掻きだけで倒したのか……なんというか……ミチェのためにいつも以上に力が出たっていう感じか?」
ルーナちゃんが尻尾を振り振りとしている。
「ルーナもね、牙で喉をついてすぐに倒せたよ!なんだかいつもよりルーナ強かったよ!」
ロッドさんの周りをくるくると回りながらルーナちゃんがどや顔を見せている。
「火事場の馬鹿力……いや、母性本能?子供を守ろうとするといつも以上に力が出たってことか?」
ぐぅとお腹が鳴った。
「っと、悪い、ミチェは倒れるくらいお腹が空いてたんだったな!」
ロッドさんは私を抱っこしたまま、台所に行こうと体の向きを変えた。
「うわっ、なんだ、このぴかぴかした物体!」
伏せた鍋を見て驚いている。
「って、鍋か……?どうしてこんなにぴかぴか……ルーナ、どっかからまた拾ってきたんじゃないだろうな?」
そういえば、私もルーナに拾われたし、拾ってくるなと言われてたけど、ルーナは拾い癖があるのかな……。
「違うよ、赤ちゃん…ミチェが綺麗にしたの」
ロッドさんが私の顔を見た。目が真ん丸。
「ミチェが磨いちゃ」
どや顔をすると、ロッドさんは鍋をひょいっと拾い上げた。
片手に私を抱っこ、もう片手に重たい鍋を軽々と持つなんて……。もしかしたらロッドさんも身体強化(攻)スキル持ちなのかもしれない。
そのまますたすたと歩いて、かまどに鍋を戻した。




