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「ミチェ、にーにみたいに、力持ちになる?」
身体強化スキルといえば、足を強化すれば早く走れたり高くジャンプできたりとか、腕を強化すれば岩を砕けたりとか、目を強化すれば遠くまで見えるとかなんかそういう?
お兄様たちが力持ちなのは身体強化してるからなら納得!
「うちの血を引く者は、だいたい身体強化スキルを持ってるんだけどね、2種類あるんだよ」
こくこくと頷きながらまじめに話を聞く。
「身体強化(攻)と、身体強化(受)なんだけど」
へ?攻めと受け……なんだか、とってもかぐわしい単語が出てきたよ?
あたち、変な世界に転生してないよね?すんっと表情を失っていると、ちぃにいが、続けてくれた。
ちぃにいは、小さいお兄ちゃんのことね。上の兄は、ちぃにいもお兄様って呼ぶから、お兄様。
……4歳児のお口では「にーに」としか発音できないけどねっ!いいもん。ミチェまだ3歳だもんっ。
「身体強化(攻)は、攻撃に特化した能力だよ。僕たちはそのスキルを持っているから、人よりも力が強かったり足が速かったりするんだ」
「そうそう、でもきっとミチェは身体強化(受)の方だよねって皆で話をしてたんだよ」
……攻……って、攻撃の攻だったのか……。汚れた心を反省するです。
「身体強化(受)は、受け身に特化した能力なんだよ。体がとても硬くて頑丈になるんだ」
ちぃにいがくすくすと笑いだした。
「ミチェ、よく転ぶけど怪我しないだろう?頭をぶつけてもたんこぶもできない」
な、何と!
そういえば、転んでも頭をぶつけても剣に押しつぶされても、痛いと思ったことがなかったけど……これ、幼女だからじゃなかったのか!
幼女のお肉クッションのおかげじゃなかったのか!
「だから、きっと身体強化(受)だよ。で、剣は重たくてミチェには持てないよ」
何ですって?
「んー、普通の剣なら持てるだろうけど、ミスリルになれば鉄の倍の重さだし、アダマンタイトになるとさらに重たくなる」
ふ、ふおおおおおおっ!
おおおおおおおおお!
ミスリル、あるんだぁぁ!
アダマンタイトも、あるんだぁぁぁ!
そんな未知なる金属で作られた剣がぁ、この世界には……!
ど、どうしよう。どんな輝き方をしてるのかな?気になって夜も眠れない……いや、幼女だから1日まだ12時間くらいは寝てるけど。
「そうだよ、ミチェの上に載ってた剣は、僕よりも重たいんだ……」
え?私が抱きしめてたあの剣、そんなに重たかったの?……お兄様、もう30キロくらいあるのでは?
「よかったね、ミチェ。身体強化(受)があったから無事だったんだよ」
そうか。よかった。無事で……。
って、よくないよ!重たい剣を持てる力が欲しいよっ!
「いやだよぉ、ミチェも身体きょーか、力が強くなるのがいいよ、にーにといっちょがいいー、うわぁーん」
泣いちゃった。
泣いちゃうよ。
だって、普通に生きてたら、30キロの剣を持ち上げて振り回すなんて力が身につくわけないもん。筋トレしても女の身じゃ限界があるじゃんっ。
身体強化(攻)で力を補わないと……。
剣士になるわけじゃなきゃ振り回す必要はないかもしれないけど……。でも……。でも……。
「あーん、あーん……」
鍛冶師になれないよー。ハンマーも重たいだろうとは思ってたけど、それよりも剣にするための金属がそんなに重たいなんて。
炉に突っ込んだり引っこ抜いたりができないよ……鍛冶師になれない……。
わずか3歳にして将来の夢を失った……。
せっかく転生したのに。
せっかく、剣と魔法の世界に転生、したのにぃぃぃぃっ!
ベッドの上でじたばたと手足を動かして癇癪になりそうな感情を逃がしているうちに寝てしまった。
落ち込むこと、10日。
「ミチェ、ほら、お父様には内緒だぞ?」
と、ちぃにいが稽古で使っている剣を持ってきて見せてくれた。
「ミチェ、お父様に秘密だよ?」
と、次の日にはお兄様が壁にかかっていた剣を持ってきて見せてくれた。
「ミチェ、お母様には内緒だぞ?」
と、次の日にはお父様が宝物庫に連れて行ってくれた。
「ミチェ、いつまでくよくよしてるの!明日はスキルチェックの日よ!ほら、見てごらんなさい」
お母様が、まだ文字も読めない私の前に本を広げた。
私は異世界転生組がよくやる、本を読むために文字を覚えるとかやってないよ。
だって、魔法使いたいわけじゃないし。剣があれば幸せなんだもん。鍛冶師になって、剣に囲まれた生活が目標で……。
だめ、また泣きそう。
「鑑定スキルがあれば、王室鑑定師の道もあるわよ?国宝になるような剣が持ち込まれ鑑定する仕事」
「ミ、ミチェ、鑑定スキルほしいっ!」
「それから、回復魔法が使えれば、王室回復師になるのもいいわね。近衛騎士たちの訓練所での仕事もあるわね」
「ミチェ、回復魔法ちゅかいたい!」
「そうだわ、予見スキルなんてあれば、王妃として望まれるかもしれないわね。国宝見放題だわ」
「ミチェ、予見スキルほしいっ!」
ん?まてまて。王妃にはならないよっ!お母様何気におそろしいことぶっこんでくるね?