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パフンッと相変わらずちょっと気が抜ける音。
≪経験値4取得≫
うむ、大きなものを磨いても経験値たくさんもらえるわけじゃないのね……。ちょっぴりがっかり。
でも、逆に言えば、小さなものを磨いても同じ経験値ならば、小さなものをたくさん磨けばいいんだよね。
それこそ銀のスプーンとか。
……どこかのお屋敷で銀のスプーンを磨かせてもらおうかな?
卵の殻をポシェットに入れて立ち上がる。
鍋を持とうと思って、自分の力じゃ持てないことを思い出す。
「軽くなればいいにょに」
と、鍋に手を置いてつぶやくと、ふっと体から何かが抜けた感じがする。
「ふにゃ……」
こりぇは……。
足に力が入らなくなって、ぺたりと座り込む。
貧血に似た感じだ。
ぐぅーと、お腹が鳴った。
んん?もしかして、夢中でいろいろ磨いて体力を使った上に、ご飯の時間も忘れてて、疲労と空腹で力が抜けた?
「おにゃか、空いた……」
と、私のつぶやきを聞いてルーナちゃんが小さく飛び跳ねた。
「大変!ルーナはお姉ちゃんだから、ご飯用意してあげないといけないの!待ってて赤ちゃん!すぐに食べるもの狩ってくる!」
え?今から、買いに行くの?
あまりにもだるくて、床にころりと寝転がる。
昨日にドアを開いて、ルーナちゃんが飛び出していった。
ドアは開けっ放し。
ああ、そうか、この世界は自動ドアでもないし、ドアクローザーのような便利なものもないのかと思ってぼんやり眺めていたら、開いたドアから、角ウサギと羽猫も出て行ってしまった。
ぎゃーっ!事件だ!
逃げた、ウサギと猫が家から出て行ってしまった!
探しに行かないと、まずいのでは?
力が入らないけれど、必死に立ち上がる。そして、倒れた。
「無理でしゅ……」
3歩でうつ伏せで床に寝転ぶ。
「ルーナお姉ちゃんが食べ物狩ってきたよー!」
ちょっと意識を失っていたのかな。
ルーナちゃんの声で少し顔をあげると、どさっと、目の前に何かが置かれた。
「美味しいよ、あのね、柔らかくて食べやすいの!」
真っ赤に染まった牙から点々と血が落ちてる。
「今日は牙だけでしとめることができたから、暴れて肉が固くなってないと思うよ~」
ふりふりと尻尾を振っている、サーベルフェンリル……。
どうやら私の目の前に置かれたのは、何らかの魔物か獣のようだ。
「にゃぁ」
ん?
猫の鳴き声がしたと思って顔を動かすと、羽猫がぽいっと私の横にでっかい蛇を落とした。
ぎゃぁっ!
まさか逃げたんじゃなくて羽猫さんも私のために獲物を取りに行ってくれたのか!
「きゅっ」
鳴き声というより、まるで体育館シューズと床がこすれた時のような音に反対側に顔を向けると、血まみれの角兎の顔が目の前にあった。
え?怪我?怪我なの?
焦るってよく見ると、血は上からどくどくと垂れてきていた。
角に、でっかい鼠みたいな獣だか魔物だかがぶっ刺さっていて、そこから血がたれていたようだ。
角兎さんも、私のために狩りに行ってくれたみたい。
「みんにゃ、ありがとね……」
嬉しくなって涙がこぼれそうになったけど……。
「ルーナが採ってきたのが一番おいしいから、食べて」
ルーナちゃんが前足で私の方に全貌が見えない毛皮の何かをぐいぐいと寄せてくる。
羽猫が、にゃ、にゃとかわいく鳴きながら、私に蛇を寄せてくる。
角ウサギが、角に刺さった大きな鼠を私の上に差し出す。
うおお、蛇気持ち悪いぃ、鼠の血が垂れてきたぁ!
別の意味で泣きそうだ!
「ただいま、帰ったぞー」
ロッドさんの声が聞こえた。
「ぎゃっ!死んでる!」
ロッドさんが小さく飛び上がった。
「ちんでないっ!」
反射的に答える。
デジャブ。