18
内側は白いけど、外側は水色と銀色が混じったような不思議な色をしている卵の殻のかけらを鍋に充てる。
「おみじゅくだしゃいっ!」
と、お願いすると、すぐにルーナお姉ちゃんがコップにお水をついで来てくれた。
……うん、なんか器用だね。その体で、いろいろできるんだね。
というわけで、磨くよ!
スキル磨研発動!と、心の中でつぶやき、鍋のまずは内側を少しの水と卵の殻でごしごし。
あっという間にピッカピカ。
続いて、裏側の真っ黒なとこ……。鍋をひっくり返そうとして私がひっくり返って椅子から落ちた。
鍋、重たすぎるでしょう!
ルーナお姉ちゃんがすぐに私をくわえて立たせ、それから鍋を床にひっくり返しておいてくれた。
「ありがとね」
にこっとルーナお姉ちゃんにお礼を言うと、サーベルフェンリルのルーナお姉ちゃんの牙がキラリンと光った。
あ、うん、どや顔だ、どや顔。
磨きがいのある真っ黒な鍋の底を、卵の殻を当てて磨き始める。
「ごちごち」
さ行が相変わらずうまく言えない4歳児。
「ごちごち」
さ行もしっかり言えるはずのルーナお姉ちゃんが私の真似をしてごちごち言う……。
うん、気にしない。相手はお姉ちゃんといいつつ、子供。前世の私は大人。
「ごっちごーち」
「ごっちごーち」
私の声に合わせてルーナが合いの手のように繰り返す。
なんだかちょっと楽しくなってきた。
ぐにゅにゅ、楽しいけど、幼女の力だと弱すぎるのか、体重かけてごしごしこすっているのに、黒焦げはちっとも綺麗にならない。
「あ、もちかちて」
スキル磨研発動!と、心の中で唱えるのを忘れてたわ。
「ふぎょっ!」
何ということでしょう。
怪しげな通販番組の洗剤を使ったみたいに「力を入れなくても、するんと撫でるだけで汚れが落ちます!すごいでしょ、すごいでしょ!驚きの洗浄力!」
ってくらい、鍋の焦げがつるんと落ちてあっという間にぴかぴかだ。
ひと撫でで黒こげが落ち、ふた撫ででつやが出る。三度目に撫でると、なんだかキラキラっと光る気がする。4度目5度目は特に変化なし。
ということは、同じ場所を3度磨けば経験値が得られる状態になるってことなのかもしれない。
磨くよ。
「ぴっかぴかー」
「ぴっかぴかー」
幼女の手に握れる大きさの卵のかけらなので、いくら汚れが楽に落ちると言っても、手を動かす回数は多くなる。
ふぎゅー、腕が疲れてきた~。
ちょっと休憩。
手を止め、ちょうど半分磨き上げた鍋の底を見る。顔が映る。
「ふぎょ、まるで鏡でちゅ」
まぁ、丸い形なので、ゆがんだ顔に移ってるんだけども。
「ふえ、ふへへ、ふへへ」
鏡のようにぴかぴかになったなべ底を見て思わず笑いが漏れる。
すごいスキルじゃない?
これ、すごくない?
研ぎ師になりたい私に取って、これ以上ないくらい素晴らしいスキルなんじゃない?
剣を早く磨きたい。いや、研ぐ能力の方はまだ未知数だけど、研ぐ能力はいまいちでも、これだけ磨く能力が高ければ……。
磨き屋になれるのでは?
家宝級の素晴らしい剣も磨かせてもらえるのでは?
と思っていたら、ルーナが私の顔が映っていた鍋をひょいっと器用に足で動かし、真っ黒な方を私に向けた。
あ、うん……。
宝剣とか、きっと重たくて持てないね……。さやから抜くこともできなきゃ無理かも……。
前世知識からすれば、レベルが上がればHPとかMPとかが上がるとともに、力も強くなったりするよね?
ということは……。
研ぎ師になるためには、とにかくレベルを上げる!この非力を何とかするために、レベル上げを頑張る!
魔物倒さなくても磨くだけで経験値がたまるのだ。幼女でもレベル上げがし放題!
「ふひょひょひょひょー!」
「ふひょひょひょひょー!」
いや、不気味な笑い方しないで、ルーナ。
え?私の真似しただけ?
……。ごしごし。
ごしごし。
「綺麗になっちゃ!」
磨くこと、体感15分くらい。実際はもう少し早かった?