17
「本命はこっちでちゅ!」
鍋!
ちょっと焦げ跡が付いた鍋がかまどにある。
焦げは、研磨剤入りクリーナーやらスチールたわしやら、便利な道具がないこの世界ではなかなか落としにくいのだろう。
もし、それが、簡単にきれいになるなら、磨研スキルがちゃんと発動してるってことだよね!
正直爪や角や歯ではあまり実感できなかった。
かまどから鍋を降ろして真っ黒になっている底とか磨こうと思ったのに……。
「むりでちゅ……鍋が重たくて持ち上がらないでちゅ……」
木箱を踏み台になんとか手が届いたけれど、幼女の力じゃ鍋が重たすぎて持ち上がらない。
鍋ごときと思ってはいけない。かまどに設置されているのは、始めちょろちょろ中ぱっぱ赤子泣いても蓋とるなという謎の呪文で思い描くようなお釜なのである。現代のペラペラの鍋じゃなくて、鉄だかなんだか分厚い金属で作られてるから重たいのだ。
心配そうに私の姿を見ているサーベルフェンリルの姿が目に入った。
「鍋を、テーブルの上に運んでほちいでちゅ」
身振り手振りを交えてお願いしてみる。
伝わるわけないよねぇ?と思ったら返事が返ってきた。
「分かったよ、ルーナはお姉ちゃんだから赤ちゃんのかわりに運んであげる」
ぎゃぁ!
驚きすぎて木箱の上からすってんころりんと落ちて頭を床に強打。
……ミチェは頑丈だから問題ないけど。
「大丈夫?」
心配そうな声で、私の顔を見降ろすサーベルフェンリル……の……。
「ル、ルーナねーね?」
まさか、ずっと聞こえていた10歳くらいの子供の声……って……。
「そうだよ!ルーナはお姉ちゃんだからね!赤ちゃんの面倒ちゃんと見るんだ!」
嬉しそうにしっぽが揺れているのが見える。
それから、私を猫の赤ちゃんのようにまたくわえると、部屋に運んで椅子に座らせてくれた。
落ち着こう。ここは剣と魔法のなーろっぱ。
サーベルフェンリル……フェンリルという名前ということは、高位魔物。いや、魔物でなくて人に害がないなら聖獣?神獣?
それとも、ロッドさんの従魔だから、襲われないだけ?うーん、知識が足りなさ過ぎてまったく分からない……。
混乱していいる間に、サーベルフェンリルさん……いや、ルーナさん……うーんと、ルーナちゃん?いや、ルーナお姉ちゃん?が鍋を運んでテーブルの上においてくれた。
ハンカチで鍋を磨こうと思ったけど、さすがに黒こげ鍋を磨くには絹のハンカチはもったいない。
何か鍋を磨くものはないかな?
ポシェットの中に手を入れて、鍋を磨く物よ出てこいという中途半端な要求で何かを取り出す。
「あ、これ……あの魔物にょ……」
出てきたのは、あの大きな鷲のような私をさらった魔物の巣にあった卵の殻のかけらだ。
厚みが2センチはあろうかという硬そうな卵の殻。4歳幼女の手の平サイズの小さめのかけらだ。
ピカーン。
前世の知識チート発動。大したチートじゃないけど、確か卵の殻って、研磨剤としても使えたんだよね。
まさに鍋の焦げとかシンクとか洗うのに使えたはず。ステンレスボトルなんかに卵の殻を入れて水を入れて振って洗うなんて技もあった。
鶏卵の卵じゃないけど、卵の成分的にそう変わらないのであれば……。
まぁ、金属の鍋だし、銀食器に傷をつけたら大問題だけど、幼女の力で卵の殻で金属の鍋に大きな傷をつけるなんてことはないだろうから、やってみよう!