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私が覚えていることといえば……。
「んと、夏は暑くて、春はお花がいっぱい咲いてて、冬は時々雪が降って、えっと、山じゃなくて……」
必死に覚えていることを口にする。日本でこれだけの情報があれば、半分くらい場所が絞れるんじゃないかな。
「あー、辺境ではないということか……。建物はどうだったか覚えているか?2階……階段があったか?」
「あった。うんと、ちょうだ、棟みたいなの見えてた」
ロッドさんがうーんと首をひねる。
「棟みたいなもの?……ということは村ではないな。それなりに大きな街だろう。となると」
うんとロッドさんが頷いてた。
「迷子であれば、ギルドに捜索依頼が出ているかもしれないな。ちょっと確認してこよう」
「ギ、ギルド?」
ギルドって冒険者が行くところ。冒険者といえば……。
剣士!剣士に剣士に剣士!剣が見られるパラダイス!
「ミチェも行くっ!」
抱っこをせがむように両手をロッドさんに向ける。
「ミチェ……ちょっとといったが、簡単に連れていけない場所、街は遠いんだよ。だからミチェは留守番だ、ルーナ頼んだぞ」
頭をぐりぐりと撫でると、ロッドさんは小屋を出て行った。
ジワリと涙がにじむ。
そのままドアに向かってトテトテと走りよると、ばたりと目の前でドアが閉まった。
ぐぬぅ。
でも、ちょっと落ち着こう。
部屋の隅で丸まっている角の生えたウサギに近づく。
従魔っていってたから、魔物でも安全だろう。
大事なのはモフモフ。英気を養うことだ。
「うちゃぎっ!」
もぎゅっと抱きしめる。
じたばたと暴れて私の手を逃れた。
ぐぬっ。
「うちゃぎっ!」
追いかけてもう一度抱っこ。
じたばたと暴れて、再び逃げ出す角のはえたウサギ。
「うちゃぎ……ちゃん……逃げちゃいや。うえーん」
幼女の精神は悲しさに耐えられないのだ。泣いちゃった。
「泣かせちゃだめでしょっ!じっとしてなさいっ!」
ルーナちゃんの声が聞こえる。あれ?まだルーナちゃんを一度も見たことがないけれど部屋にいたっけ?
好奇心が勝ち、涙が止まった。部屋の中に視線を向け見回すけれど、いない。
サーベルフェンリルが、角の生えたウサギを口にくわえて私の前にぽとりと落とした。
ウサギは逃げもせず、若干怯えた様子でおとなしくしている。
従魔にも力関係があるのかな。
……あれ?とすると、私は従魔ではないけれど、この中では最下層なのでは……?
もふもふもふと、気が済むまでウサギを撫でたあと、床に座り込む。
ロッドさんは、ギルドに私の捜索依頼が出ていないか確認に行くと言った。
本当だろうか?
私を家に帰してくれようとしてる?
家はどこだとか名前とか聞いてくれたよね?
……犬のおまわりさんの歌を思い出した。
おうちを聞いても分からない。名前を聞いても分からない。
……まさに、私、迷子の子猫ちゃんじゃないか!
猫になると言ったけど、そうじゃないっ!
「うーんと、捜ちゃく依頼……」
幸いにして目撃者、侍女が見てたんだもの。私が大きな鷲みたいな魔物に連れ去られるところ。
ってことはさ、魔物といえば冒険者の出番でしょう。ギルドに依頼しなくとも情報を求めて足を運ぶよね?
使用人がいた家の子であるのは確かなんだから、依頼も出すよね?
おとなしく待ってれば家に帰れそう。
そっか。むしろ迷子になったらその場でおとなしくしてた方が早く見つかるって言うもんね。
帰りたいとか言って移動してまた魔物にさらわれてとかしてたらいつまでも帰れないかもしれない。
それに……今なら家でできなかったこといろいろできちゃうのでは?
にやぁ。




