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ふんすふんす。
お鼻をぴくぴくさせながら起床。
なんだか、甘くておいしそうなにおいがする。
「ああ、起きたか!」
目に飛び込んできたのは白いでかいサーベルウルフ(仮)……本当の名前は知らない……の顔。
声の主はお兄ちゃん……名前はまだ知らない。
「誰でしゅか」
しまった!名前を聞くつもりだったのに……。
「ん?覚えてないか?昨日ミチェをこいつが保護したんだよ。魔物の森で迷子になってたんだろ。サーベルウルフに似ているが、二回り大きい。こいつはサーベルフェンリルだ。サーベルウルフと違って無差別に人を襲ったりしないから安心しろ」
「シャーベルフェンリル……」
まさかの、フェンリル……。ドラゴンとならぶめちゃくちゃ強いあれではないですかね?
「で、俺はロッドだ。こいつの……あー、今はえーっと、人間の街で冒険者をしている」
……冒険者かぁ!
じゃないよ、何その、人間の街でってわざわざ言うの。
……待てよ?人間じゃない街があるってこと?エルフの街とかドワーフの街とか、なんなら魔族の街とかも?
まさか、人間を飼うなんていう言葉が出るなんて……ロッドさん……魔族じゃないよね?
疑いの生差しを向ける。
しかし、私、前世の記憶がある幼女なのに、この世界のこと知らなさすぎるよね……。
だってさ、まだ4歳なんだし、仕方なくない?この間まで3歳、数えの3歳だから、日本でいうところの2歳だよ?記憶と前世知識はあるけど、肉体年齢も精神年齢も幼女。集中力もなければ、理性よりも本能が上回るお年頃。
「えーっと、ほら、これだ、これ。冒険者カードって」
何やらロッドさんが服の中から紐でつながった銀色のタグみたいなやつを引っ張り出して見せようとしてくれたけど、本能に忠実で興味の対象がどんどん移ってしまう私。
「こえ、なぁに?」
甘くておいしそうな匂いがする赤いものが入った鍋が気になった。ロッドさんが何者かよりも、この鍋の中身が何なのか、重要!
「ああ、これはな、ルーナが朝から森でお前に食べさせようとたくさんとってきたレッドベリーラの実を煮詰めたやつだ。まだそのまま食べるには酸っぱいからな、時間をかけて煮れば甘くなる」
ふお、砂糖を入れないで果物だけで作るジャムみたいなものか!
「ほら、食べるか?」
ロッドさんがパンにたっぷり出来立てのレッドベリーラジャムを載せて手渡してくれた。
よだれがたれそうになるのをなんとかなけなしの理性で押さえつけ、パンを口に運ぶ。
「おいちー!」
何これ。甘酸っぱい、酸っぱい少な目で、甘い。甘いといっても甘すぎずさっぱりしていてとても食べやすい。どれくらいの甘さかっていうと、砂糖をつけずに食べられるイチゴとか、酸味がないパイナップルとか、熟しまくったキウイとかそんな感じ。熟しすぎたメロンよりはイガイガ感がなくて……。
まぁ、つまり、ジャムのようになっているけど、味としては甘い果実。いくらでも食べられそうな味なのだ!
もぐもぐ。ごっくん。
「おにゃか、いっぱい……」
ごっくんすると、次のジャムをぬったパンを手渡され、気が付いたら食べやすいように大きなクッキーくらいの厚みと大きさにカットされていたパンを8枚も食べていた。
すっかり幼女の欲望が満たされると、前世の大人の思考が働く。