11
頑丈でも乗り越えられない壁、それは飢え。
「おかわり!」
空になったスープの皿を差し出せば、お兄ちゃんは私の頭をひと撫でして立ち上がった。
よし、いまだ!
パンを収納鞄に入れる。
こうして少しずつ食料をためていけば飢え問題も解決できる。……それにしても収納鞄が手に入ってラッキーだった。
鷲っぽいモンスターのおかげだね。
……って、ちがーう!
どんどんと机を叩く。
そうじゃない、そもそもあの鷲っぽいモンスターが私を連れ去ったせいで、こんなことになってるんだよっ!
「どうした?」
あ。しまった、机をどんどん叩くなんて、子供じゃないんだから!って、子供だったわ!
「ああ、パンも食べちゃったのか。まってな」
お兄ちゃんは、スープ皿をテーブルに置いてからパンを取りに行ってくれた。
持ってきてくれたお代わりのスープには、1度目よりもたくさんの具がはいっていた。もはやスープというより、具だ。
私がお腹がすいていると思って、いっぱい具を入れてくれたのかな?
お兄ちゃん優しいね。
スープを飲みきると、体が温まったのと、満腹になったことで、眠気が襲ってきた。
さっきまで寝てたはずなのに、うつら、うつらと舟をこぎだした。
ぐらりと頭が揺れ、バランスを崩した私はそのまま椅子から落下。
「うわ!大丈夫か!」
お兄ちゃんが慌ててるけど、大丈夫だよ。
ミチェは頑丈だもの。痛くもかゆくもない。眠気も飛ばない。
そのままむくりと立ち上がると、目の前に見えたモフモフにダイブ。
もふぅーん。
そのままモフモフにくるまってお休みなさ……むにゃにゃ。
「かわいい、ねぇ、かわいいよロッド。本当に飼っちゃダメなの?ルーナ、ちゃんとお世話するよ。魔物からも守ってあげるし、餌もいっぱい狩ってくるし、うんと、それから、それから」
「ルーナ、言っただろう?人間は飼えない」
「え、でも、でもルーナが拾ったんだもん。ルーナのだよ、一緒にいたいの!だって、死んじゃうよ?ルーナが飼ってあげなきゃ魔の森ですぐに死んじゃうよ?」
「……あのな、人間は飼うとは言わないんだ。一緒にいるのは……そうだな、保護するとか、面倒を見るとか、家族になるとか……うーん、別の言い方がいろいろあって……」
「分かった!ルーナ、赤ちゃんのお母さんになる!」
「くくくっ、ルーナがまだ赤ちゃんみたいなもんだろう。それにミチェは赤ちゃんじゃない」
「ルーナも赤ちゃんじゃないっ!」
「ははは、そうだな、まぁ、うん、お母さんは無理だから、お姉さんか?ミチェのお姉さんにはなれるかもな……とはいえ、その姿じゃ無理だぞ?」
「う、ぐぐぐ、分かった、頑張ってレベル上げて練習するっ!練習してミチェのお姉さんになる!」
「……だがな、ルーナ。まずはミチェがどうしたいか確認してからだ。迷子になっていただけなら家に帰してやらなくちゃだめだからな」
「えー、家に帰すの?」
「いや……家にというか、人間の街に……かな。魔の森に一人でいたなんて死んでくれというようなものだろう。毒草を口に入れられてもいた。そして、さっきはパンを食べたふりして鞄の中に隠していた。普段から食事も十分に与えられていなかったのかもしれない」
「そうだね、野菜しか入ってなくてお肉が入ってないスープなのにおかわりしてた。お肉がないのに文句ひとつ言わなかったよね、それどころか満足そうに食べてた。きっとお肉を食べたことがないんだ。お肉がおいしいの知らないんだ。ルーナお肉取ってあげる」
「……うーん、どうなんだろうな。年齢の割にスプーンの使い方は綺麗だったし、服装も綺麗なもんだ。どう見てもいいところの子に見える……貧しくて食べられなかったわけじゃなく虐待されていた、そして命を狙われている……というのは跡継ぎ問題でもあるのか?……どちらにしろ、ミチェが家に帰りたいと言っても簡単に帰すわけにもいかないよな。せっかく戻っても殺されたんじゃ……」
「ミチェを殺そうとする人間がいたら、ルーナが許さないっ!ルーナが噛み殺してやるっ!グルルルー」
ん?グルル……?
むにゃむにゃ。
「馬鹿ルーナ、怒りを抑えろ、魔力が駄々洩れだ」