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巡る季節の詩・季節の作品

バレンタイン・ウォー

作者: リィズ・ブランディシュカ




 とうとう、バレンタインの日がやってきた。

 バレンタインは恋の日だ。

 しかし、同時に戦いの日でもある。



 私は先輩にチョコを渡したいと思っている。


 先輩はかっこよくて、優しくて、少し影のある繊細なイケメンだ。

 私は先輩が、、前の年のバスケの大会に出場したとき、たまたま会場のお掃除スタッフとして、大会を見ていた。

 その時の先輩のキラキラ具合にやられて、恋に落ちたというわけだ。


 けれど先輩はかなりモテる方だから、チョコレートアタックをするとしても、きちんと渡せるだろうか。




 その日の午前八時。


 朝、学校の入り口で先輩を見かけたときはラッキーだと思った。

 一日ずっとチョコを渡せなくてヤキモキするのは大変だから、ここで渡しておけば後が楽だと思ったのだ。


 でも、先輩のまわりには怖いお姉さんたちが張り付いていた。


 彼女たちは他の女の子がチョコを渡せないように、近づいてくる女の子を威圧していた。


 それでいて、堂々と自分たちはチョコを渡して、先輩にべたべたしている。


 ずるいと思ったが、めちゃくちゃ怖かった。


 チキンな私は、目が合っただけで、それでもう勇気がふっとんでいってしまう。


 しょんぼりしながら自分のクラスに向かった私は、クラスメイトの男子にからかわれた。


「お前は血気盛んなのに、意外と臆病だからな。どうせ、好きな奴にチョコを用意しても、直前になって怖気づいて渡せなくなるに決まってる」


 その通りだったので言い返せなかった。


 ものすごく悔しい。


 なのでお昼にまたチャレンジすることにした。




 先輩がいるクラスに行って、今度こそチョコを渡そうと行動。


 でも、無理だった。


 先輩は、先生の手伝いをしていたからだ。


 授業の準備をしているらしい。


 地図を黒板にはりつけているし、資料らしきものも他の生徒に配っている。


 私は分別のつかない女ではないのだ。


 真剣な彼の邪魔はできない。


 だから、お手伝いが終わるまで我慢していたのだが……。


 そのままずっと待っていたら、お昼の時間が終了。


 結局チョコを渡せないまま、クラスに戻った。


 クラスメイトの男性生徒は、「またか」という目で私を見てくる。




 数時間後。


 最後のチャンスがやってきた。


 担任の先生から帰りの伝達事項を伝えられた後、マッハで教室を飛び出して先輩を待つために下駄箱の近くをうろうろ。


 下校しに下駄箱へやってくる生徒たちの中から、一番に先輩を見つけるつもりだ。


 しかし、いくら待っても先輩は現れなかった。


 なんでも、具合が悪くなったので少し早めに帰らせてもらったらしい。


 偶然近くを通った保健の先生が、私に教えてくれた。


 教えてくれた理由はこんな感じ。


「あの子はモテモテだものね。下駄箱の近くにいるなら、どうせチョコを渡すために待っているんだろうと思って」


 私はがっかりして、その場に膝をついてしまった。


 そんな私に「馬っ鹿じゃねーの」と言葉のナイフで心臓をつつきにくるのは、毎度のクラスメイトだ。


 彼は私にどうしてそんなにも意地悪なのだろうか。


 人の不幸をそんな風にするのは良くない。


 彼は、先輩のように優しくないし、私が失敗するたびにせせら笑ってくる。


 先輩の爪の垢を煎じて飲ませてやりたかった。


 けれど、こういう時にかぎって人間の良心的なものをのぞかせるからやっかいだ。


「俺の姉貴が同じクラスだから、姉貴に言っといてやるよ」


 そう言って私の手からチョコをひったくろうとした。


 しかし良いのだ。


 私は自分で決めた期間内にチョコを渡せなかった。


 勝負をする時に、肝心の事ができなかった敗北者。


 他人のやさしさに甘えて、自分の恋路をそれるような真似はしたくない。


「どこの武士だよ」とつっこまれたが、これが私のやりかたなので仕方がない。


 呆れた彼はそうかよといってその場を去っていく。


 来年は先輩、卒業しているなとぼんやり頭を働かせる。


 その時のバレンタインは、自分用チョコか、友チョコでも作ってるだろうか。


 いいや、また自分でルールを設定して、先輩に突撃していると思う。


 義理はともかく、間違っても、あのクラスメイトに本命チョコレートは渡さないだろう。


 簡単にころっと横道にそれたりはしない。


 優しくされたからと言って、簡単にほかの人間に靡いたりはしないのだ。


 私はあきらめの悪い女。


 また次のバレンタインでは、私らしく戦うだろう。




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