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評議会の理 ⑥

 本当にこれはベクタークイーンの体内なのか、疑問に思う者は少なくないどころか、おそらく九割近くがそう思っている筈だ。

 まずこれまでベクタークイーンの体内を調査した者は一人もいないうえに、相対して生き延びた者すらいない。リオは確かに生き延びはしたが、彼はずっと逃げていた筈なのにどうやって撮影したのだろう。

 ゆえにまずはその辺の説明をする必要があった。

 

「これは逃げながら密かにドローンを飛ばし、隕石に隠れながらベクタークイーンの体内へ侵入した時の映像です。

 ドローンが何かについては割愛します、遠隔操作できるカメラだと思ってください」

 

 エンシワ連盟にドローンの概念がない、それもそのはずでそもそも魔法を使えばドローンを使わなくても透視も出来れば瞬時に遠方の映像を見れるので必要無いのだ。勿論魔法で見れる距離と範囲は限られているが、わざわざドローンを使って見るよりも遥かに効率が良い。だからこそ、これまでクイーンを調べようとしても、充分な調査結果を得られる前に死んでしまうのでクイーンの情報が少なかったのだ。

 今回リオが使ったのはキュービックで手に入れたドロイドの一種だ。キュービックは機械の国なので魔法を使う事がない、全てを魔砲で補っていたためドローンを保有していたのだ。

 魔砲を魔法の補助として使っているか、魔砲を魔法の代替として使っているか、たったそれだけの思想の違いで文明が大きく変わる。

  

「ベクタークイーンの体内は大きな筒の真ん中に一本太い管が通っています。そして管からまた管がいくつも枝分かれしており壁に貼り付いています。

 そして管や壁にハニカム構造のオブジェクトがあるといった感じです」

 

 まるで街のよう、そう思った人は一人や二人ではなく、中継を見ている幾億もの人々が感じていた。

 

「ここで大事なのは作りではありません、映像では分かりづらいですが。ここには重力があります」

 

 重力のメカニズムは未だ解明されていない、それは勿論エンシワ連盟でも同様だ。一応重力という概念はあるものの、それが引力と遠心力の合力である事と時空の歪みである事以外なにもわかっていない。

 むしろ、地球とほぼ同じ理論で落ち着いている事の方が驚きだ。

 このベクタークイーンの体内に重力があるという事実は、それなりに知識のある者にとっては驚愕を与えたが、逆に科学知識の乏しい人々にはあまり響く事は無かった。

 重力なぞ普通に生きていればまず知る必要もない事なので致し方ない。

 

「壁際、つまり外側に向けて引力が働いているんです、動画をラボラトリーに頼んで精査してもらいましたが魔法を使った形跡はありません」

「つまり、遠心力で重力を発生させているわけですな。なるほどクイーンの大きさが実際の半分という理由も納得した」

 

 これは上院議員の一人だ。残念ながら発言をした上院議員が誰かはわからないが、おそらくかなり知性の高い人なのだろう。そしてこの様子だと論理的な思考と思われるので好感は上々かもしれない。

 

「クイーンの下半身は円筒型です、つまり下半身を回転させ、遠心力で引力を発生させて擬似重力としているのです。当然真ん中にいけば無重力になるので、壁際にいかなければ重力は得られません」

 

 何故このような仕組みなのかはまだ確証をもてないが、おそらく空を飛べないベクターのためにしているのではないかと推測している。

 

「クイーンの下半身と上半身を接合する部分、ここを破壊して分離する事が出来ればクイーンの身体は半分になります」

「作戦はわかった、しかし分離したとしてどうする? 上半身だけにしたとしても奴は生きているだろう」

 

 この上院議員はどうやら戦略家のようだ。

 

「その通りです、上半身だけでも生きているというか、下半身は人の身体でいうデキモノのような物と思われるのでクイーンの生体活動には影響がでない筈です」

「ではどのように叩くつもりか。例え半分でも七キロメートルは脅威だ」

「ですが、七キロメートルならクイーンを動かす事も可能な筈です」

 

 ここからが本番だ、クイーンの上半身と下半身を分離後、クイーンの本体である上半身を確実に倒さなければならない。

 しかしクイーンの生命力は桁違いに高くそのままでは勝てない。

 

「クイーンは魔法で自分自身を強化しています。エーテルがある限りクイーンを倒す事は難しいでしょう」

 

 そうだ、エーテルがある限りクイーンは何度でも再生して何度でも高火力の魔法を放ってくる。

 

「だからこそ、クイーンをエーテルの存在しない虚無空間に押し込み、そこでトドメをさすんです」



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