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評議会の理 ①

 閉じた瞼の裏が赤く輝いている。右手を翳しながらゆっくり目を開くのだが、どうやら直接太陽を見ていたらしく目が開けられない。

 リオはやや半目でそっぽを向くと世界が横向きになっていた。そこでやっと自分が今の今まで寝ていたのだと気付いた。

 そういえばあまりにも天気が良かったからそのまま縁側で昼寝したんだった。

 いつも寝る時は頭の横に置いてある携帯端末を手に取って、太陽光を避けてうつ伏せになりながら時間を確認する。

 ちょうど十二時だった。

 

「お昼……か」

 

 寝ていたおかげか、そこまでお腹は空いていないのだが。お昼だと思うと不思議と何か食べたくなってくる。台所に行こうとした矢先、視界の端にお皿が映ったのでそちらに目をやると、なんとブドウがあった。

 ご丁寧に「お昼ご飯」と書かれたメモまで添えて。

 

「ブドウが昼飯って」

 

 別に珍しいことでは無い、リオの実家はブドウ園をやっており、毎年収穫の時期になると捕れたてのブドウをご飯代わりに出してくる事があるのだ。

 

「なんだ起きてたのかリオ」

「兄さん?」

 

 食べ慣れたブドウを一個ずつ食べていると、ブドウ園の方から兄がやってきた。空調着にタオルでいかにも「いい汗かいた」と言わんばかりだ、手にはお弁当の包みがあるのでどうやらお昼ご飯を食べに戻ったらしい。

 

「兄さんはお昼ご飯? つーか家なのに弁当作るのかよ」

「ばっかおめぇ、気分が大事なんだよ」

「ふ〜ん」

 

 トウモロコシを食べる時みたいに豪快にかぶりついてブドウを一気に食べる。果汁が零れて服につくが気にしない。

 

「リオも収穫手伝えよ」

「えー、めんどくせぇ」

「お前が来たら早く終わりそうなんだがな」

「バイトは何人集まったの?」

「十五人」

「結構集まったね」

「まあな、そうだリオがこないだ言ってた方法試したらつまみ食いする奴がいなくなったぞ」 

 

 毎年収穫のアルバイトを雇うのだが、必ずと言っていいほどつまみ食いをするバイトがいるのだ。それが売物にならない不良品ならまだいいのだが、大体売物を狙うためタチが悪い。

 そこでリオはつまみ食い対策として今年からブドウを自由に食べても良い場所を作るよう提案したのだ。


「自由に食べれる場所あるならわざわざ隠れて食べる必要ないしな、まあそれでも食べる奴はチキンレースしたいだけの奴さ」

「お前、こういう知恵はよく回るよなあ」

「それ褒めてんの?」

「褒めてんだよ、意外とリーダーとか向いてんじゃないか?」

「しーらね、興味無い」

「もったいない、せっかく異世界に行くんだからそういうの目指していいんじゃないか?」

「まだ半年も先なのにそんな先の事考えねぇて」

 

 高校を卒業するのと同時にリオは異世界アルファースへ行くことになっている。そこで魔法を学ぶのだが、生憎リオにはその先のビジョンは無い。

 

「言っとくが、俺はお前が大魔法使いになって帰ってくるのを期待してんだぜ?」

「人間はエーテル器官が無いから魔法は使えないんだって、俺が勉強するのは魔砲の方、機械を通した魔法の事だ」

「俺達農家にその違いがわかるとでも!?」

「いやわかりやすいだろこの違いは!?」

「わからん! 俺は兄貴と違って体力専門だからな」

 

 三人兄弟の末っ子、それがリオのポジションだ。一番上の兄は東京の大学で経営を学び、二番目の兄はブドウ園に就職している。

 二人の兄がブドウ園のために働いているためか、両親は末っ子のリオに対しては自由にしていいと言って放置している。

 

「ま、俺は好きにやるさ」

「俺も兄貴も親父達も、お前が大賢者になるの期待してるんだぜ」

「ジョブチェンジしてんじゃん」

 

 いつもの日々、毎年訪れる収穫の時期に交わされる普通の会話。話した内容なんて直ぐに記憶の片隅に追いやられて忘れるだろう。

 そんな、なんて事ないくだらない、かつ、懐かしい日の思い出をリオは夢見ていた。


 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「ん、眩しい」

 

 閉じた瞼の裏が赤く輝いている。右手を翳しながらゆっくり目を開くのだが、どうやら直接窓から差し込む光を見ていたらしく目を開くのが難しい。

 リオはやや半目で周りを見渡すと、白い天井と白い壁が目に入った。病院のように見える、そういえば背中が柔らかい。ベッドの上で寝ているのだろう。

 

「ここ、どこだろう……ん?」

 

 ふと、気配を感じて顔を横に向ける。ベッドの脇にポンチョを羽織った男性がそこにいた。

 

「えと、どちら様?」

「おはようございます。ワタクシ、サマンタランと申します」

「はあ、どうも」

「落ち着いて聞いてください、あなたが寝ている間に外の世界は二百年が経ちました」

「マジ?」

「嘘です」

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