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あの艦を目指せ! ⑥

「目標まであと六光年、あと一回のエーテルドライブでつきますねぇ」


 サマンタランの報告は一同の胸をホッと撫で下ろしたのと同時に一抹の緊張を与えた。終わりが見えてきた事の安堵と、まだ終わっていないことの緊張が同時にやってきたのだ。

 

「ヒデさん、次にエーテルドライブができるのはいつですか?」

「八時間待ってくれ、伝導機とインジェクターがイカレやがった、リアクターの再調整も考えるとすぐにはできない」

「ワタクシ手伝ってきますぅ」

 

 その場で艦を制止させて修理が終わるのを待つ、明日の昼というと半日以上も時間がある。二人には悪いが、先に睡眠をとらせてもらおう。

 

「ボクは寝ますね、ロビンソンさんも休んでください」

「じゃあ一緒に寝ようよー、女子トークしよお?」

「はいはい」

 

 同じ女性だからかそれとも精神年齢が近いからかはわからないが、ドクターとロビンソンの仲は急速に深まっていた、特にロビンソンの性格がドクターと反対に快活でグイグイ詰めるタイプなので尚更。

 ブリッジを副長に任せて二人は部屋に戻る、ロビンソンは女子トークがしたいと言っていたが、ドクターは死ぬほど眠いので早々に寝るだろう。

 問題が起きたのはそれから五時間後の事だった。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 船内に危険を知らせるレッドアラートが鳴り響く、耳が痛むかと思うくらいのアラームで飛び起きたドクターとロビンソンが、慌ててブリッジに駆け込んで所定の位置につく。

 寝巻きの上から白衣を着ただけのドクターが副長へ尋ねる。

 

「何があったんですか!?」

「ベクターです」

 

 レーダーをみると船の前方に小型ベクターが三体いるのがわかる。最悪なのはこちらへ徐々に近づいていることだ。

 

「ねえ! あれってアタシ達に気づいたのかな?」

「まだ分かりません、どちらにしろこのままですと接触してしまいます」

「ヒデさん! エーテルドライブはできますか?」

「まだ無理だ!」

「ワタクシも手伝っておりますが、あと二時間はお待ちください」

 

 エーテルドライブで逃げる事は不可能。周りは隕石が幾つも漂っているがどれも小さいので隠れるには適さない。

 つまり戦うか、一心不乱に逃げるかだ。

 

「向こうにマンティスベクターはいませんので正面突破するのも有用です」

「アタシなら完璧に操縦して逃げ切ってみせるよ!」

「はい、じゃあ」

 

 正面突破してください、と言おうとした所で言葉が詰まる。いくら小型ベクターといってもサイズはブリタニア号の二倍以上あるタガメベクターだ。

 その身体で体当たりされるだけでブリタニア号は粉砕されるかもしれない。かと言って逃げたところで、その逃げた先にベクターがいたらどうするかとなる。こんな近くにベクターが三体とはいえ群れを成しているのなら、ブリタニア号は既に囲まれているのではないか。

 と、悪い想像ばかり掻き立てられる。

 

「どうしたの? ドクター」

 

 寝癖で髪がボサボサのロビンソンが心配そうに尋ねる。

 

「いえ、あの……に、逃げましょう」

「えっ!?」

 

 せっかくロビンソンがやる気になっていたのに悪いが、ドクターは逃げる選択肢をとった。確実な戦闘よりも、まだ戦闘の可能性が低い方を選んだのだ。

 確かに副長やロビンソンの言う通り勝つ可能性は非常に高かっただろう、しかし何が起こるかわからないのが戦いだ、それで誰かが死ぬかもしれないと思うと「GO」サインを出すことができない。

 いや、というよりも、自分の言葉一つで誰かの生死が関わるのかと思うと重くて吐きそうになるのだ。

 

「横から回り込むようにして逃げましょう、敵に見つからない様に」

「かしこまりました、スキャンをマメにかけます」

「わかった、一旦離れてから回り込むね」

 

 ゆっくり静かにブリタニア号が発進してベクターから距離をとり始める、副長のマメなスキャンとルートセット、ロビンソンの操縦技術によって実に軽やかに逃げおおせる事ができた。 

 幸い逃げた先でベクターの反応はなかった。

 安全を確保できたところで安心から腰が抜けてその場で項垂れた。

 

「艦長て、こんなにも重いものなんですか」

 

 初めてガリヴァーに乗ったあの日、半ば押し付けるようにしてリオを艦長にした事を今更ながら激しく後悔するのと同時に、数ヶ月間も艦長を務めた彼に敬意の気持ちが現れた。

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